【目的】父親の育児休暇取得は父親の育児参加を促進し,ストレス軽減を介して抑うつ症状に保護的に作用する可能性が指摘されている.しかし,その効果は一貫しておらず,影響を規定する要因は明確ではない.本研究では,父親の育児休暇期間が産後期の抑うつ症状とどのように関連するかを明らかにし,あわせて通院歴などの関連因子を検討した.【方法】株式会社クロス・マーケティング社のモニターパネルを用いたインターネット横断調査(2025年3月3~6日)により,20~30歳代の父親300名を対象とした.抑うつ症状は簡易抑うつ症状尺度(QIDS‒J)により評価し,6点以上を陽性とした.育児休暇期間(5群)による群間比較にはKruskal‒Wallis検定を用いた.有意差が認められた場合にはDunn検定(Holm補正)により事後比較を行った.また,通院歴別に育児休暇期間とQIDS‒Jスコアのスピアマン相関係数を算出した.【結果】抑うつ症状陽性者は30.7%であり,日常生活に支障を伴う者は12.3%であった.育児休暇を取得していない群に比して,1~3ヵ月未満群および3~6ヵ月未満群でQIDS‒Jスコアが有意に高値を示した.また,通院歴のない父親において,育児休暇期間とQIDS‒Jスコアとの間に弱い正の相関が認められた〔ρ=0.178,95% CI(0.056,0.295),P=0.005〕.【結論】父親の育児休暇の取得は必ずしも父親の抑うつ症状の軽減に直結せず,長期取得群においても抑うつリスクが残存する可能性が示唆された.育児休暇期間のみならず,取得を支える制度的・社会的支援体制を含めた多面的な支援の検討が必要である.
2)医療法人然みのりクリニック心療内科
3)社会医療法人財団大樹会総合病院回生病院メンタルヘルス科
4)国立大学法人鳴門教育大学大学院学校教育研究科人間教育専攻心理臨床コース臨床心理学領域
https://doi.org/10.57369/pnj.26-080
受付日:2025年11月16日
受理日:2026年2月4日
はじめに
女性の周産期うつについては,DSM‒5において「周産期発症」は妊娠中または出産後4週間以内に生じたうつ病エピソードとして定義されているが,解説には産後数週間から数ヵ月の間に3~6%の女性が抑うつエピソードを呈すると記載されている1).このため,母親の周産期メンタルヘルスに関しては,産科医療機関および行政を中心に支援体制が比較的整備されている.
一方,ICD‒1030)およびDSM‒51)には「男性産後うつ病」あるいは「男性周産期うつ病」といった独立した診断分類は存在しないものの,父親においても周産期に抑うつ症状を呈しうることが近年明らかとなっている21).海外のメタアナリシスでは父親の周産期うつの有病率は約10%21),日本においても8.2~13.2%との報告がある28).さらに,父親と母親の抑うつ症状は相互に関連し,父親においても自殺リスクが増大することが指摘されている28).男性の周産期における抑うつ症状は特に20~30歳代で高いとされ,はじめての育児に伴う生活上の変化,仕事と家庭の両立の困難,社会的支援の不足などが心理的負担として影響する可能性が指摘されている7)23).
こうした背景から,父親の育児休暇取得は育児参加の促進,パートナーの育児負担の軽減,家族関係の強化などを通じて,父親の抑うつ症状に保護的に働く可能性がある19).日本においても男性の育児休暇取得率は上昇しており,1990年代の0.1%台から2010年代半ばには2~6%台へと上昇し,2019年度7.5%,2020年度12.7%を経て,2023年度には30.1%とはじめて3割を超えた14).この背景には,2022年10月施行の「産後パパ育休(出生時育児休業)」や,企業に対する取得状況公表義務化など制度的な後押しがあるとされ,今後は取得率のみならず取得期間の延長が見込まれている12).しかしながら,取得期間は「3ヵ月未満」が依然として多数を占め13),また,取得をめぐる職場文化や父親役割に対する社会的期待が,むしろストレスや不安を増大させる可能性も報告されている7).すなわち,育児休暇が父親のメンタルヘルスに及ぼす影響は一様ではなく,特に育児休暇の「期間」と抑うつ症状との関連は明確ではない.
また,Scarff, J. R.は,男性における周産期うつ病は,場合によっては出産後1年間にわたり徐々に症状が進行する可能性があると報告しており25),UnityPoint Healthには,女性では出産後2~3ヵ月で抑うつ症状のピークがみられるのに対し,男性ではより遅れて1年以内にピークが出現する傾向があると記載されている29).これらの知見は,研究領域において男性の周産期うつ病を子どもの出生後1年以内に発症した抑うつエピソードと定義する背景となっている21)23).
以上をふまえ,本研究では先行研究に従い,「産後1年以内において抑うつ症状評価尺度で陽性と判定された状態」を「男性の産後期における抑うつ」と操作的に定義したうえで,インターネット調査を用いて,主に(i)産後1年以内の父親における抑うつ症状の現状と,(ii)育児休暇取得期間別にみた抑うつ症状の差異について実証的に検討することを目的とした.
I.方法
1.対 象
対象は,以下のすべての条件を満たす20歳代および30歳代の男性とした.
(1)日本在住で0~1歳の子どもをもつ.
(2)子どもは,ほぼ満期産で出生した単胎児で,先天異常や奇形がなく,新生児集中治療室(NICU)に入院したことがない.
(3)両親が婚姻関係にある日本人家庭である.
これらの条件設定については,岩田らの先行研究10)を参考とした.
2.調査方法
本研究は,株式会社クロス・マーケティング社のモニターパネルを用いて,インターネット調査を実施した(調査は2025年3月3~6日に実施).調査においては,回答の信頼性を担保するため,同社が標準搭載する不正回答検出機能を活用した.具体的には,ロジックチェックやトラップ設問などを用い,虚偽の回答が一定程度排除され,より信頼性の高いデータ収集に努めた.
3.質問項目と回答方法
本調査では,以下の項目について回答を求めた.(1)年齢,(2)性別(「言いたくない」を含む),(3)居住地,(4)職業,(5)育児休暇の取得状況(取得の有無および取得期間),(6)現在の抑うつ症状,(7)現在メンタルヘルスの不調がある場合,それが日常生活に支障を及ぼしているか,(8)現在のメンタルヘルス関連の医療機関(精神科,心療内科,メンタルヘルスクリニックを含む)への通院の有無(病名までは問わず),(9)過去のメンタルヘルス関連の通院歴の有無,(10)育児休暇を取得して良かったと感じているか,(11)父親になったことに喜びを感じているか,(12)困ったときに周囲からサポートが得やすいか,(13)現在メンタルヘルスの不調がある場合その原因と考えられるもの,(14)産後にメンタルヘルスの不調が生じた場合に望まれる社会的支援,である.
なお,本研究の調査票には,(2)性別を確認する項目(「男性」「女性」「言いたくない」)を設けた.これは,倫理的配慮として回答者のプライバシーや性自認への配慮を行うためである.また,質問への解答項目はあまり負担にならないよう簡便さを心がけ,(5)の育児休暇の取得状況については,まず取得の有無を尋ね,取得した者には,取得期間を0~1ヵ月未満,1~2ヵ月未満,2~3ヵ月未満,3~4ヵ月未満,4~5ヵ月未満,5~6ヵ月未満,6~7ヵ月未満,7~8ヵ月未満,8~9ヵ月未満,9~10ヵ月未満,10~11ヵ月未満,11~12ヵ月未満,12ヵ月以上の13区分からボタン選択方式で回答してもらった.(7)は「いる」「いない」の二項選択,(8)と(9)は「あり」「なし」「言いたくない」の三項選択,(10)は「良かった」「悪かった」「不明」の三項選択,(11)は「いる」「いない」「不明」の三項選択,(12)は「得やすい」「得にくい」「不明」の三項選択,(13)および(14)は自由記述形式とした.
(6)についての産後期における抑うつ症状の評価は,一般的には日本語版エジンバラ産後うつ尺度(Edinburgh Postnatal Depression Scale:EPDS)が使われることが多い20).しかし,今回,(6)現在の抑うつ症状の評価には,日本語版自己記入式簡易抑うつ症状尺度(Quick Inventory of Depressive Symptomatology-Self-Report, Japanese version:QIDS-J)を用いた.その理由として,EPDSは本邦においても臨床場面や研究で広く使用されている一方で,日本人男性に適したカットオフ値については十分なエビデンスが存在せず,国際的にも設定値が大きく異なることが報告されている3)27).このため,本研究では,性差の影響を受けにくく,うつ病の重症度をDSMの診断基準に即して評価できる標準化尺度としてQIDS-Jを採用した.
QIDS-Jは16項目からなり,DSM-5における大うつ病性障害の9つの症状領域に基づいて作成されている.各項目は0~3点で評定され,最大スコアは27点であり,スコアが高いほど,抑うつ症状が重いとされる.利点としては,5分以内で記入可能な簡便性,性欲や性活動に関する項目がなく答えやすいこと,自己記入式で臨床・研究両面で使用しやすく標準的評価尺度として用いられており,抑うつ症状のモニタリングや治療効果の判定に有効性が高いこと,などが挙げられる6).また,QIDS-Jは,国内外で高い信頼性と妥当性が報告されているため,スクリーニングや産後うつに特化した他の自己評価尺度とは異なり,うつ病の重症度をより正確に把握し,かつ診断基準との整合性を保った形での評価が可能である6).なお,EPDSは日本人男性のカットオフ値のエビデンスは不十分ともいわれているが27),QIDS-Jではカットオフ値を6点としており,6点以上の場合,うつ病の可能性があるため医療機関への相談が推奨されるレベルとなっている.したがって,本研究では,6点以上を「陽性群」,5点以下を「陰性群」と定義した.
4.倫理的配慮と回答方法
本研究は,研究対象者の人権を尊重し,十分な倫理的配慮のもとに実施された.調査実施にあたっては,研究の目的,内容,自由意志による参加,回答内容の匿名性および機密保持,データの使用目的,将来的な学術的利用の可能性について,事前に説明を行ったうえで同意を取得した.また,参加者はいつでも無条件に参加を中止できる旨を明記し,そのうえで「同意」のボタンを押すことで,インフォームド・コンセントが得られたと見なした.
なお,本研究は,医療法人社団三和会しおかぜ病院倫理審査委員会の承認を得て実施した〔承認日:2025年2月5日,承認番号:なし(当該委員会の運用上付与されない)〕.
5.研究法とデータ分析
本研究の主たる目的は量的解析にあるが,補足的に質的解析も実施した.先行研究において男性の産後うつは20~30歳代の父親が主要なリスク層であることがいくつか報告されているため9)21),本研究でもこの知見をふまえ,20~30歳代をまとめて量的分析を行った.量的分析では,収集されたデータに対して統計解析を行い,各変数間の関係および群間差の有無について検討した.まず,群間比較においては,カテゴリー変数に対してχ2検定を実施した.有意差が認められた場合には,補足的に調整済み標準化残差を算出し,どのカテゴリーにおいて統計的に有意な偏りが存在するかを確認した.さらに,群間差の大きさを把握するために,Cramér's Vを効果量として算出した.変数間の関連性を検討するためには,スピアマンの順位相関係数(Spearman's rank correlation coefficient)を用いた.この相関係数はそのまま効果量として解釈した.群間比較におけるQIDS-Jスコアの差については,得点分布が正規性を満たさない可能性を考慮し,ノンパラメトリック手法であるKruskal-Wallis検定を実施した.その結果,有意な群間差が認められた場合には,Dunn検定にHolm法による多重比較補正を適用し,どの群間に統計的差異が存在するかを詳細に検討した.すべての統計解析において,有意水準は両側検定で5%(P<0.05)とし,必要に応じて95%信頼区間(95% CI)を算出した.なお,効果量の解釈はCohenに基づき5),Cramér's Vおよび相関係数rは,0.10を小,0.30を中,0.50を大,とした.
質的研究の部分では,KJ法11)を参考に,20歳代と30歳代との違いを考慮しつつ,情報の意味づけおよび構造的整理を重視し,参加者の表現の意図を保持した原文ベースのエピソードを抽出した.抽出後は,エピソード間の類似性・相違性を検討し,サブカテゴリー化,さらにカテゴリー化を行った.
なお,解析はすべてHAD ver. 18.0とMicrosoft Excel 2019(32-bit;Microsoft, Redmond, WA, USA)を用いて実施した.
II.結果
1.対象者の属性
本研究では398名から回答を得た.そのうち,精神科・心療内科などのメンタルヘルス関連医療機関に現在通院中の者,性別で「女性」または「言いたくない」と回答した者,ならびに欠損値を有する者を除外した.精神科・心療内科などのメンタルヘルス関連医療機関に現在通院中の者を除外した理由は,既存の診断や治療の影響により抑うつ症状の評価にバイアスが生じる可能性を極力減らすためである.一方,過去の受診歴を有する者については先行研究に従い対象に含めた.最終的に,回答に不備のなかった300名を解析対象とした.これは,探索的な横断調査としては統計的にも実務的にも妥当な規模と考えられる.特に,インターネット調査による一般父親を対象としたメンタルヘルス調査では,200~300名規模の先行研究が多数存在しており16)21),本研究のサンプルサイズもそれらの基準をふまえて設定された.また,QIDS-Jを用いた分析においては,名義変数とのクロス集計やt検定,ならびに相関分析を行うために各群に一定のサンプル数が必要とされるため,今回の300名というサンプル数は有効な統計的分析を行ううえで十分であると判断した.
解析対象者300名の平均年齢は32.4歳〔標準偏差(standard deviation:SD)=5.6〕であった.年齢層別にみると,20歳代は110名(36.7%),30歳代は190名(63.3%)で,30歳代の占める割合が20歳代よりも有意に高かった〔χ2(1)=21.33,P<0.001〕.
地域の人数分布(適合度検定)では,居住地域を,A地域(北海道・東北):24名(8.0%),B地域(関東):137名(45.7%),C地域(中部・近畿):89名(29.7%),D地域(中国・四国):23名(7.7%),E地域(九州・沖縄):27名(9.0%)に分けると,期待値が等しいと仮定したχ2検定の結果,有意な偏りが認められた〔χ2(4)=175.40,P<0.001〕.調整済み標準化残差は,A=-5.20,B=+11.11,C=+4.19,D=-5.34,E=-4.76であり,B地域とC地域が有意に多く,A地域,D地域,E地域が有意に少なかった(|残差|≧1.96).
地域別の陽性率(独立性の検定)は,A地域:50.0%(n=12/24),B地域:26.3%(n=36/137),C地域:33.7%(n=30/89),D地域:17.4%(n=4/23),E地域:37.0%(n=10/27)であり,χ2検定の結果,地域間で陽性率に有意な差は認められなかった〔χ2(4)=8.27,P=0.082〕.
職業別にみると,一般社員および管理職の会社勤務者が全体の71.4%を占めていた(図1).総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」によると26),一般社員と管理職の割合は54%と報告されており,本研究の対象者ではその割合がやや高い傾向を示していた.
育児休暇期間については,取得しなかった者が全体の61.3%を占めていた.また,取得者の大多数(81.0%)は3ヵ月未満にとどまっていた(表1).
メンタルヘルス関連の医療機関に通院歴があるのは全体の10.3%であった.なお,20歳代および30歳代における通院歴について有意差は認められなかった〔χ2(2)=0.41,P=0.813〕(表2).
父親になったことに喜びを感じていると回答した者は,全体の72.0%(n=216)であった.また,育児休暇を取得した群(n=116)のうち,73.3%(n=85)が育児休暇に満足していた.
2.量的解析
QIDS-Jスコアが6点以上の陽性群は全体の30.7%(n=92)(図2),陽性群かつ現在日常生活に支障がある者は全体の12.3%(n=37)であったが,QIDS-Jスコアと年齢との間に有意な相関は認められなかった〔ρ=0.027,95%CI(-0.090,0.146),P=0.640〕.また,陽性群と陰性群における日常生活支障の有無を比較した結果,陽性群で日常生活に支障ありは37名,陰性群では4名で,陽性群で有意に高かった〔χ2(1)=79.28,P<0.001,Cramér's V=0.51〕
育児休暇期間(月)とQIDS-Jスコアの関連を検討するため,5群(育児休暇なし,0~1ヵ月未満,1~3ヵ月未満,3~6ヵ月未満,6ヵ月以上)を対象にKruskal-Wallis検定を実施した.検定の結果,群間差は有意であった〔χ2(4)=31.85,P<0.001〕.事後比較としてDunn検定にHolm法による多重比較補正を行ったところ,育児休暇なし群と1~3ヵ月未満群〔調整後P<0.001,r=-0.255,95%CI(-0.358,-0.146)〕,育児休暇なし群と3~6ヵ月未満群〔調整後P=0.013,r=-0.184,95%CI(-0.292,-0.073)〕の間に有意差が認められた.
一方,育児休暇なし群と6ヵ月以上群,ならびにその他の群間では有意差は示されなかった.効果量の解釈として,1~3ヵ月未満群との比較では中程度,3~6ヵ月未満群との比較では小~中程度の差が認められた(表3).さらに,各群間のスコア分布の特徴を視覚的に示すため,育児休暇期間を5区分(「なし」「1ヵ月未満」「1~3ヵ月未満」「3~6ヵ月未満」「6ヵ月以上」)とした箱ひげ図(図3)を作成した.図3より,「1~3ヵ月未満」群および「3~6ヵ月未満」群では,中央値が相対的に高く,分布が上方へシフトし,ばらつきも大きいことが確認された.Dunn検定(Holm補正)により「育児休暇なし」群と「1~3ヵ月未満」群(P<0.001),「育児休暇なし」群と「3~6ヵ月未満」群(P=0.013)の間に有意差が認められた.
通院歴別のQIDS-J得点と育児休暇期間の関連では,通院歴なし群〔ρ=0.178,95%CI(0.056,0.295),P=0.005〕で有意な正の相関がみられ(図4),メンタルヘルス関連の医療機関に通院歴あり群には有意差はみられなかった〔ρ=0.286,95%CI(-0.077,0.581),P=0.119〕(図5).
日常生活に支障がある群(n=41)のうち,20歳代・30歳代別に困ったときのサポートの得やすさを比較した.20歳代では「サポートが得にくい」と回答した者が17名中14名,30歳代では24名中12名であり,20歳代のほうがサポートを得にくい傾向が示されたが,この差は統計的に有意には至らなかった〔χ2(1)=3.20,P=0.073,Cramér's V=0.28〕.
3.質的解析
本研究の質的分析では,対象者300名のうち,より支援を要すると考えられる「1ヵ月以上の育児休暇を取得した父親」の自由記述回答(n=55)を抽出し,KJ法11)を参考に年代別に整理した.ただし,自由記述形式による回答であったため短文が多く,有効回答数も限られていた.そのため,本稿では参考データとして要約した形で結果を提示する.なお,〈 〉内は大カテゴリーを示す.
分析の結果,「現在メンタルヘルスの不調がある場合その原因と考えられるもの」については,20歳代(n=22)では「不明」「分からない」といった回答が9名と最も多く,背景要因を特定しない傾向が示された.一方,30歳代(n=33)では「育児と仕事の両立困難」「育児疲れ」「妻へのストレス」など,〈家族関係のストレス〉に分類される回答が6名で最多であった.加えて,「不明」「分からない」も5名にみられた.
次に「産後にメンタルヘルスの不調が生じた場合に望まれる社会的支援」についても,20歳代では「不明」「分からない」が11名と最多であった.これに対し30歳代では,「カウンセリング」「オンライン診療」など〈医療支援の充実〉に関する回答や,「育児代行サービス」「市の支援制度」など〈地域の支援体制の充実〉に分類される具体的な支援ニーズが最も多かった.
III.考察
本研究の結果,20~30歳代の父親の約3割がQIDS-Jで抑うつ傾向を示し,特に1~3ヵ月未満および3~6ヵ月未満の育児休暇取得群でQIDS-Jスコアが高かった.また,通院歴のない群では育児休暇期間と抑うつ症状の間に弱い正の相関が認められた.
以上をふまえ,本考察では,主に(1)父親における抑うつ症状の現状,(2)育児休暇期間との関連性について,先行研究の知見と比較しながら検討する.
1.産後期における抑うつ症状について
本研究では,産後1年以内の父親において30.7%がQIDS-Jで抑うつ傾向(6点以上)を示した.また,そのうち現在の日常生活に支障がある者は12.3%であり,父親の一定数が実際に支援や医療的介入を必要とする可能性が示唆された.
父親の抑うつ症状の評価に用いられてきたEPDSは,特に男性において適切なカットオフ値が研究間で一致しておらず,推定有病率が大きく変動しうる22).本研究では,抑うつ症状の重症度を包括的に捉えられるQIDS-Jを用い,既存のカットオフ値に基づき評価した.この結果,先行研究で報告されている日本における父親の周産期抑うつの有病率(8.2~13.2%)28)と比較して,相対的に高い陽性率が示された.
この背景として,(i)育児に伴う睡眠不足や役割葛藤,仕事と家庭の両立の困難など,父親が産後に直面しやすい心理社会的ストレス,(ii)医療機関と接点をもたないまま抑うつ症状を抱える“潜在的リスク層”の存在が考えられる.今回,通院歴がないにもかかわらずQIDS-J陽性かつ生活に支障がみられた父親が一定数存在したことは,相談・受診行動の遅れやハードルの高さを反映しているといえる21).
また,オンライン調査であったことにより,対面方式では捉えにくい軽度の抑うつ症状が可視化された可能性がある.一方で,匿名性が回答の正確さを高めた点は,本研究の強みといえる.
さらに,「父親になった喜び」を感じていると回答した者は72.0%であり,先行調査4)よりやや低い傾向を示した.この結果は,抑うつ傾向が肯定的感情の低下と関連する可能性を示唆している.父親の周産期抑うつは,家族関係や子どもの発達にも影響しうる23)ことから,父親のメンタルヘルスを個人の問題として矮小化せず,家族機能全体にかかわる課題として捉える必要がある.
以上より,父親に対するメンタルヘルススクリーニングの導入や,相談・支援制度への接続を促進する仕組みを整備することが急務である.
2.育児休暇期間とQIDS-Jスコアとの相関について
本研究では,育児休暇を取得していない群と比較して,1~3ヵ月未満群および3~6ヵ月未満群においてQIDS-Jスコアが有意に高値を示した.また,通院歴のない父親では育児休暇期間と抑うつ症状との間に弱い正の相関が認められ,休暇期間が長いほど抑うつが直線的に低減するという単純な関係は支持されなかった.このため,父親のメンタルヘルスは休暇の「期間」そのものよりも,取得を取り巻く心理社会的環境に強く影響される可能性が示唆される.
父親の抑うつには,精神疾患の既往,母親の抑うつ,社会的サポートの不足,仕事と家庭の両立困難など複数の要因が関与する2).本研究で一部の休暇取得群において抑うつ傾向が高かった背景には,休暇取得が心理的負担となった状況が存在した可能性が考えられる.つまり,父親の産後期においては,育児休暇が必ずしも緩衝要因として機能するとは限らない.
先行研究によれば,父親の育児休暇取得がメンタルヘルスに好影響を及ぼす可能性は,賃金補償が十分である制度や,育児休暇の取得を支持する職場・制度環境が整っている場合に高まる傾向があると指摘されている8).本研究の結果は,父親支援において「休暇の長さ」だけを議論するのではなく,「取得しやすい制度環境」と「家庭・職場での実質的な支援体制」を整備する必要性を改めて示すものである.
なお,Nishigori, H.ら17)は,日本人男性において精神疾患の既往が周産期抑うつの有意なリスク因子であることを報告している.本研究では通院歴あり群で育児休暇期間とQIDS-Jスコアの相関が認められなかったが,これは治療経験を通じて自己状態の把握や支援資源へのアクセスにかかわる対処スキルが形成されていたことで,休暇期間による抑うつ症状の変動が相対的に小さかった可能性が考えられる.
以上より,本研究が示したのは,「父親の抑うつそのものの生起リスク」ではなく,「育児休暇が抑うつに与える影響に個人差が存在する」という点である.今後は,休暇の「期間」に加えて「質」(過ごし方),家庭内外の支援状況,取得の自発性,職場文化などの要因を含めて検討する必要がある.こうした点をふまえると,父親の産後期メンタルヘルス支援は,個人・家庭・職場・社会制度の複数層に働きかける包括的な視点から再設計することが求められる.
3.質的研究について
本研究では,1ヵ月以上の育児休暇を取得した父親群の自由記述回答を抽出し,年代(20歳代,30歳代)別に「現在メンタルヘルスの不調がある場合その原因と考えられるもの」および「産後にメンタルヘルスの不調が生じた場合に望まれる社会的支援」について質的に整理した.有効回答は短文が多く,件数も限られていたため,一般化可能性には制約がある.それでも,量的解析のみでは捉えきれない心理社会的背景を補足するうえで,一定の意義を有する.
分析の結果,「現在メンタルヘルスの不調がある場合その原因と考えられるもの」については,20歳代では「不明」「分からない」とする回答が相対的に多く,背景要因の自覚・言語化が難しい可能性が示唆された.背景として,自己洞察や育児経験の未熟さ,支援資源に関する知識の不足,さらには若年男性に特有の“弱音を言語化しにくい”文化的要因の関与が考えられる.一方,30歳代では家族関係のストレスなど心理社会的要因を具体的に記述する回答が多く,年代が上がるにつれて背景要因を明確に意識する傾向が認められた.
「産後にメンタルヘルスの不調が生じた場合に望まれる社会的支援」についても,20歳代では「不明」が中心で必要な支援を特定できていない傾向がみられたのに対し,30歳代では医療支援の充実や地域の支援体制の整備など,心理的・制度的な具体的ニーズが挙がった.
これらの所見は,父親のライフステージに応じて抑うつの背景要因や支援ニーズが異なることを示唆する.本研究では,「困ったときに周囲からサポートが得やすいか」について,20歳代,30歳代のいずれにおいても,サポートが得にくいとする回答が一定数みられた.親のメンタルヘルスは年齢や社会的文脈の影響を強く受けることが指摘されているが18),若年の父親ほど職場・地域における人間関係の未形成や,はじめての子どもをもつことに伴う相談先の不明確さが孤立感を増幅させる要因となりうる.
さらに,本研究の量的分析において提示した「育児ストレス」「支援制度との未接続」「社会的孤立」といった背景要因は,質的分析において具体的に一部裏づけられた.例えば,20歳代では「サポートが得にくい」「不明」といった回答が社会的孤立や支援制度との未接続を反映しており,30歳代では家族関係のストレスや地域支援への具体的要望が記述されていた.以上より,20歳代には背景要因や支援ニーズへの「気づきを促す丁寧な支援」,30歳代には自覚された心理社会的困難に対応する「心理的・社会的支援および制度的整備」を重視した介入が求められる.
4.本研究の限界と強み
本研究にはいくつかの限界がある.第一に,本研究はインターネット調査によりデータを収集しており,サンプルに選択バイアスが生じている可能性がある.特に,インターネット利用が日常的な層や育児に関する問題意識が比較的高い層が回答者として多く含まれた可能性があり,結果の一般化には慎重を要する.
第二に,本研究は横断的調査であるため,育児休暇期間と抑うつ症状との因果関係を明確にすることはできない.すなわち,抑うつ傾向があるために長期休暇を選択した可能性など,双方向的な影響を考慮する必要がある.
第三に,本研究では,出産前に抑うつ症状が存在していたかどうかを直接的には評価していない.これは,(i)DSM-5およびICD-10など国際的診断基準が原因帰属を前提とした設計を採用していない点,(ii)先行する多くの横断研究においても症状ベースの評価が一般的である点,(iii)「出産が原因かどうか」を直接問うことは回答者に心理的負担を与え,否定的連想を誘発する可能性がある点,(iv)過去の精神状態を想起させる質問はリコールバイアスを招きやすい点に基づく.したがって,本研究で用いた「産後1年以内にQIDS-Jが陽性である状態を産後期の抑うつ症状と見なす」という定義は,臨床診断を代替するものではなく,症状水準に基づくスクリーニングとして位置づけられる.そのため,抑うつ症状が産前から持続していた可能性については慎重な解釈が必要である.
第四に,QIDS-Jは抑うつ症状を評価するうえで信頼性の高い尺度であるものの,臨床診断を置き換えるものではない.したがって,本研究における「陽性群」はあくまで抑うつ傾向を有する集団を示すものであり,診断確定例とは異なる点に留意する必要がある.
第五に,自由記述を含む質的分析は文脈情報が限られるため,解釈に一定の主観が介在する可能性がある.今後は面接調査などを併用し,背景や語りの詳細を補完することで,より深い理解が可能となるであろう.
一方で,本研究にはいくつかの強みもある.第一に,匿名性が担保された調査であったため,多くの父親から率直な回答を得ることができた.第二に,本研究は父親の産後期メンタルヘルスに関する国内研究の空白を補完し,制度・支援環境・家庭状況といった多層的要因と抑うつ症状との関連について実証的に示した点に意義がある.第三に,量的データと自由記述に基づく質的データを統合して検討したことで,「育児ストレス」「支援制度との未接続」「社会的孤立」などの背景要因を多面的に捉えることが可能となった.
以上より,本研究は父親の産後期メンタルヘルス支援において,制度・家庭・地域を横断した支援体制の必要性を示す基盤的知見を提供するものである.
5.将来展望
本研究では,男性の産後期における抑うつ症状の実態やその背景因子について多角的に検討したが,今後のさらなる発展に向けては,実践と研究を両立させた取り組みが求められる.産後のメンタルヘルスに関しては,抑うつ症状のみならず,不安障害をはじめとする多様な精神的困難が報告されており15),幅広い視点からの支援体制の整備が必要である.
実践的展望として,著者自身,今後はオンライン診療を本格的に導入し,父親のメンタルヘルス支援に携わる予定である.対面受診が難しい父親に対して,柔軟かつ匿名性の高い相談機会を提供することで,潜在的な支援ニーズを掘り起こし,早期介入につなげていきたい.特に,メンタルヘルス不調を抱えながらも受診に至っていない層に対しては,オンラインという形式が心理的ハードルを下げる有効な手段となりうる.
研究的展望としては,まず海外を含む先行研究を精査するとともに,男性の産後期における抑うつ患者を対象に半構造化面接を実施し,質的データを収集することが不可欠である.収集したデータは修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(modified grounded theory approach:M-GTA)に基づき分析し,より精緻な概念枠組みを構築する.さらに,その知見と先行研究を基盤として独自の質問票を開発し,信頼性および妥当性を検証したうえで大規模調査を実施する.その後,共分散構造分析(構造方程式モデリング)を用いて,出産に伴う直接的影響に加え,アンコンシャス・バイアスなどを含む間接的影響を同定し,関連する心理社会的要因の構造的関係を明らかにすることをめざす.得られた知見は,実装研究による受容性・実現可能性・費用対効果の評価も加味しつつ,産婦人科・精神科・小児科などの医療機関や保健所における医師・看護師・保健師・コメディカルと共有し,現場に即した包括的支援システムの構築へと還元していきたい.
また,本研究では育児休暇の有無および取得期間と抑うつ症状との関連を明らかにしたが,休暇の「十分さ」や「質」については本研究の枠組みでは検討していない.今後は,十分な育児休暇期間の確保が父親のメンタルヘルス改善にどのように寄与するかについて,縦断的研究や介入研究を通じた検討が必要である.
これらの取り組みにより,年齢,職業,家庭環境,支援の有無といった父親の多様な状況に応じたメンタルヘルスの変化や支援ニーズを把握することが可能となる.そのうえで,実践的かつ応用可能な支援方略を提示し,心理支援,医療,福祉,地域資源が連携しながら,父親が孤立せずに育児にかかわれる環境を整備することで,父親のメンタルヘルス支援に新たな視座を提供していきたい.
おわりに
本研究では,DSM-5における大うつ病性障害の9つの症状領域に基づいて作成されたQIDS-Jを用い,父親の産後期における抑うつ症状の実態を明らかにするとともに,育児休暇期間とQIDS-Jスコアとの関連を検討した.近年,父親の育児参加が社会的に要請される一方で,父親の周産期の抑うつ症状や心理的困難に対する認識および支援体制は依然として十分とはいえない.本研究は,この空白を一部補う国内の実証的知見を提示した点に意義がある.
女性を対象とする先行研究では,産後うつに対する適切な治療・支援が,将来の出産・育児への意欲や心理的安定に寄与しうることが示されている24).本研究で示された父親のメンタルヘルス課題への支援の重要性は,家族形成や出生意欲の促進という中長期的観点からも裏づけられる.今後は,父親のメンタルヘルス課題を個人の問題に還元せず,家庭・職場・地域社会を包含する多層的・包括的支援の枠組みを構築することが不可欠である.そのためには,スクリーニング体制の整備に加え,心理的・社会的支援資源の拡充およびジェンダーに配慮した啓発・教育の推進が求められる.さらに,父親が安心して育児に参画できる社会の実現に向け,実態把握にとどまらず,縦断的研究や介入研究を含む継続的な検討が望まれる.
なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
謝 辞 本研究を実施するにあたってご協力いただいた方々に感謝申し上げます.
1) American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed (DSM‒5) American Psychiatric Publishing, Arlington, 2013 (日本精神神経学会 日本語版用語監修, 髙橋三郎, 大野 裕監訳: DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院, 東京, 2014)
2) Ansari, N. S., Shah, J., Dennis, C. L., et al.: Risk factors for postpartum depressive symptoms among fathers: a systematic review and meta-analysis. Acta Obstet Gynecol Scand, 100 (7); 1186-1199, 2021![]()
3) Barnett, B., Matthey, S., Gyaneshwar, R.: Screening for postnatal depression in women of non-English speaking background. Arch Womens Ment Health, 2 (2); 67-74, 1999
4) ベネッセコーポレーション: たまひよ妊娠・出産白書2024全体サマリー/1. 父母の子育て意識. 2024 (https://st.benesse.ne.jp/press/content/?id=187546) (参照2025-08-31)
5) Cohen, J.: Statistical Power Analysis for the Behavioral Sciences, 2nd ed. Lawrence Erlbaum Associates, Hillsdale, 1988
6) 藤澤大介, 中川敦夫, 田島美幸ほか: 日本語版自己記入式簡易抑うつ尺度 (日本語版QIDS-SR) の開発. ストレス科学, 25 (1); 43-52, 2010
7) Gheyoh Ndzi, E., Holmes, A.: Paternal leave entitlement and workplace culture: a key challenge to paternal mental health. Int J Environ Res Public Health, 20 (8); 5454, 2023![]()
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9) 今西洋介, 三牧正和, 永光信一郎ほか: 男性の産後うつと育児休業に関するアンケート調査. 日本小児科学会雑誌, 127 (1); 90-95, 2023
10) 岩田裕子, 森 恵美, 前原澄子: 父親役割への適応における父親のストレスとその関連要因. 日本看護科学会誌, 18 (3); 21-36, 1998
11) 川喜田二郎: 発想法―創造性開発のために―. 中央公論社, 東京, 1967
12) 厚生労働省: 男性の育児休業取得促進等について. 2023 (https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/000676815.pdf) (参照2025-08-31)
13) 厚生労働省: 令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査 (速報値). 2023 (https://www.mhlw.go.jp/content/001128241.pdf) (参照2025-08-31)
14) 厚生労働省: 令和5年度雇用均等基本調査結果のポイント (概要). 2024 (https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/001328495.pdf) (参照2025-08-31)
15) Matthey, S., Barnett, B., Howie, P., et al.: Diagnosing postpartum depression in mothers and fathers: whatever happened to anxiety? J Affect Disord, 74 (2); 139-147, 2003![]()
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19) O'Brien, M., Brandth, B., Kvande, E.: Fathers, work and family life: global perspectives and new insights. Community Work Fam, 10 (4); 375-386, 2007
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30) World Health Organization: The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders: Clinical Descriptions and Diagnostic Guidelines. World Health Organization, Geneva, 1992 (融 道男, 中根允文ほか監訳: ICD-10精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン―, 新訂版. 医学書院, 東京, 2005)












