Advertisement第123回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第128巻第9号

精神医学のフロンティア
小児期の注意欠如多動症(ADHD)管理における二重課題デジタルデバイスSDT-001の有効性と安全性の検討:第3相無作為化通常治療対照試験
三上 克央1), 宮島 祐2), 西野 良3), 福寿 宏樹4), 河添 有宏4), 木下 陽介4), 岡田 俊5)
1)東海大学医学部医学科総合診療学系精神科学
2)東京家政大学大学院人間生活学総合研究科
3)京都大学医学部附属病院先端医療研究開発機構(iACT)
4)塩野義製薬株式会社医薬開発本部
5)奈良県立医科大学精神医学講座
精神神経学雑誌 128: 669-678, 2026
https://doi.org/10.57369/pnj.26-107
受付日:2025年12月24日
受理日:2026年4月14日

 【目的】注意欠如多動症(ADHD)の日本人の小児を対象とした第2相探索的試験(有効性および安全性を検討することを目的としたSham候補対照の比較試験)から,二重課題デジタルデバイスSDT-001はADHD症状の改善が期待できることが示唆されている.本第3相試験は,ADHDの日本人の小児を対象に,通常治療にSDT-001を追加した場合の有効性,安全性を評価した.【方法】非盲検下で無作為化されたSDT-001群(N=109;25分/日を6週間実施後,4週間の追跡調査)と通常治療(環境調整や,心理社会的治療)群(N=55)を比較する比較パートと,それに続く非盲検下でSDT-001を1サイクル使用する繰り返しパートにおいて評価した.比較パートの主要評価項目は6週時点におけるADHD-RS-IV不注意スコアの変化量とした.【結果】比較パートにおいて,SDT-001群は通常治療群と比較してベースラインから6週時点でのADHD-RS-IV不注意スコア〔調整平均変化量の差(95%CI),-2.97(-4.38,-1.56);P<0.0001〕,合計スコア〔-4.56(-6.75,-2.38);P<0.0001〕,多動・衝動性スコア〔-1.55(-2.64,-0.46);P=0.0056〕が有意に改善した.副次評価項目においてもSDT-001群でADHD症状の改善が認められた.繰り返しパートにおいて,SDT-001を2サイクル使用後も減少したADHD–RS–IVスコアが少なくとも治療後12週間維持された.重篤な有害事象は報告されず,新たな安全性に関する懸念も認めなかった.【結論】SDT-001群は,ADHD-RS-IVスコアにおいて通常治療群と比較して6週時点で有意な改善を示し,スコアの低下はその後12週間維持された.忍容性・安全性プロファイルは良好であり,SDT-001はADHDでの新たな治療の選択肢となる可能性が示唆された.

<索引用語:注意欠如多動症, 学童・青年期, 認知機能, デジタル治療, プログラム医療機器>

はじめに
 注意欠如多動症(attention-deficit/hyperactivity disorder:ADHD)は,小児に多く認められる神経発達症であり,多動性・衝動性または不注意の症状が成人期まで持続することがある19).日本では2010年度から2019年度の間に838,265人がADHDと診断され,その60%が19歳以下であった20).既存の薬物治療には副作用の懸念や服薬アドヒアランスの低さといった課題があり4)5),心理社会的治療は提供体制が限られているため,治療機会が不足している.この背景から新たな治療選択肢が望まれてきた.デジタル治療アプリであるEndeavorRxⓇは,小児期におけるADHDの注意および認知症状の改善に有効であることが示されている8)11).SDT-001はEndeavorRxⓇを日本語化したもので,二重課題の実行および動的難易度調整をコアメカニズムとするプログラム医療機器である.
 新たな領域である疾病治療用のプログラム医療機器の臨床試験を実施するうえで,比較対照群の設定が重要な課題となるが,Sham群を設定することは容易ではない.これは,プログラム医療機器では,有効性に関連する機能や要素を明確に特定することが困難であり,それらを意図的に除外したShamを設計することが難しいためである.また,大幅に機能を削減したShamを設計した場合,参加者にShamであることを悟らせ盲検性を維持できなくなる12).SDT-001の開発でも,対照群と評価項目の設定が課題であった.米国で実施されたSTARS-ADHD試験では,対照群としてSham群を設定する代わりに,ワードパズルを設定した.アウトカム指標としては,米国食品医薬品局(FDA)が承認した注意・抑制制御に関する客観的な評価指標であるTest of Variables of Attention(T. O. V. A.Ⓡ)の注意機能スコアであるAttention Performance Index(API)の変化量を主要評価項目とした.FDAは,このSTARS-ADHD試験の結果をもって,当該プログラム機器を承認した3).われわれは本邦での臨床試験をデザインする際に,この米国での試験結果を基に,Shamをどのように設定するか,また,本品とShamを用いてどのように臨床試験の盲検性を担保するのか,さらには,国内での本品の臨床的意義を説明できる評価項目は何かについて,検討を重ねた.
 日本での第2相探索的試験では,単一課題アプリをShamの候補として設定し,有効性と安全性およびSham候補の妥当性を評価した.SDT-001群のみならず,対照群である単一課題アプリ群でも,医師によるADHD評価尺度(ADHD-RS-IV)の合計スコア,不注意スコア,および多動性・衝動性スコアが,時間の経過とともに改善した.6週目では,SDT-001群のほうが単一課題アプリ群と比較して改善傾向を示したが,統計的に有意差を認めなかった15).SDT-001と単一課題アプリの間で,課題が二重課題か単一課題かという点,および難易度調整機能以外の要素は変えておらず,同胞間の組み入れや盲検性を維持しながら治験機器の不具合対応や操作サポートができる方法の設定といった治験体制の工夫によって盲検性が担保されたことは確認できていた.しかしながら,これまでの報告によると,単一または二重課題を実行すると,ADHDの症状に関与すると考えられている前頭前野が活性化することが示唆されていることから1)2),単一課題アプリにおいてもADHD症状に一定の改善が認められたと推察され,Shamとして妥当性に欠けると考えられた.事後解析では,SDT-001群と単一課題アプリ群の両方で,経過観察群(環境調整を含む心理社会的治療のみを行う群)と比較した.ADHD-RS-IVの合計スコア,不注意スコア,および多動性・衝動性スコアに有意な改善がみられ,この改善の程度はSDT-001のほうが大きく,環境調整や心理社会的治療を実施していた患者にSDT-001による治療を追加することで,ADHD症状の改善を期待できることが示唆された.また,両群とも改善効果は治療終了後4週間まで維持された.この第2相探索的試験から,第3相検証的試験を計画するうえで多くの重要な知見が得られた.本論文では,これら第2相試験の結果をふまえて実施した第3相検証的試験の方法および結果,意義について述べる.

I.研究の方法および結果
1.試験デザイン
 第2相試験の結果をふまえ,本第3相検証的試験では,環境調整および心理社会的治療(通常治療)にSDT-001を追加した場合の有効性と安全性を,非盲検下で無作為化されたSDT-001群と通常治療群を比較する比較パートと,それに続く非盲検単群で実施する繰り返しパートの2つのパートにおいて評価した.多施設共同非盲検試験(jRCT2042220012)として,2022年5月12日~2023年12月25日の期間に実施された.なお,本試験では学校生活における環境変化の影響を少なくするため,学校の長期休暇や進級前後の期間と評価期間が重ならないよう登録期間を工夫した.
 比較パートでは,通常治療を受けていた参加者を,SDT-001群(N=109;25分/日を6週間実施後,4週間の追跡調査)または通常治療群(N=55)に2:1の割合で無作為に割り付けた.なお,通常治療群の1例は,ベースライン後のADHD-RS-IV(医師評価)が欠測であったため,有効性解析集団から除外した.SDT-001群とは,通常治療を継続し,SDT-001を追加で使用したことを意味する.繰り返しパートは,比較パートを終了した被験者のうち,同意を得られた被験者のみが参加し,非盲検下でSDT-001を1サイクル使用した.比較パートで通常治療群であった被験者(通常治療/SDT-001群)ではSDT-001を1回(1サイクル)使用したときの,また,比較パートでSDT-001群であった被験者(SDT-001/SDT-001群)ではSDT-001を2回(追加1サイクル)使用した際の有効性と安全性を評価した(6週間実施後,12週間の追跡調査).主要評価項目は,SDT-001を6週間使用終了時点におけるADHD-RS-IV(医師評価)不注意スコアのベースラインからの変化量とした.主要副次評価項目は,6週目におけるADHD-RS-IV(医師評価)合計スコアおよび多動/衝動性スコアの変化量とした.
 また,長期間の有効性を評価するため,治験終了後の治療内容についてアンケートで調査した(最長で繰り返しパート終了時から24週).加えて,SDT-001への依存リスクという観点と,SDT-001を使用したことによる他のゲームなどへの依存リスクという観点から,アンケート調査を実施し,依存リスクの探索的評価を行った(図1).

2.試験参加者の内訳と背景
 登録された試験参加者164例のうち,157例が比較パートを完了した.なお,通常治療群の1例は,ベースライン後のADHD-RS-IV(医師評価)が欠測であったため,有効性解析集団から除外した.比較パートを完了した症例のうち126例が繰り返しパートに移行し,117例が繰り返しパートを完了した.
 SDT-001群と通常治療群で背景因子に大きな差はなかった.また,比較パートと繰り返しパートにおいても,背景因子の明確な違いは認めなかった(表1).

3.有効性
 比較パートでは,SDT-001群は通常治療群と比較してベースラインから6週時点でのADHD-RS-IV不注意スコア〔調整平均変化量の差(95%CI),-2.97(-4.38,-1.56);P<0.0001〕,合計スコア〔-4.56(-6.75,-2.38);P<0.0001〕,および多動/衝動性スコア〔-1.55(-2.64,-0.46);P=0.0056〕が有意に改善した(図2).繰り返しパートでは,SDT-001を2サイクル使用後も比較パートでの1サイクル使用時と同様に,ADHD-RS-IVスコアの減少がみられた.6週間の治療期終了後から減少したADHD-RS-IVスコアが少なくとも12週間維持された(図3).

4.終了時および追跡アンケートによる調査結果
 比較パートおよび繰り返しパートの追跡調査期間を完了した参加者において,SDT-001を1サイクルまたは2サイクル使用した参加者の54.7%(64/117)(SDT-001/SDT-001群の60.3%,通常治療/SDT-001群の46.9%)が,追跡調査開始24週間の時点でADHD治療薬の服用を開始していなかった(表2).

5.安全性-有害事象
 SDT-001の忍容性および安全性プロファイルは良好であり,重度の有害事象は報告されていない.ゲーム依存リスクのアンケート評価を実施したが,日常の他のゲーム時間が治験前後で大きく増える傾向は認められず,SDT-001の長時間使用や治験終了後の継続使用欲求も低かったことから,明らかな依存リスクを示す結果は得られなかった.SDT-001は通常治療よりも感染症の発症が多いが,治療機器との関連なしと判断された(表3).

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表2画像拡大表3画像拡大

II.考察
 第2相試験でみられた6週目のADHD-RS-IV(医師評価)不注意スコアの改善に加え,第3相試験比較パートでは,ADHD-RS-IV(医師評価)の合計スコアおよび多動・衝動性スコアについても,通常治療群に比べSDT-001群で有意な改善がみられた.これらの改善は治療中止後(10週目)および繰り返しパート開始前まで維持された.さらに,ADHD-RS-IV(教師評価),Behavior Rating Inventory of Executive Function(BRIEF),Conners 3(保護者評価)サブスケール,Impairment Rating Scale(IRS),Pediatric Quality of Life Inventory(PedsQL)ジェネリックコアスケールのスコアも,SDT-001群で通常治療群より良好であった.サブグループ解析では,以前のADHDに対する治療薬の使用の有無,年齢,性別,ADHDのタイプにかかわらず,6週目におけるADHD-RS-IV(医師評価)各スコアのベースラインからの変化は,SDT-001群が通常治療群よりも良好な傾向を示した.繰り返しパートではSDT-001/SDT-001群と通常治療/SDT-001群のいずれも,6週時点でベースラインから改善した.減少したADHD-RS-IV(医師評価)スコアが少なくとも12週間は維持されたことから,SDT-001の治療効果は治療終了後も持続する可能性が示唆された.実臨床においては,SDT-001が多様な背景をもつ患者にさまざまな状況下で使用されることが予想されるため,本試験で評価された条件以外での有効性についても慎重な観察と評価が必要である.
 ADHDに対しては,薬物療法よりも環境調整や心理社会的治療などの治療が推奨されているが,施設で実施できる心理社会的治療は限られている4)9)10)13).また,薬物療法はADHDの症状を改善するが,投与を中止すると症状が再発することが知られている6)7)17)21)22).本試験では,第2相試験の結果と同様に,SDT-001中止後も12週間にわたりスコアの改善が維持された.さらに,長期有効性の持続に関するアンケート評価の結果から,SDT-001は薬物療法とは異なる持続効果を示し,治療戦略の選択肢を広げる可能性がある.薬物治療においては,患者や保護者などが抵抗感を示す例もあることから,服薬アドヒアランスが課題となっている.一方,本試験におけるSDT-001のアドヒアランス率は80%を超えていた.報告された有害事象は,第2相試験と一致し,新たな安全性上の懸念,重篤な有害事象,依存の兆候は認められなかった.したがって,SDT-001は既存治療の課題を克服する新たな選択肢として期待される.ただし,本試験の評価期間は最大52週間(治験機器を使用していない期間を含む)であり,より長期間使用した場合の安全性やゲーム依存症リスクは確認されていないため,長期使用による潜在的な依存症誘起の可能性をふまえ,慎重に観察する必要がある.
 二重課題デバイスであるSDT-001は,認知運動相互作用に関与する神経基質を活性化する可能性が高く,実行制御の要求や課題難易度の変化に応じて活性化パターンが変化し16)18),神経活動を調整して認知運動パフォーマンスを向上させる可能性がある.
 ADHDに対する非薬物療法の臨床試験では,Shamの設定を含め,エビデンスレベルを最大にできる厳密な試験デザインを採用した試験は限られている.本試験ではShamを使用せず非盲検下で通常治療を対照として実施したため評価バイアスを否定できないが,Shamと比較した第2相試験と本試験において,SDT-001使用によるADHD-RS-IV不注意スコアのベースラインからの変化量は同等であり,盲検の有無による結果への影響は小さいと考えられた.加えて,本試験比較パートのSDT-001群のADHD-RS-IV不注意スコアの変化量(-4.4)は,既承認医薬品の臨床試験から算出したプラセボ効果(-0.47~-3.24)を上回る改善であることからも,本品の有効性を示していると考える.また,本試験の主要評価項目を医師が評価することによる非盲検バイアスの影響も考慮する必要がある.これについては,ADHD-RS-IVの教師評価をはじめ,ほぼすべての副次評価項目においてSDT-001による改善傾向が認められたことから,有効性に関する結果は一貫していると判断される.本試験は,有効性および安全性の検証に加え,疾病治療用のプログラム治療機器などの臨床試験における今後の課題を理解するうえでも示唆に富み,意義深いものと考えられる.

おわりに
 本試験から,ADHDの管理において,SDT-001が従来の心理社会的治療や薬物療法の限界を補う有効な新規デジタル治療選択肢となりうることが示唆された.今後の研究では,治療中止後も効果が持続するメカニズムや,既存の治療プロトコルとの併用の可能性について検討することが期待される.

 本論文は,PCN誌に投稿された研究論文14)を編集委員の依頼により,著者が日本語で書き改め,その意義と展望などにつき加筆したものである.

 利益相反
 本研究は塩野義製薬株式会社の資金提供により実施された.三上克央は,塩野義製薬株式会社から研究資金援助,謝礼金を,大塚製薬株式会社,EAファーマ株式会社,住友ファーマ株式会社から謝礼金を受けている.宮島祐は,ヤンセンファーマ株式会社,大塚製薬株式会社,ノーベルファーマ株式会社から謝礼金を受けている.西野良は,塩野義製薬株式会社から謝礼金を受けている.福寿宏樹,河添有宏,木下陽介は塩野義製薬株式会社の従業員である.岡田俊は,武田薬品工業株式会社,大塚製薬株式会社から講演料を受けている.

文献

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