Advertisement第122回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第128巻第7号

精神医学奨励賞受賞講演
第121回日本精神神経学会学術総会
精神医学研究の質を高めるための因果推論
成田 瑞
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所行動医学研究部
精神神経学雑誌 128: 542-549, 2026
https://doi.org/10.57369/pnj.26-085
受付日:2025年12月24日
受理日:2026年2月25日

 本稿は,第121回日本精神神経学会学術総会における精神医学奨励賞受賞講演の内容を,発展させて文章化したものである.講演では「因果か相関か?」を中心テーマとして,観察研究から因果的解釈をするために必要となる前提と,交絡調整の原則,時間依存性曝露・時間依存性交絡がある場合の古典的回帰分析の限界などを整理した.まず,DAGを用いた交絡因子選択と調整の原則(バックドアパスを閉じる,コライダーを調整しない,媒介因子を調整しない)を解説する.次に,時間依存性交絡のもとでは古典的な回帰分析や傾向スコア法が機能しないことを示し,g‒methods(逆確率重みづけ,g‒formula,二重ロバスト推定)の位置づけを述べる.これらをふまえて,一般住民コホート(JPHC)における時間依存性の居住形態と自殺の解析例を紹介する.

索引用語:因果推論, directed acyclic graph, 時間依存性交絡, 逆確率重みづけ, g‒formula>

はじめに
 本稿は,第121回日本精神神経学会学術総会における精神医学奨励賞受賞講演の内容を,講演を聴いていない読者にも伝わるよう論文化したものである.講演の核心は「因果か相関か?」であり,観察研究で得られる関連を因果として理解するためには,交絡因子への適切な対処が必要である点を強調した.
 また講演では,交絡調整の考え方を体系的に提示した.さらに,精神医学研究でしばしば重要となる時間とともに変化する曝露(time‒varying exposure)に対して,古典的な回帰分析が機能しない理由を,時間依存性交絡とexposure‒confounder feedbackの図解を用いて説明した.
 本稿は講演の構成に沿い,(i)交絡因子選択とdirected acyclic graph(DAG),(ii)調整の原則,(iii)時間依存性交絡下での従来手法の限界,(iv)g‒methodsの順に整理する.
 本稿は,精神医学領域で研究を行う臨床家・研究者を主な読者として想定している.そのため,因果推論の基本的な考え方と,研究デザイン・解析手法を選択する際の判断枠組みを理解することを目的とする.したがって,理論的詳細については専門書に譲り,統計学的詳細よりも概念理解を重視して解説する.

I.交絡因子とTable 2の誤謬
 交絡因子選択に関する代表的な誤りとして「Table 2の誤謬」を紹介する4).さまざまな変数を多変量回帰し,結果Table 2に並んだ共変量の係数の情報から,それぞれを「リスク因子」「保護因子」と見なす解釈は典型的な誤謬である.例えばのような単一のTable 2から「年齢はうつ病のリスク因子で,性別・教育・所得は保護因子である」といった解釈を行うことは,誤りであるということである3)
 このような誤りをおかさないために,交絡因子の選択と調整を統計的手続きとしてではなく因果構造の仮定に基づく作業として扱う重要性を示す.すなわち,「何を曝露として位置づけ,何を推定したいのか」を先に決めて,そのうえで必要な調整変数を決めるという順序である.

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II.Directed acyclic graph(DAG)
 DAG(図1)を用いて因果関係の仮定を可視化し,交絡調整の要否を判断する枠組みを示す.
 DAGは,変数間の因果構造を仮定して描くことで,どの変数を条件づけるべきか検討できる2).ここで強調しておきたいのは,DAGは統計解析の代替物ではなく,因果構造を仮定するための手段であるという点である.DAGはあくまで「どの変数を調整すべきか/すべきでないか」を論理的に整理するために用いる.ここではDAGを因果構造を整理するための概念的な道具として理解すれば十分であり,背景にある因果モデルなどの詳細には立ち入らない.

1.交絡調整の原則
 DAGに基づく交絡調整の要点として,次の原則を提示する.
 【Rule 1:バックドアパスを閉じる】
 第一の原則は,曝露のアウトカムへの因果効果を推定するために,曝露のバックドアパスを閉じることである(図2).バックドアパスとは,文字通り「DAGを描いたときに曝露に後ろ側から入る(バックドア)経路(パス)」である.DAG上でバックドアパスが存在する場合,適切な変数を条件づけることでその経路を遮断する.このプロセスを,疫学者は「バックドアパスを閉じる」と表現する.ただし,その遮断が可能であるためには,未測定交絡がないという仮定が含まれる.
 【Rule 2:コライダーを調整しない(選択バイアスを生じさせない)】
 第二の原則は,コライダー(collider)を調整しないことである(図3).コライダーとは,文字通り「2つの変数から出た矢印が衝突(collide)する変数」である.コライダーを条件づけると,真に関連のなかった変数間に見かけ上の関連が生じる.このようなバイアスを選択バイアスやコライダーバイアスという.最も有名な選択バイアスである,出生体重パラドックスの例を紹介する.母親の喫煙が乳児死亡に与える効果を調べるにあたって,低出生体重児に限ったサンプルで解析すると,喫煙者の母親から生まれた低出生体重児の死亡率が低いという,直感に反する結果が得られる.もちろん母親が喫煙をしたほうが乳児の死亡率を下げられるなどということはなく,これは母親の喫煙と未測定交絡のコライダーである低出生体重を条件づけたことで生じた見かけ上の関連である.このような選択バイアスが生じると,真の効果を知ることができない.
 【Rule 3:媒介因子を調整しない】
 第三の原則は,媒介因子(mediator)を調整しないことである(図4).媒介因子を調整すると,間接効果を除外した直接効果しか推定できない.全体効果を求めたい場面で媒介因子を調整すると,推定対象が変わってしまう.
 【Advanced:「古典的交絡因子」が問題となる状況】
図5で,古典的な交絡因子の定義(曝露と関連し,曝露条件下でアウトカムと関連し,曝露→アウトカムの因果経路上にない)を用いると選択バイアスが生じる場合があることを示す.なお,著者がジョンズホプキンス公衆衛生大学院に在学していた2018年時点で,同学においても交絡因子はこのような古典的な定義に基づいて教えられていた.このような誤りをおかさないためにも,上記の原則に基づいた調整変数の選択が望ましい.知識のアップデートが重要である.

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III.なぜ従来の回帰分析ではダメなのか―時間依存性交絡―
 では,なぜ従来の回帰分析ではダメなのか? ここで鍵となるのが時間依存性交絡である.図6図7は,図1で示したリサーチクエスチョンを扱い,その構造のもとで時間依存性交絡がどのように問題となるかを示している.居住形態と自殺の関連を調べたいが,居住形態はライフステージのさまざまな時点で変化する(例:結婚,離婚,死別)ため,時間依存性曝露として解析することに関心がある.Wave 2の交絡因子がWave 2の居住形態(曝露)とアウトカムに影響するため,上記で紹介したRule 1に沿って条件づけたくなる(=バックドアパスを閉じたくなる).
 しかし,Rule 2を思い出すと,Wave 2の交絡因子はWave 1の居住形態とWave 2の未測定要因のコライダーであるため,条件づけにより選択バイアスが生じる(図7).
 つまり,調整しなければ交絡バイアス,調整すれば選択バイアスという二重苦の状況になる.このような構造はexposure‒confounder feedbackと呼ばれ,時間依存性交絡が存在する場合に,単純に回帰分析で調整することが不適切ということである.

図6画像拡大
図7画像拡大

IV.ではどうするか―g‒methods―(逆確率重みづけ,g‒formula,二重ロバスト推定)
 このような時間依存性交絡がある場合に適切な手法としてg‒methodsを紹介する.G‒methodsとは,時間依存性交絡やexposure‒confounder feedbackのもとでも因果効果を推定できるように開発された方法群である.具体的には,逆確率重みづけ(inverse probability weighting),g‒formula,そして二重ロバスト推定である.以下では各手法の理論的導出には深く立ち入らず,因果推論上どのような問題に対応する枠組みであるかという観点から概説する.詳細は専門書に譲る.

1.逆確率重みづけ―擬似集団を作る―
 逆確率重みづけ(inverse probability weighting:IPW)(図8)は,曝露確率の逆数を重みとして用いる方法である1).この重みづけにより,測定された共変量に関して曝露が条件付き交換可能となる擬似集団を構成し,標的とする介入効果の推定を可能にする.曝露モデルが正しく設定されている必要がある.
 練習のためのコードも作成したので,よければ参考にしてほしい(https://github.com/ZuiCNarita/IPW-and-MSM-for-pedagogical-purpose).

2.G‒formula―反事実リスクをシミュレートする―
 G‒formula(図9)は,アウトカムの期待値をモデル化し,「全員が○○に曝露されたなら」という反事実シナリオから因果効果を推定する方法である1).これは,時間依存性交絡の存在下で回帰係数が介入効果を直接表さないという問題に対し,反事実アウトカムの期待値を予測することで因果効果を定義・推定する枠組みとして提案された.アウトカムモデルが正しく設定されている必要がある.

3.二重ロバスト推定
 IPWは曝露モデルが正しく設定されている必要があり,g‒formulaはアウトカムモデルが正しく設定されている必要がある,という対比を示した.二重ロバスト推定とは,曝露割り当てモデルとアウトカムモデルの双方を用いる推定法であり,いずれか一方のモデルが正しく設定されていれば推定量が一貫性を保つという性質をもつ方法である1).IPWとg‒formulaがそれぞれ単一のモデルに依存することから生じる誤設定リスクを軽減する目的で発展した.Bang and Robinsの推定量やtargeted maximum likelihood estimation(TMLE)などが代表例である.

図8画像拡大
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V.解析例―時間依存性居住形態と自殺死亡(逆確率重みづけの適用)―
 最初に紹介したDAGのリサーチクエスチョンに立ち戻り,実例を示す2).本例では,対象は一般住民コホート(Japan Public Health Center‒based Prospective Study:JPHC)コホートの40~69歳86,749名であり,曝露は時間依存性(つまり変化する)居住形態,アウトカムは厚生労働省データによる自殺である.共変量は年齢,性別,地域,BMI,飲酒,喫煙,雇用,睡眠,がん,心血管疾患,ならびに野菜・果物・魚・肉の摂取量である.すでに述べたように,時間依存性交絡が存在するために古典的な回帰分析による調整は適切でない.そのためにIPWを用いて関連を解析した.結果,独居を続けた人で自殺率上昇が示されたが,途中から誰かと暮らした人,途中まで誰かと暮らした人では影響がさほど大きくないという,異なる結果だった(図10).つまり単時点における居住形態の影響だけでなく,変化する居住形態として解析を行ったことに大いに意義があったともいえる.

図10画像拡大

おわりに
 単なる相関ではなく因果を問うためには,適切なバイアスの対処が必要であることを強調した.リサーチクエスチョンによっては時間依存性変数を解析すべきである.一方で古典的な回帰分析が悪であるということではなく,単純なシナリオにおいては依然として有用な手法である.要は,リサーチクエスチョンに適した解析手法を選択すべきである.時間依存性変数を考慮する場合,IPWやg‒formulaなどのg‒methodsを用いる必要がある.本稿が,精神医学研究において適切な解析手法を適用するための助けとなることを期待する.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) Hernán, M. A., Robins, J. M.: Causal Inference:What If. CRC press, Boca Raton, 2020

2) Narita, Z., Shinozaki, T., Goto, A., et al.: Time‒varying living arrangements and suicide death in the general population sample: 14‒year causal survival analysis via pooled logistic regression. Epidemiol Psychiatr Sci, 33; e30, 2024
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3) Narita, Z. C., Furukawa, T. A.: Misuse of prediction models in psychiatric research. Lancet Psychiatry, 12 (1); 6-7, 2025
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4) Westreich, D., Greenland, S.: The table 2 fallacy: presenting and interpreting confounder and modifier coefficients. Am J Epidemiol, 177 (4); 292-298, 2013
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