Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文全文

第121巻第7号

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特集 インターネット依存の現状と課題
久里浜医療センターでのインターネット依存症治療
中山 秀紀
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター
精神神経学雑誌 121: 562-566, 2019

 近年インターネットは急速に普及し,われわれの生活に必要不可欠なものになっている.一方でさまざまな負の側面も知られており,インターネットやゲームの依存的使用もその1つである.DSM-5やICD-11でもゲーム障害関連の診断基準が収載され,医療分野でもこの問題に取り組む土台ができたといえよう.当センターでは2011年よりインターネットやゲームの依存症者への診療を行っている.通常の外来診療に加え,専門デイケア,集団療法,個人カウンセリング,入院治療,治療キャンプなどを提供している.インターネット依存症関連疾患に関係諸機関が連携して取り組み,青少年の健全な育成に寄与することが望まれる.

索引用語:インターネット依存症, ゲーム障害, インターネットゲーム障害, 治療, 認知行動療法>

はじめに
 本邦では1990年代より急速にインターネットが一般に普及し,2017年の総務省による通信利用動向調査では,全世代の個人利用率は80.9%,13~49歳の世代では100%近く,6~12歳の世代では73.6%とされている.同調査では,スマートフォンの利用率は6~12歳の世代は32.4%,13~19歳では75.2%,20・30歳代では9割近くとされている.2017年に発表された内閣府による低年齢層の子どものインターネット利用環境実態調査では,3歳以上のインターネット利用率は3割を超え,6歳以上では5割近くであったと報告されている.インターネットはそれまでの情報処理機器と異なり,瞬時に双方向に大量の情報を取り交わすことができるために,その技術はさまざまな分野に応用され,現在最も注目されている産業の1つである.しかし負の側面も次第に注目されるようになり,青少年のインターネットの依存的使用もその1つである.自記式質問票による中高生の10万人規模の調査では,中高生男子の6.2%,女子の9.8%にインターネット依存症が疑われるとされている5).インターネット依存症は重症化・長期化すると,青少年世代の場合には,遅刻・欠席,学業不振,中退,生活の乱れ,精神状態の悪化,孤立,家族関係の悪化,社会参加の減少・消失などさまざまな悪影響をもたらす可能性がある7).さらにインターネット依存症にはさまざまな精神疾患を合併することが知られている1)14).このような現状から,2013年に発表されたDSM-5では今後の研究のための病態の項目でインターネットゲーム障害が,2018年に発表されたICD-11ではゲーム障害が包括されることになり,この分野でも医療での対応(診断や治療など)が求められるようになりつつある.インターネットやゲームの依存的使用に対して,認知行動療法などの心理療法の有効性や,また合併精神疾患・発達障害に対しては,それらに応じた薬物療法の合併症とインターネット依存症に関する有効性が報告されている8)9).久里浜医療センターでは,それまでの依存症治療の経験などを活かし,2011年7月よりインターネット依存症治療研究部門(Treatment of Internet Addiction and Research:TIAR)を立ち上げインターネット依存症の診療に取り組んでいる.本稿ではその取り組みについて述べる.

I.診療の概要
 2011年の開設当初は主に通常の外来診療のみであったが,次第に受診者が増加し,専門デイケア・家族会・個人カウンセリング・入院プログラム,治療キャンプ(青少年教育振興機構が主催)などが徐々に整備され現在に至っている.約半数が本人受診であり,残りの約半数が家族相談である(家族相談の後,本人も受診することもある).男女比は5:1程度であり,7~8割を学生世代(特に中高生)で占めている.未成年者の場合,保護者に連れられて来ており,受診自体やや拒否的であることも珍しくなく,当初は,依存やその悪影響についても否認しがちであることも多い.受診者の多くは1日の大半をインターネットやゲームなどの時間に費やし,昼夜逆転などの生活の乱れや不登校などの深刻な悪影響を抱えている.また広汎性発達障害や注意欠如・多動性障害などの発達障害,社交不安やうつ病などを合併している例も多い.

II.外来診療・個人カウンセリング
 初診時には主に臨床心理士がインテークにかかわり,特に幼少期の発育,現在の生活状況,インターネットやゲームなどの使用状況,悪影響などの詳細を聞き取る.また身体的検査(採血,心電図,骨密度,体力測定,頭部MRI,脳波など)や心理検査を行う.体力測定で身体能力の低下の顕著な人が多い.医師診察では,日記などを用いて生活状況の把握や指導,合併精神疾患・発達障害に対する薬物療法などを行う.集団療法に拒否的もしくは困難な人については,認知行動療法やSocial Skill Training(SST)などをもとにした個人心理療法も行っている.

III.専門デイケア
 当センターではインターネット依存症専門デイケアをNew Identity Program(NIP)と称して,毎週月曜日と水曜日に実施している.重症なインターネット依存症者はあまり運動せず(動くこと自体あまりせず)に,長時間インターネットやゲームをしている傾向にあるため,午前中は体育館などでスポーツプログラム(卓球やバドミントンなど)を行っている.その後,昼食をはさんで,午後は認知行動療法やSSTなどをもとにした集団心理療法を行っている.時々近隣へのハイキングや調理実習などのイベントも行っている.重症なインターネット依存症者では,オンライン上以外のコミュニケーションをとることが少なくなるので(家族からも孤立していることも稀ではない),NIPなどを通じて現実世界でコミュニケーションをとることは有用である.参加中は,スマートフォンやゲーム機を取り扱わないこともルールの1つであり,一時的にでもこれらの電子メディアから離れた時間を過ごしてもらうことも目的の1つとしている.

IV.家族会
 医療者から患者本人への介入は重要であるが,患者に一番接している時間が長いのは家族であり,家族からの適切な介入も重要である.当センターでは,インターネット依存症者の家族同士が,スタッフを交えた安心できる環境で,それぞれの悩みや不安などの共有,問題の解決に向けて意見交換,インターネットやオンラインゲームやそれらの依存に関連する情報交換・知識の習得,家族の対応や依存症者の心理について,理解を深めることを目的に家族会を実施している.2018年は月1回のペースで実施した.主な内容としては,家族の接し方や最近の依存しやすいインターネットコンテンツやオンラインゲームの概要,インターネット依存症に関する知識などについて小講義を行い,その後参加家族同士の意見交換などを行っている.3,4ヵ月に1回はワークショップ形式で実際に家族の困っている症例などについて家族同士で意見を出し合う会を行っている.

V.入院治療
 他の家族がインターネットを必要としている,本人がインターネットやゲームを断つことを拒否するなどの理由から,家庭においては依存症者本人がインターネットやゲームから離れることは困難であることが多い.身近に依存物(依存を呈しやすい物質や行為)であるインターネット機器があると,ついインターネットやゲームを利用する時間が延びてしまい,結局は依存的な使用から脱却できないことも多い.さらに不登校状態など家にいる時間が長い場合には,必然的に空き時間が増え,インターネットやゲームの利用時間も長くなり,結果として依存症が悪化してしまうことも多い.環境的にインターネット機器から離れること(インターネット依存症者の入院では,病棟内ルールでインターネットやゲームなどの利用を禁止している)によって依存度を下げ,集団療法などへの参加によって退院後のインターネットやゲームとの付き合い方を考えてもらう目的で入院治療も提供している.その概要は,NIPや作業・運動療法,ショートレクチャーなどを組み合わせた入院プログラムを行い,入院期間は約2ヵ月程度と設定している(学校や家庭の事情などで短縮や延長はありうる).

VI.治療キャンプ
 韓国ではインターネットが日本よりやや早く一般に普及したこともあり,現在のところインターネット依存症対策に日本よりも積極的である.青少年を対象とした「Rescue School」も依存症対策の1つであり,全国的に青少年宿泊施設などを活用した宿泊型の治療キャンプを提供している4)6).日本でも韓国の例などを参考に2014年より国立青少年教育振興機構が中心となって,青少年交流の家を利用したインターネット依存症治療キャンプ(Self-Discovery Camp:SDiC)を毎年行っている.当センターは参加者の募集と心理療法・家族療法などの医学的支援を中心に協力している.SDiCの概要は,十数名程度の男子中高生(一部大学生なども含む)のインターネット依存症の参加者に対して,インターネットやゲーム機器を排除した環境下で,8月下旬頃に8泊9日にわたって,インターネット依存症に関する認知行動療法などをもとにした集団心理療法,個人心理療法,講義などの治療的なアプローチと,トレッキングや野外調理など自然環境を活かしたアクティビティ,参加家族に対する家族教育などを行っている.さらに11月上旬頃に2泊3日のフォローアップキャンプも行っている.このキャンプには医師,臨床心理士,看護師,精神保健福祉士などの医療スタッフのほかに,青少年交流の家のスタッフ,参加者と寝食をともに過ごすメンター(大学生ボランティア)など多数のスタッフがかかわっている.特にメンターは,参加者と近い世代であることから,頼りになるお兄さん(お姉さん)役となる.大人世代よりもより近い関係となりうるため,より深いかかわりができる.メンターの参加はキャンプ自体に非常によい影響を与えているようである.参加者・家族のキャンプに対する評価はおおむね良好であり,結果として参加前よりフォローアップキャンプ前のほうが,インターネットやゲーム利用時間が減ったと報告されている3)10).2018年現在,秋田県や兵庫県,神奈川県などでも同様の取り組みが行われているようである.

おわりに
 最近までの多くの研究から,特に多くの青少年にとってインターネットやゲームが依存物であることはほぼ間違いないであろう.最近まで依存物であることが明白なものに関しては法律で制約があり,おおむねドラッグなどは全面禁止に,アルコールやタバコ,一部のギャンブルなどについては,未成年者に関しては禁止し,成人以降に関しては自己責任で付き合ってもらうというスタイルであった.つまり依存症は成人(中心)の疾患であり,その罹患,治療,回復は自己責任論で考えられてきた.そして未成年者については法律で禁止することによって依存物から保護していた.しかし現代の青少年にインターネットを禁止することはもはや困難であり(ゲームは禁止できるかもしれない),青少年はインターネットやゲームという依存物と上手に付き合うという難しい課題を課せられている.
 しかし,未成年者は完全に自己責任のとれる存在ではないため,インターネットやゲームに依存した場合にも,保護者は未成年者の生活を維持せざるを得ない.未成年の依存症者は生活が保障されているがために,当面依存的な(インターネットやゲーム漬けの)生活を維持できてしまう(成人の場合であれば,依存症によって仕事ができなくなるなど生活が破綻すると,その多くが生活の立て直しのために依存症の対応に迫られる).特に中学生以降では,保護者が強制的にインターネットやゲーム機器を取り上げようとしても,依存症者からの暴言や暴力を受け,失敗に終わることも多い.結局,依存症者は回復を先送りする選択を繰り返しているうちに,回復が難しくなってしまうことも稀ではない.
 また未成年者のインターネット依存症者では,発達障害の影響が強く出がちである.特にコミュニケーション障害(単に現実の世界で他者とコミュニケーションをとることに自信がないということも多い)や社交恐怖のために,集団療法や自助グループモデルに導入が困難であることも稀ではない.インターネット依存症関連疾患には,従来からの一般的な依存症治療とは異なるアプローチも必要であろう.
 一方でインターネット依存症関連疾患は,知られていない面も多いが,おおむね中高生がピークで成人世代では罹患率が低下する傾向11)12)15)にある.治療や他のきっかけなどで,登校や就職などの社会参加が軌道にのると,依存度が軽減することもよくある.個人差はあるものの,重症化したときには医療で丁寧かつ濃密にかかわる必要性があるが,軽症化したら間欠的な(例えば長期休み中のみなどの)フォローアップでもよいと思われる.
 アルコール依存症2)同様に,インターネット依存症関連疾患も予防することは可能であると考えられる.一部の教育・行政機関では予防啓発教育16)や,インターネットやゲーム利用に関するルール作り13)が行われ,一定の有効性が示されている.特に青少年に長期間重度の依存状態が続き,ひきこもり状態などが長期間継続してしまうと,その後の人生に多大な影響が出てしまうことも稀ではない.未成年者に対する縦断的な依存症予防教育やインターネットやゲーム利用などに関する各種規制も必要と考えられる.一方でようやく最近診断基準が整い始めた(疾病として認められ始めた)ところであり,インターネット依存症関連疾患を治療する医療機関は今のところ少ない.インターネット依存症関連疾患に関係諸機関が連携して取り組み,特に青少年の健全な育成に寄与することが望まれる.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) Bozkurt, H., Coskun, M., Ayaydin, H., et al.: Prevalence and patterns of psychiatric disorders in referred adolescents with Internet addiction. Psychiatry Clin Neurosci, 67 (5); 352-359, 2013
Medline

2) Fleming, M. F., Barry, K, L., Manwell, L. B., et al.: Brief physician advice for problem alcohol drinkers. A randomized controlled trial in community-based primary care practices. JAMA, 277 (13); 1039-1045, 1997
Medline

3) 国立青少年教育振興機構: 平成29年文部科学省委託事業「青少年教育施設を活用したネット依存対策研究事業」報告書. 2018 (http://www.niye.go.jp/kanri/upload/editor/124/File/2017SDiC-houkoku.pdf) (参照2019-03-25)

4) 前園真毅, 中山秀紀, 三原聡子ほか: 韓国の実情と対策. 精神科治療学, 29 (9); 1205-1211, 2014

5) Mihara, S., Osaki, Y., Nakayama, H., et al.: Internet use and problematic Internet use among adolescents in Japan: a nationwide representative survey. Addict Behav Rep, 4; 58-64, 2016
Medline

6) 中山秀紀, 北村大史, 三原聡子ほか: 大邱インターネット嗜癖レスキュースクールを見学して. 臨床精神医学, 42 (9); 1161-65, 2013

7) 中山秀紀, 樋口 進: インターネット依存症. 精神科, 28 (3); 235-240, 2016

8) 中山秀紀, 樋口 進: ネット依存の治療―最新の進歩―. 精神医学, 59 (1); 45-52, 2017

9) Nakayama, H., Mihara, S., Higuchi, S.: Treatment and risk factors of Internet use disorders. Psychiatry Clin Neurosci, 71 (7); 492-505, 2017
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10) Sakuma, H., Mihara, S., Nakayama, H., et al.: Treatment with the Self-Discovery Camp (SDiC) improves Internet gaming disorder. Addict Behav, 64; 357-362, 2017
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11) 総務省情報通信政策研究所: 高校生のスマートフォン・アプリ利用とネット依存傾向に関する調査報告書. 2014 (http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01iicp01_02000020.html) (参照2019-03-25)

12) 総務省情報通信政策研究所: 中学生のインターネットの利用状況と依存傾向に関する調査. 2016 (http://www.soumu.go.jp/iicp/chousakenkyu/data/research/survey/telecom/2016/20160630_02.pdf) (参照2019-03-25)

13) 田中綾帆, 野井真吾: 「ノーメディア」の取り組みが中学生の睡眠状況・疲労自覚症状におよぼす効果検証. 発育発達研究, 73; 1-12, 2016

14) Tang, J., Zhang, Y., Li, Y., et al.: Clinical characteristics and diagnostic confirmation of Internet addiction in secondary school students in Wuhan, China. Psychiatry Clin Neurosci, 68 (6); 471-478, 2014
Medline

15) Tsumura, H., Kanda, H., Sugaya, N., et al.: Prevalence and risk factors of Internet addiction among employed adults in Japan. J Epidemiol, 28 (4); 202-206, 2018
Medline

16) 鶴田利郎, 野嶋栄一郎: 1年間を通したインターネット依存改善のための教育実践による生徒の依存傾向の経時的変容. 日本教育工学会論文誌, 39 (1); 53-65, 2015

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