Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文全文

第120巻第5号

※会員以外の方で全文の閲覧をご希望される場合は、「電子書籍」にてご購入いただけます。
特集 治療抵抗性抑うつに対し外来診療でできること
一般外来におけるうつ病に対する対人関係療法
近藤 真前
名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野
精神神経学雑誌 120: 408-415, 2018

 対人関係療法(IPT)は,最近のメタアナリシスによるとうつ病に対して最も効果量の大きい精神療法であるが,わが国の一般外来ではほとんど活用されていない.その理由の1つに,IPTに特有の技法はなく,その治療戦略に独自性があるため,臨床家にとってIPTがわかりにくいという点が挙げられる.IPTの治療戦略は大きく「対人関係の問題領域のいずれかに焦点をあてること」と「医学モデルを適用すること」の2つがあるが,それらの根底には「役割」という概念が存在する.そのようなIPTの治療戦略によって,温かく安全な治療関係のなかで患者の感情表出を支援し,患者の自己肯定感を高められるとともに,患者が周囲の対人関係を役割という視点から捉えられるように支援できる.これらの治療戦略や概念を理解することで,短時間の外来診療でも効果的な診療を行うことができる.本稿では,IPTの概要を紹介し,治療に難渋するうつ病に対するアプローチや短時間の一般外来に応用する際のポイントについて述べた.最後に,双極II型障害に対して一般外来で簡易的に対人関係・社会リズム療法を実施した症例を紹介した.

索引用語:対人関係療法, 医学モデル, 役割, うつ病, 対人関係・社会リズム療法>

はじめに
 対人関係療法(interpersonal psychotherapy:IPT)は認知行動療法(cognitive behavioral therapy:CBT)と並んでエビデンス・ベーストな精神療法の双璧をなすといわれる.CBTはわが国の臨床現場に普及しつつあり,認知再構成や行動活性化などの技法を一般外来で活用している臨床家も少しずつ増えてきたが,IPTはほとんど活用されていないと思われる.その理由の1つに,CBTは治療技法を中心に構成されているのに対し,IPTは治療戦略で構成されている点が挙げられる.後述のようにIPTに特有の技法はないため,技法に注目するかぎりIPTを理解することは難しい.IPTの治療戦略を理解すれば,短時間の一般外来にもその戦略を取り入れ,効果的な診療ができる.
 本稿ではIPTの治療戦略を理解するために,はじめに,実証的,常識的,医学的,人間的,効率的というキーワードを用いてIPTの概要を紹介しながら,治療に難渋するうつ病へのアプローチにもふれる.次に,IPTを一般外来に応用する際のポイントを短く述べる.最後に,双極II型障害に対する対人関係・社会リズム療法(interpersonal and social rhythm therapy:IPSRT)の一般外来での施行例を簡単に紹介する.

I.対人関係療法(IPT)とは
1.IPTは実証的である
 IPTは,1970年前後よりKlerman, G. L.やWeissman, M. M.らによって単極性・非精神病性うつ病の外来成人患者を対象に開発された精神療法である.うつ病の効果的な治療を開発するために,うつ病の発症に関する心理社会的因子の臨床研究が調べられ,悲哀,対人関係上の役割をめぐる不和,対人関係上の役割の変化,対人関係の欠如という対人関係の文脈でうつ病が発症するとまとめられた.そして,Sullivan, H. S.らの対人関係学派やBowlby, J.の愛着理論などを理論的基盤とし,対人関係に効果的に介入することを目的に,既存の精神療法の技法で構成された.このように,IPTはその開発動機から実証的研究を重視している.
 また,IPTでは実証的な効果研究も重視され,無作為化比較試験が繰り返し行われてきた.うつ病に対する7つの精神療法(支持的精神療法,力動的精神療法,社会技能訓練,問題解決療法,行動活性化療法,CBT,IPT)のネットワーク・メタアナリシス1)では,各々と待機群との比較ではIPTの効果量が最大であり,各々の相互比較ではIPTのみが支持的精神療法を有意に上回った.したがって,IPTはうつ病に対して現時点で最も有望な精神療法といえよう.また,神経性大食症4),PTSD5),双極性障害2)6)や,思春期うつ病12)に対する有効性も示されている.このようにIPTは実証的研究を重視しており,医学的な文脈によく合致する.

2.IPTは常識的である
 IPTは精神疾患の発症・維持には生物・心理・社会的な多因子が影響するという常識的な立場をとっている.そして,「疾患の症状と対人関係とが相互に影響を与える」という,これも常識的な治療モデルに基づいて,患者の現在の対人関係に取り組むことによって症状が改善することをめざす.具体的には,患者の現在の対人関係,およびこれまでのライフイベントと疾患・症状の経過を聴取し,悲哀(親,配偶者,子どもの死など),対人関係上の役割をめぐる不和(親や配偶者との関係に問題が続いているなど),役割の変化(転居,昇進,出産,離婚,進学,病気など),対人関係の欠如(社会的に孤立しているなど)という4つの問題領域から1~2つを選び,フォーミュレーションを患者と共有して,対人関係に協働的に取り組む.具体的には成書を参考にされたい10)11)
 このようにIPTは常識的な内容であり,患者も難なく受け入れやすい.ライフイベントや対人関係と患者の気持ちに焦点をあてることは,一般外来の文脈に合うだけでなく,患者の精神内界を直接扱わないため侵襲性が低く,安全に診療を進めやすい.また,IPTのフォーミュレーションは,患者のライフイベントと対人関係,疾患の関係を縦断的なストーリーとして共感的かつ平易な言葉で要約したものであり,患者は個人的苦悩を治療者に理解してもらえたという安心感を得ることができ,治療同盟が確立されやすい.著者は新しくうつ病の外来患者を担当する場合,薬物調整をしばらく行いながらこのような共同作業を行うことが多い.

3.IPTは医学的である
 IPTの治療戦略は大きく言うと2つあり,1つは前述の「4つの問題領域のいずれかに焦点をあてること」であり,もう1つは「医学モデルを適用すること」である11).医学モデルとは,「患者は病気に罹患しており,それは治療可能なものである」と捉えることである.すなわち,肺炎や膠原病といった身体疾患と同じように,患者は「うつ病」という医学的に定義された疾患に罹患していると扱う.これも一般外来の文脈によく合う.
 ここで重要なのが「病者の役割」である.これは,「病気は単に医学的状態であるだけでなく,社会的役割でもある」という社会学者のParsons, T. による概念9)である.つまり,病気の症状によって機能障害が生じるため,患者は通常の社会的義務が免除され(例:仕事や家事を休む),そのかわり回復に向けて治療する義務があるということである.症状は病気が治るまではコントロール困難なものであり,そのために病気を治療する必要があることを説明していく.「あなたのうつ病の症状はこれだけ強いのですから,家事ができないのは当然です.今は休むことが正しい治療ですよ」と心理教育をした経験は,精神科医であれば誰にでもあるだろう.このように,医学モデルは患者の罪悪感を減じて自己肯定感を高めるように用いる.そして,「家事ができないことをご主人にわかってもらいましょう.どのように伝えるかを考えませんか?」のように,症状に挑戦するのではなく対人関係に取り組む.このように,IPTでは医学モデルに基づいた心理教育を重視しており,特に,症状と対人関係の関連について重点的に心理教育をしていく.

4.IPTは人間的である
 IPTは「役割」や「役割期待」という社会心理学の概念を採用しており,この概念がIPTの根幹をなしている.IPTでは,人は誰でも「対人関係上の役割」をもっており,また,他者にもある「対人関係上の役割」を期待していると考える.例えば,われわれは通行人に対しても「見知らぬ他人として振る舞う役割」を期待しているし,また相手からも期待されている.役割とは,関係性によって変わる相対的な概念であり,平易な言葉では「立場」や「ポジション」に近い.また,「誰でもこの役割におかれたらこう感じるよね」のようにnormalizationの考え方を含む概念であり,治療者はそのように患者に接するとともに,患者が実生活の対人関係を役割という視点で捉えられるように援助していく.すなわち,IPTではさまざまな臨床上の問題をその人固有のパーソナリティの問題とは捉えない.
 したがって,IPTの治療関係はとても温かく安全なものになる.IPTにおける治療者の役割は「率直で温かい,患者の代弁者」であり,患者に対して評価をくださず,温かさと無条件の肯定的関心を伝える10).すなわち,対人関係の出来事に対して「どんな気持ちでしたか?」と感情の表出を支援し,その感情を「(そのような立場におかれたら)そう感じるのは当然ですよね」と肯定していく.また,治療者は問題領域に焦点をあてるうえでは積極的な役割を担う.患者は思考力低下,罪悪感といった症状によって,対人関係上の選択肢に気づかなかったり自ら選択肢を狭めたりしているため,治療者は常識的で希望的な立場から選択肢を提案・探索して患者を援助していく.
 また,IPTにおける患者の役割は「現在困っていることや気持ちを率直に話す役割」である.「決して責めたりしませんから,何でも思ったことを話してください.この治療で○○さんにお願いしたいことなのです」と治療者は患者に期待する役割を明確に伝える.
 さらに,IPTでは治療関係で生じる問題も役割の視点から捉える.例えば,治療終結が近づいて患者が不安になるのは,「定期的に主治医に相談できる役割」から「主治医から離れて一人でやっていく役割」への役割の変化と捉え,「(その役割では)不安を当然感じますよね」と伝えていく.また,治療関係がうまくいっていない場合は,治療者と患者の「役割期待の不一致」と捉え,役割期待のズレを解消するように率直に話し合うことで治療同盟がさらに強固となる.すなわち,IPTでは治療戦略のなかで治療関係を扱い,安全に保つ戦略が用意されているのである.そして,「このようにズレが起こることは奥様との間でもあるのでしたね.最近はどんなことがありましたか?」のように,治療関係から実生活の対人関係に焦点を戻していく.IPTでは「治療関係は友情ではない」と公式マニュアルで言及されるほど治療関係はとても近くて温かいが10),実生活の対人関係に焦点をあてていくため依存や退行は問題とならない.

5.IPTは効率的である
 IPTは,治療焦点が精神内界ではなく対人関係であり,普段と同じような会話で治療が進むため負荷が低い.また,基本的にホームワークがないため,重症例であっても適用しやすい.さらに,周囲の対人関係の力を活かす治療であるため,治療終結後も効果は伸びていく.
 また,IPTは疾患横断的治療であり,異なる疾患をほぼ同じ治療プロトコルで治療できるため,トラウマを背景にもつうつ病や摂食障害合併のうつ病などでも,うつ病と併存症を同時に治療可能である.また,気分変調性障害は「医原性役割の変化」という問題領域を適用して効果的に治療できるため7),気分変調性障害に重畳するうつ病(二重うつ病)にもよい適用となる.また,非定型うつ病も,対人関係上の出来事に対する気分反応性や拒絶過敏性はIPTの治療モデルによく合致するし,過食や過眠,鉛様麻痺といった症状は罪悪感を生じやすく,医学モデルによる心理教育が機能しやすい.
 また,IPTを一般外来で用いる利点の1つに,隠れた対人関係要因に気づいて対応できることが挙げられる.過労によるうつ病と考えられたが,のちに夫婦関係の影響が大きいことが明らかになったケースは,多くの精神科医に経験があるのではないだろうか.また,既婚女性のうつ病で薬物療法に反応しない場合,対人関係について詳細に聴取していくと,夫に自閉症スペクトラム障害の傾向がみられることをしばしば経験する.夫に気持ちが通じず,しかし,近い関係でなければ自閉症スペクトラム障害は気づかれないため周囲からも境遇を理解されず,無力感や絶望感を一人で抱えている患者は少なくない.このようなケースにもIPTはよい適用であり,典型的には不和の問題領域を選択して,発達障害という事情をもつ夫に期待すること・期待できることなどを探索していく.

II.一般外来における対人関係療法(IPT)の応用
 IPTは期間限定とすることで治療焦点を維持し,治療効果を高めている.しかし,短時間の一般外来では面接回数の制限は現実的でないため,治療焦点の維持をより意識して行うのが重要である.
 また,一般外来でIPTを始める場合,医学モデル,問題領域,役割,安全な環境での感情表出といったIPTの戦略や概念を少しずつ導入するのもよい.CBTでは認知再構成や行動活性化といった技法を習得していくように,IPTでは戦略を習得していくことになる.IPTであるためにはその治療戦略で全体を構成する必要があるが,まずは部分的に,医学モデルを徹底するだけでも患者の安心感が増すことが多い.例えば,気分変調性障害に対して医原性役割の変化を適用し,患者と一緒に成書7)を読むだけでも治療が進みやすい.

III.一般外来で対人関係・社会リズム療法(IPSRT)を実施した症例
 一般外来で双極II型障害に対してIPSRTを簡易的に実施した症例を簡単に紹介する.実際の症例に基づくが,個人情報の保護に留意し,個人を特定できないように趣旨を損なわない範囲で複数の症例を組み合わせるなどして改変した架空症例である.初めは通常の外来診療として薬物療法を行い,社会リズム療法(social rhythm therapy:SRT)を導入したが,効果不十分であったためさらにIPTを導入して寛解となった.なお,IPSRTは双極I型・II型障害に対するIPTの修正版であり,IPTとSRTを組み合わせて薬物療法の付加治療として行われる.詳細は成書3)を参照されたい.

 症例A(20代,女性)
 【家族構成】父・母(自宅で飲食店を経営),姉(会社員)の4人暮らし
 【発達・生育歴】特記事項なし
 【現病歴】
 X年(芸術系大学在学中),学園祭の時期に抑うつエピソードを発症.その後,軽躁病エピソードと抑うつエピソードを繰り返した.就職活動ができず,卒業後はアルバイトをしたが長続きせず,ほぼ自宅で生活していた.X+4年,B精神科クリニックを受診.双極性障害と診断されバルプロ酸を投与されたが,大量服薬でC総合病院精神科に短期入院した.オランザピンが追加されたが抑うつ症状が改善しないため,X+5年,D総合病院精神科を紹介受診となった.
 【治療経過:信頼関係の構築,病歴聴取,疾患教育,薬物調整(初診~8ヵ月後)】
 初診で病歴を聴取し,1~2ヵ月の軽躁病エピソードと数ヵ月以上の抑うつエピソードを繰り返し,最近は抑うつエピソードが主体であることがわかり,双極II型障害と診断した.再診は1~2週ごとに1回10~20分とした.信頼関係を構築しながら,症状変化とライフイベントを縦断的に聴取し,芸術作品制作への没頭,転居,交際相手・家族・友人との対立などが気分エピソード発症のきっかけであったことがわかった.双極性障害のパンフレットを用いて疾患教育を行いながら,数ヵ月かけて薬物調整を行った.バルプロ酸,オランザピンは効果不十分のため中止し,リチウムは嘔気で中止となり,ラモトリギンおよびクエチアピンにて抑うつ症状がやや軽減する程度にとどまった.
 【SRTの導入(4ヵ月後~8ヵ月後)】
 睡眠・生活リズムの乱れを認めたため,薬物調整と並行してSRTを導入した.まず,社会リズムについての心理教育を行った.抑うつ症状が強く,ソーシャル・リズム・メトリック(social rhythm metric:SRM)()の全5項目の記入は困難と考えられ,まずは起床,就寝の欄のみ記入してもらった.すると,起床・就寝時刻の変動が大きく,また就寝前に友人とSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で会話して感情が乱れやすいことがわかった.SRTの目標「時刻と人からの刺激を一定にしていく」に従って,睡眠衛生教育を行い,就寝前のSNSをやめてもらい,起床・就寝時刻をできるだけ一定にするように刺激・環境調整を行った.その結果,睡眠リズムは以前より安定したが,抑うつ症状の改善はわずかであった.
 【IPTの導入(8ヵ月後~2年後)】
 SRMの他の欄にも記入できるようになり,「人との初めての接触」欄に「3:他の人がとても刺激的だった」をよく記入するようになった.状況をきくと,両親と一緒の朝食で,父の機嫌が悪いと「怠けてないで店の手伝いくらいしなさい!」などと怒られ,抑うつ期には自分が情けなくて落ち込み,軽躁期には父と口論になりやすいことがわかった.対人関係について聴取し,詳細は省略するが,父については「私が不調になってから関係が悪化した」,母については「まだ聞く耳をもってくれそうだが,理解してくれるかが怖くて気持ちを話せない」,友人や交際相手については「不調になってから安定した関係を結べず,うまくいかなくなった」とのことだった.そこで,問題領域は「役割の変化」を選択し,「双極性障害を発症してから,両親や友人・交際相手などとの役割期待の不一致が続き,それが双極性障害の維持にも影響している」というフォーミュレーションを提示しAと合意した.そして,まず母との間の役割期待を整理する方針で合意した.
 Aと相談の結果,しばらく母親同席の面接とし,治療者はAの代弁者として,母に医学モデルに基づく心理教育を行った.すなわち,母がAのおかれた立場(役割)を理解できるように,Aの非適応的な行動(例:元気そうにみえるが動けない,些細な刺激でイライラする)は病気の症状によるものであり,Aにもコントロール困難であること,精一杯治療に取り組んでいることなどを伝え,フォーミュレーションを共有した.診察室でAが母に「病気だとわかってほしい」という期待を伝えることができた.母は「私の育て方が悪かったと思って,Aを叱っていたけど,病気のせいだったんですね…」と話した.その後,Aは「母も私の不調にとまどっていたんですね…」と話し,「母自身も『役割の変化』への適応が難しかったんだ」と母のおかれた役割を理解するようになった.
 母との関係が再構築され,母のサポートを得て,Aは父との関係に取り組み始めた.父に対してとりうる選択肢をA,母,治療者で「作戦会議」をして検討した.その過程で,父に気分循環性障害が疑われることがわかった.A,母とも「父は怒りっぽい時期は手がつけられなくて,性格の問題だと思っていたけれども,父自身にもどうしようもない症状だったんだね」と父のおかれた立場を理解するようになった.「父に薬物治療を受けてもらう」という選択肢も含めてAと母で作戦を検討し,Aと父の気分状態に合わせて2人が適切な距離をとれるように母が調整役をすることになり,Aと父の関係も改善していった.
 【維持期(2年後~)】
 双極II型障害の発症後初めて気分エピソードを1年間認めず,アルバイトを始めた.その際には就労という役割の変化,および社会リズムの変化にどう適応するかも診察で話し合った.この頃には2週ごとに10分の診察となった.AはIPSRTの考え方を理解し,「両親と落ち着いて話せて,気持ちが通じ合うようになった」「次の彼氏には,生活リズムを守ってもらうように話せると思う」と話した.

画像拡大

おわりに
 読者のなかには,IPTは自然すぎて通常の診療との違いがよくわからないと感じる方もいるかもしれない.その疑問はもっともである.そう,使い慣れた個々の技法をIPTの治療戦略という柱で構造化したとき,初めてあなたはIPTを理解し,普段の技法がIPTのなかでこれほど効果的に働くのかと驚嘆し,そして,「人は人との関係で癒やされる」という事実を深く体験することになる.
 IPTでは,役割という概念に基づいて温かく率直な治療関係を構築し,その安全な空間を足場にして,患者は自らの感情を肯定して自己肯定感を高められるとともに,周囲の対人関係を役割という視点から捉えられるようになる.ここがIPTにおいて最も重要なポイントといえる.その治療戦略を理解し,日常診療に活用する臨床家が一人でも増えることを願ってやまない.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) Barth, J., Munder, T., Gerger, H., et al.: Comparative efficacy of seven psychotherapeutic interventions for patients with depression: a network meta-analysis. PLoS Med, 10; e1001454, 2013
Medline

2) Frank, E., Kupfer, D. J., Thase, M. E., et al.: Two-year outcomes for interpersonal and social rhythm therapy in individuals with bipolar I disorder. Arch Gen Psychiatry, 62; 996-1004, 2005
Medline

3) Frank, E.: Treating Bipolar Disorder: A Clinician's Guide to Interpersonal and Social Rhythm Therapy (Guides to Individualized Evidence-based Treatment). Guilford Press, New York, 2005 (阿部又一郎監訳: 双極性障害の対人関係社会リズム療法―臨床家とクライアントのための実践ガイド―. 星和書店, 東京, 2016)

4) Hay, P. P., Bacaltchuk, J., Stefano, S., et al.: Psychological treatments for bulimia nervosa and binging. Cochrane Database Syst Rev, (4); CD000562, 2009
Medline

5) Markowitz, J. C., Petkova, E., Neria, Y., et, al.: Is exposure necessary? A randomized clinical trial of interpersonal psychotherapy for PTSD. Am J Psychiatry, 172; 430-440, 2015
Medline

6) Miklowitz, D. J., Otto, M. W., Frank, E., et al.: Psychosocial treatments for bipolar depression: a 1-year randomized trial from the Systematic Treatment Enhancement Program. Arch Gen Psychiatry, 64; 419-426, 2007
Medline

7) 水島広子: 対人関係療法でなおす気分変調性障害. 創元社, 大阪, 2010

8) 日本うつ病学会: ソーシャル・リズム・メトリック5項目版 (http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/sokyoku/pdf/srm_2_5.pdf) (参照2018-02-11)

9) Parsons, T.: Illness and the role of the physician: a sociological perspective. Am J Orthopsychiatry, 21 (3); 452-460, 1951
Medline

10) Weissman, M. M., Markowitz, J. C., Klerman, G. L.: Comprehensive Guide to Interpersonal Psychotherapy. Basic Books, New York, 2000 (水島広子訳: 対人関係療法総合ガイド. 岩崎学術出版社, 東京, 2009)

11) Weissman, M. M., Markowitz, J. C., Klerman, G. L.: Clinician's Quick Guide to Interpersonal Psychotherapy. Oxford University Press, 2007 (水島広子訳: 臨床家のための対人関係療法クイックガイド. 創元社, 大阪, 2008)

12) Zhou, X., Hetrick, S. E., Cuijpers, P., et al.: Comparative efficacy and acceptability of psychotherapies for depression in children and adolescents: a systematic review and network meta-analysis. World Psychiatry, 14; 207-222, 2015
Medline

Advertisement

ページの先頭へ

Copyright © The Japanese Society of Psychiatry and Neurology