学術研究を支えるものは,研究結果の客観性や透明性,またそれによってもたらされる科学的公正性である.しかし,この基盤を揺るがしかねない潜在的な脅威として「利益相反」がある.最近では利益相反についての議論は広く行われ,この用語は広く知られるようになっている.従来,利益相反の議論は,主に製薬企業や医療機器メーカーなどとの金銭的な利害関係に起因する経済的な面に集中してきた.研究者が,研究資金,講演料,コンサルタント料,株式保有といった経済的利益によって,その研究の設計から結果の解釈に至るまでの判断を歪められる可能性である.しかし,近年ではこのような経済的(金銭的)な利益相反の他に,非経済的利益相反が注目されている.これは個人の信念,人間関係,学術的な名声,名誉・キャリア形成の欲求,所属組織への忠誠心といった,金銭以外の多岐にわたる要素が,研究の客観的な判断を妨げる状態を指している.非経済的利益相反のうち,学術分野に関係する学術的利益相反は,研究や教育の公正性に影響を与え,特に医学雑誌の編集や診療ガイドライン作成において内容の客観的な評価に偏りが生じることが危惧される.しかし,非経済的利益相反の管理は難しく,個人のプライバシーや信念を侵害する可能性もあるため,透明性の向上や情報公開,参加メンバーの慎重な選定などが提案されている.
https://doi.org/10.57369/pnj.26-064
受付日:2025年10月27日
受理日:2026年2月17日
はじめに
利益相反(conflict of interest)とは,「外部との経済的な利益関係等によって,公的研究で必要とされる公正かつ適正な判断が損なわれる,又は損なわれるのではないかと第三者から懸念が表明されかねない事態」14)をいう.つまり,その人の私的利益と職業上の義務との間に衝突が生じ,その結果として,その人の職業上の行動や判断が,経済的利益,学術的地位の向上,診療による収入,地域社会での評価といった個人的な利益によって歪められているのではないかと疑われてしまう状態といってよいであろう.
利益相反は,医学研究や臨床実践において避けて通れない課題であるにもかかわらず,多くの臨床家や研究者は,自身の意思決定において利益相反による偏りがあることに気付いていない7).Brax, H. らの系統的レビュー5)は,製薬会社の関与が医師の処方行動に偏りを生じさせることを示している.また,企業の資金提供が診療ガイドラインや総説論文などさまざまな媒体において偏りを引き起こす可能性を示唆するレビューも発表されている22).精神医学領域ではPerlis, R. H. ら25)が,産業資金を受けた臨床試験はポジティブな結果を示す傾向が強いことを明らかにしている.特に精神医学領域は,診断では客観的な指標は使用できず,薬物療法への依存度が高く,また社会的スティグマと強く結びついている.そのため,利益相反が不適切に管理された場合の影響は他領域よりも深刻であり,精神医学全体の信頼を損なう危険性がある10).
従来,利益相反は製薬企業や医療機器メーカーと研究者の間の経済的(金銭的)関係を指すものとして理解されてきた.しかし近年では,経済的要素にとどまらず,研究者個人の信念,立場,所属,学術的評価欲求,あるいは人間関係といった非経済的要素もまた判断や行動に影響を与えうることが広く認識されつつある.ただし,利益相反は必ずしも不正や背信行為を意味しない.むしろ,適切な開示と管理によって透明性と信頼性を確保すべき状況を指すものと理解すべきである.本稿では,まず経済的利益相反が問題となった事例を紹介し,続いて非経済的利益相反の説明と問題となった事例や課題を説明する.その後,非経済的利益相反のなかでも,特に問題となりやすい学術的あるいは知的利益相反とその管理について述べる.最後に,これら非経済的利益相反が診療ガイドラインに与える影響およびその管理方法に言及する.研究の公平性へのさらなる課題として,非経済的利益相反の認識と適切な管理を提示したい.
Ⅰ.経済的利益相反(financial conflict of interest)
経済的利益相反が問題になった象徴的な例として,日本では2013年のディオバン事件がある.ここでは製薬企業の社員が著者の一人であることを開示しないまま論文が発表され,不適切な解析が行われたことが後に発覚した.この事件は複数の論文撤回を招き16),臨床研究に対する社会的信頼を大きく損ない,臨床研究法の立法にまでつながった.また最近,日本の精神医学分野では,双極症およびうつ病の診療ガイドライン作成者と製薬会社との間の経済的な利害関係を調査した研究が発表された20).そこでは少数の特定の執筆者に経済的利益相反が集中していることが明らかになり,このガイドラインにおける利益相反管理に疑問をもたれる結果となっている.
一方で,利益相反の開示は逆に公衆の信頼を低下させるのではないかという危惧もあることは指摘しておくべきであろう30).Kanter, G. P. ら13)は,Sunshine Act〔注:Sunshine Act(正式名:Physician Payments Sunshine Act)とは,米国における製薬・医療機器企業と医師や医療機関との金銭的関係を透明化するための法律で,企業は医師や病院へ行う金銭提供を国に報告しなければならず,その結果はインターネット上に公開されている〕が新たに施行された州と,すでに施行されていた州との間で,主治医や医療職全体への信頼感の変化を比較するために,一般住民を対象とした調査を行った.医師に対する業界の支払いを透明化することにより,医師は金銭的な利得を隠蔽していないという誠実さを示すことができ,医師の社会的信頼を高めることができるのではないかと予想された.しかし,実際は多くの患者は公開された情報に接しておらず,「医師は製薬企業から高額の報酬を得ている」というメディア報道により,逆に医師や医療職全体に対する不信感が高まってしまったことが示された13).
Ⅱ.非経済的利益相反(non-financial conflict of interest)
1.非経済的利益相反とは何か
近年,利益相反の概念はさらに非経済的(non-financial)な領域にも広がっている(表1)19).非経済的利益相反は,金銭的利得が存在しなくとも,信念や価値観,対人関係,所属先,社会的地位などが判断に影響を与える状況を指す(表2)33).例えば,1)人間関係(友人,家族,現在または過去の指導者に対しては支持的に,敵対グループなどに対しては批判的になりがちなこと),2)論文のテーマに関連する個人的な信念(政治的,宗教的,イデオロギー的信念),3)属する学派や組織に対する忠誠心,4)個人的な名誉・キャリア形成をめざした業績作りなどである.医療分野においても,人生全般と同様に,金銭は行動の唯一の決定要因ではない.価値観,信念,社会的関係も同様に重要であり,これらの要因が意思決定や保健政策に与える影響を排除することはできない32).
非経済的利益相反は多岐にわたるため,しばしば本人も自覚しないかたちで判断に影響を与える.特に精神医学においては,研究者や臨床家の価値観や信念が診断や治療方針に強く影響することが多い.例えば,薬物療法中心か心理社会的介入を重視するかといった治療者の立場の違いは,学問的議論にとどまらず臨床現場での治療選択に直結する.自らのもつ宗教的・倫理的立場から,自殺,妊娠中絶,性別違和などに対する意見を患者に過度に押しつけてしまう治療者がいるかもしれない.また,自分を含む特定の治療研究グループが得た結果を過度に重視し,他の治療法を公平に評価することができない治療者がいるかもしれない.これは精神療法だけでなく,薬物療法あるいは身体療法24)においても同じように生じうる17).このように非経済的利益相反の影響は精神科領域において大きく,患者の利益を最優先に守るための透明性確保が求められている.
2.非経済的利益相反がもたらした出来事
Wakefield事件は非経済的利益相反の1例である.自閉症とMMRワクチンの関連を主張した1998年の論文は,後に被験者の選択における不正,データの捏造,そして著者自身の反ワクチンという強い信念が背景にあったことが明らかになり,2010年に撤回された15).発表後,反ワクチン団体との関係や特許申請といった要因によっても歪められていたと判断された.この事件は世界的なワクチン忌避を招き,非経済的利益相反が公衆衛生に大きな影響を与えることを示した.また,WHOによる母乳育児と肥満予防に関するメタアナリシス12)にも非経済的利益相反の問題があることが指摘されている6).この研究では「母乳育児を受けた個体は肥満/過体重と診断される可能性が低い」という結論が得られた.しかしその後,Cope, M. B. ら6)がデータ源となったすべての論文を調べたところ,いずれの論文にも産業資金の関与はないものの,強い出版バイアスが存在することが確認された.彼ら6)はこれらの論文の著者が「母乳育児が子どもの健康によい」という社会的通念や著者個人の信念がバイアスを作り出したのではと推測している.
3.非経済的利益相反開示に伴う問題点
非経済的利益相反では開示の困難さも指摘されている.非経済的利益相反の概念はあまりにも広すぎて,実際の利益相反を定義するよりも,知的信念を表すために使用されているという批判もありうる.実際,誰も完全に中立で偏見がないわけではなく,科学者には自分の専門分野に対する価値観や信念があって当然である.またすべての知的利益が利益相反を構成するわけではなく,科学の進展には多様な視点も必要であるのに,あらゆるものが利益相反とラベル付けされてしまうおそれがある.さらに一部の利益の開示は倫理的・プライバシー上の懸念(例えば,政治的あるいは宗教的な信念の開示)を引き起こす可能性があるなどの問題もある4)11)31).
Ⅲ.学術的利益相反(academic conflict of interest)
1.学術的利益相反とは何か
非経済的利益相反のなかで,特に学術活動に関連するものとして学術的利益相反がある.学術的利益相反とは,学術研究や教育活動において,個人的あるいは職業上の利益が組織上の役割を乗り越えてしまうことによって,学問上の判断や責任に不当に影響を与えてしまうことをいう2).学術的利益相反は,研究者や教育者の客観性や倫理に依拠し,学術研究や教育内容の公正性だけでなく,学問分野全体の信頼性を損なうリスクをはらんでいる.例えば,心理療法に関するレビューの分析では,研究者のもつ特定の心理療法への「忠誠心」が結論への偏り〔治療者忠誠バイアス(therapist allegiance bias)〕を引き起こしていることが示されている8)18).
学術的利益相反が起こりうる場面としては,研究助成の審査,学術雑誌の査読,ガイドラインの作成,教育活動や指導などが考えられる.しばしば,科学的名声,キャリア昇進,学内政治的利益,イデオロギー的なかかわりなどの目に見えない要因も関係し,それらが研究や論文発表におけるバイアス,教育上の人間関係や倫理などに影響を与える.特に医療系の大学に所属する教員は,教育・研究・臨床・社会とのかかわりの交差点に位置しているので,学術的使命と個人的利益の間に矛盾が生じるリスクが高い.
2.学術論文出版に伴う学術的利益相反
学術発表の際の査読プロセスにおける学術的利益相反が問題となっている.Radun, I. 26)によれば,個人的な信念や感情が査読者の客観性を損なう可能性があり,これが敵対的で非倫理的なレビューにつながることがあるという.特に議論の多い分野や小規模な研究分野では,編集者や査読者が特定の擁護団体に所属していることによる利益相反が見過ごされがちになる.特にヒト幹細胞,妊娠中絶,進化論,銃規制,婚姻法など情緒的になりうる課題は扱いが難しい.
対策としては,1)特定の研究分野に対して強い個人的な信念や拒絶感をもっている,あるいは論争に深く関与している査読者は,関連する論文の審査を自ら回避(recusal)する,2)編集者,査読者,著者などすべての関係者は起こりうる利益相反を申告する,3)査読者や編集者自身が非経済的利益相反のあることを意識する,4)非経済的利益相反についてのガイドライン適用を強化する,5)編集委員会の多様性を保つなどがある26).しかし,現在の査読システムでは査読者の利益相反を外部から知ることは困難で,自己申告に頼らざるを得ないなど,非経済的な利益相反の特定と管理は困難であるのが現実である.
出版社側も非経済的利益相反に無関心なわけではない.ちなみに『Nature』誌では2018年に「非経済的利益相反に関する規則を強化する方針」を論文著者に求めるEditorialを表明している21).また,一部の医学出版社も編集方針として,著者の非経済的利益相反について以下のことを開示するように具体的項目を挙げている29).これには,医薬品,専門機器,ソフトウェアなどの受領の有無,研究結果から経済的または評判上の利益・不利益を受ける可能性の有無,利害関係者からの執筆・事務的支援の有無,研究内容に関連すると考えられる個人的,政治的,宗教的,思想的,学術的・知的立場の有無などが含まれている.
3.学術的利益相反の問題点
学術的利益相反を避けるのが難しい理由として,1)研究資金提供の必要性(現代の研究は多額の資金を必要とし,多くの場合,企業,政府機関,その他の外部団体からの資金提供を受けることで成り立っている.資金提供者からの利益や期待が間接的に研究者の行動や研究結果に影響を与える可能性がある),2)専門知識や特定分野への関与(研究者は特定の分野や理論に深く関与するため,無意識に自身の研究にとって有利な解釈を優先することがある.このような知的なバイアスは,ある意味で学問の成長に必要な部分もあり,完全に排除することは困難である),3)職業的・個人的なネットワーク(研究や教育活動のなかで多くの人間関係を築くため,他の研究者や学生との関係が研究や評価に影響を及ぼすことがある.例:共同研究者や指導する学生に対する個人的な感情や関係性が,学術的判断に無意識に影響を与える場合がある),4)キャリアの向上や学問的な認知への欲求(例えば,業績を上げるプレッシャーが注目を集めやすい研究テーマや結果を優先する行動につながるなど)である.
4.学術的利益相反の管理
学術的利益相反の管理はしばしば容易ではない.個人が自分の信条を強くもつことは当然ありうることであり,多様な意見や深い経験をもつ個人をメンバーから外すことは,多様性を許容しないことにもなる.また,実際に非経済的な利益相反の有無を調べることは個人のプライバシーの侵害ともなりかねない.しかし,非経済的利益相反の開示は当然のこととして考えるべきである.したがって,学術的利益相反の管理としては,次のようなことを慎重に検討し行わなければならない.
研究者が企業などから資金提供を受けている場合,資金提供者に有利な結論を出す可能性がある.非経済的利益相反としては,研究者が特定の研究者と個人的に強い関係にあるかを検討する.そのような場合,研究者は親しい関係にある共同研究者を批判しにくくなる,あるいは評価において不公平が生じる可能性がある.また,研究者が特定の理論や立場に長く関与していると,それに基づく研究成果を優先し,異なる証拠や反論に対して偏見をもつことがありうる.したがって,研究者自身も研究資金の提供元や個人的な関係,または特定の理論や立場への関与について敏感になり,利益相反のあることを率直に明示する必要がある.このような研究者自身の自覚も必要であるが,異なる立場をもつ研究者を共同研究者として含めることや,元データを公開して他者による検証を担保するなどの対策も考えられる.
教育活動では,教授や講師が個人的な信念や政治的・宗教的な立場に基づいて教育内容を選択し,学生に特定の価値観や意見を押し付けるという問題が生じやすい.教育目標を明文化し,組織として内容に偏りがないことを確認し,論争の多い分野では多次元的な視点を組み込むように義務づける必要があるかもしれない.そのためには教員の教育も必要であろう.さらに研究者が学会や学術雑誌の編集委員会の役職にある場合,その立場を利用して自身の研究や関係者の研究を優遇するなどの問題が生じる可能性がある.査読者が著者と個人的な関係がある場合や,競合する研究を行っている場合は,編集者は別の査読者を選定すべきである.これらの点に留意しながら,研究機関や学会では学術的利益相反の管理を含むガイドラインを自ら作成すべきであろう.さらに,これらの対策が第三者によって客観的な評価がなされる必要もある.
5.知的利益相反(intellectual conflict of interest)
非経済的利益相反の一部は知的利益相反と呼ばれることがある.知的利益相反とは,個人が特定の見解や立場に対して過度に固執し,その結果,専門的な判断や推奨が不当に影響を受ける状況を指している1)4)11).このように知的利益相反は学術的利益相反と重複する部分が多い.したがって,知的利益相反の管理は学術的利益相反とほぼ同様である.
Ⅳ.診療ガイドライン作成と非経済的利益相反
1.診療ガイドライン作成における非経済的利益相反
非経済的利益相反は診療ガイドライン作成において特に重要である.委員が重大な非経済的利益相反を抱えていると,推奨度が偏りガイドライン全体の信頼性を損なう可能性がある.診療ガイドライン作成における非経済的利益相反の具体例を表327)28)に挙げた.例えば,ガイドラインのパネリストには多かれ少なかれガイドラインのもとになる研究論文の著者が含まれている.前述のallegiance biasについても述べたように,自分の行った研究の成果を強調したがるパネリストがいれば,彼らはそれがガイドラインで推奨されれば,自身あるいは属する学術団体の学術的評価や社会的影響力が高まると考えるであろう.今後の研究資金の獲得にも有利に働くかもしれない.また,ガイドライン作成に関与すると所属機関における昇進や人事評価に有利に働く場合もあるかもしれない.このような結果,ガイドラインの推奨が偏り客観的な判断が損なわれる可能性が生じる.
2.診療ガイドライン作成における非経済的利益相反管理の現状
現在,日本でも多くの学会が主体となって診療ガイドラインを作成している.そこでは経済的利益相反の開示は広く行われているものの,非経済的・学術的利益相反の扱いはなお不十分である.わが国で診療ガイドライン作成の基準となっている『Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020』19)でも「学術的COIなどの経済的COI以外のCOIへの対応としては,診療ガイドライン作成グループの構成員が特定の専門領域・関係者に偏らないように配慮する必要がある」,また「診療ガイドラインの内容に関連する可能性のある学会・研究会などが幅広く参加し,多様な専門家・関係者が合同で作成に当たることが極めて重要である」などと記述されているが,具体的な開示基準についての言及はない.実際にいくつかの国内の診療ガイドラインを眺めても,推奨決定に際して「学術的利益相反をもつ委員は棄権した」と記載されているものがごく少数見られるものの,その基準や具体的対象は明示されていない.最近の海外の報告によれば,国際的な診療ガイドラインにおいても非経済的利益相反の開示はなお不十分とされている3).
3.系統的レビューやメタアナリシスの透明性を管理する国際的な取り組み
診療ガイドライン作成にあたって,その作成資料となるものは系統的レビューやメタアナリシスなどの知見である.したがって,これらの研究の利益相反管理は,ガイドラインの公正性を保つためにも重要である.近年,これらの系統的レビューやメタアナリシスを国際的に登録・公開していき,利益相反を含む研究の質と透明性を管理しようとする取り組みがなされている.これには,PRISMA-P(Preferred Reporting Items for Systematic Review and Meta-Analysis Protocols)(https://www.prisma-statement.org/protocols),OSF(Open Science Framework)(https://osf.io/),PROSPERO(International Prospective Register of Systematic Reviews)(https://www.crd.york.ac.uk/prospero/)などがある.PRISMA-Pは系統的レビューやメタアナリシスのプロトコルを記載するための基準を示したガイドライン,OSFは研究計画やデータ,解析計画などを事前登録・公開するプラットフォーム,またPROSPEROは健康・医療分野の系統的レビューのプロトコルを事前に登録・公開するための国際的データベースである.利益相反管理で見ると,PRISMA-Pは経済的・非経済的を区別せず利益相反の開示を求めているのに対し,PROSPEROは主として経済的利益相反を想定しており,一方OSFでは非経済的・学術的利益相反の扱いは研究者の自発的記載に委ねられている.これら3者が揃うことによって,診療ガイドラインの信頼性・妥当性・透明性を系統的レビューの段階から底上げすることができるであろう.しかし,最近のメタアナリシスでは,特にプラットフォームが明示的に要求していない項目(資金源の事前指定や対象研究からの利益相反抽出など)については,詳しい報告がしばしば欠如しているという指摘もある9).
4.診療ガイドライン作成における利益相反管理の具体策
診療ガイドライン作成における利益相反への対策として,1)診療ガイドライン統括委員会の設置(利益相反申告内容に基づいた診療ガイドライン統括委員会の構成員の決定),2)ガイドライン作成グループ構成員の決定(利益相反申告内容に基づいてガイドライン作成グループ構成員を決定),3)利益相反申告内容に基づく役割範囲・制限の決定などが提案されている23).さらに,学術的ライバルを共同研究に招請すること,結果判明前の研究デザイン検証や三重盲検データ解析(被験者・研究者・データ管理者・統計家を含む)を行うこと,当事者・家族を含む利害関係者の関与(これによってガイドラインにおけるリサーチクエスチョンを研究者の関心だけでは設定できなくする),他の研究チームによるデータ分析などの対策を加えることにより,より非経済的利益相反による偏りのないガイドライン作成が期待される17).
おわりに
利益相反には,経済的利益相反に加え,非経済的利益相反,知的利益相反,学術的利益相反といった多様な視点がある.非経済的利益相反は,個人の信念・人間関係・所属先などが職務上の判断に影響を与える状況をいう.非経済的利益相反のうち学術面にかかわる学術的利益相反では,科学的名声やキャリアなどが学問上の判断に影響することが問題となる.これらの利益相反は,研究や医療,教育における公正性や信頼性を損なう可能性があり,臨床試験やガイドラインの結論に偏りを生じさせることがある.利益相反の管理には開示が重要であるが,特に非経済的・学術的利益相反では定義の曖昧さやプライバシーの問題といった課題も指摘されている.しかし,今後はこのような対策を進めることによって,より研究の公正性が保たれることを期待したい.
利益相反
2023年から2025年の3年間に本学会の開示基準を満たす利益相反はないが,Meiji Seikaファルマ株式会社とエーザイ株式会社から講演料を得ている.
1) Akl, E. A., El-Hachem, P., Abou-Haidar, H., et al.: Considering intellectual, in addition to financial, conflicts of interest proved important in a clinical practice guideline: a descriptive study. J Clin Epidemiol, 67 (11); 1222-1228, 2014![]()
2) Annane, D., Lerolle, N., Meuris, S., et al.: Academic conflict of interest. Intensive Care Med, 45 (1); 13-20, 2019![]()
3) Bauer, D., Orchard, D. A., Day, P. G., et al.: A literature review of non-financial conflicts of interest in healthcare research and publication. BMC Med Ethics, 26 (1); 61, 2025![]()
4) Bero, L.: Addressing bias and conflict of interest among biomedical researchers. JAMA, 317 (17); 1723-1724, 2017![]()
5) Brax, H., Fadlallah, R., Al-Khaled, L., et al.: Association between physicians' interaction with pharmaceutical companies and their clinical practices: a systematic review and meta-analysis. PLoS One, 12 (4); e0175493, 2017![]()
6) Cope, M. B., Allison, D. B.: White hat bias: examples of its presence in obesity research and a call for renewed commitment to faithfulness in research reporting. Int J Obes (Lond), 34 (1); 84-88, 2010![]()
7) Dana, J., Loewenstein, G.: A social science perspective on gifts to physicians from industry. JAMA, 290 (2); 252-255, 2003![]()
8) Dragioti, E., Dimoliatis, I., Evangelou, E.: Disclosure of researcher allegiance in meta-analyses and randomised controlled trials of psychotherapy: a systematic appraisal. BMJ Open, 5 (6); e007206, 2015![]()
9) Frost, A. D., Hróbjartsson, A., Nejstgaard, C. H.: Adherence to the PRISMA-P 2015 reporting guideline was inadequate in systematic review protocols. J Clin Epidemiol, 150; 179-187, 2022![]()
10) Galderisi, S., Appelbaum, P. S., Gill, N., et al.: Ethical challenges in contemporary psychiatry: an overview and an appraisal of possible strategies and research needs. World Psychiatry, 23 (3); 364-386, 2024![]()
11) Grundy, Q., Mayes, C., Holloway, K., et al.: Conflict of interest as ethical shorthand: understanding the range and nature of "non-financial conflict of interest" in biomedicine. J Clin Epidemiol, 120; 1-7, 2020![]()
12) Horta, B. L., Bahl, R., Martines, J. C., et al.: Evidence on the long-term effects of breastfeeding. World Health Organization, Geneva, p.1-51, 2007
13) Kanter, G. P., Carpenter, D., Lehmann, L. S., et al.: US Nationwide disclosure of industry payments and public trust in physicians. JAMA Netw Open, 2 (4); e191947, 2019![]()
14) 厚生労働省: 厚生労働科学研究における利益相反 (Conflict of Interest: COI) の管理に関する指針. 2018 (https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10600000-Daijinkanboukouseikagakuka/0000152586.pdf) (参照2026-01-04)
15) Lancet Editors: Retraction--Ileal-lymphoid-nodular hyperplasia, non-specific colitis, and pervasive developmental disorder in children. Lancet, 375 (9713); 445, 2010![]()
16) Lancet Editors: Retraction--Valsartan in a Japanese population with hypertension and other cardiovascular disease (Jikei Heart Study): a randomised, open-label, blinded endpoint morbidity-mortality study. Lancet, 382 (9895); 843, 2013![]()
17) Leichsenring, F., Abbass, A., Hilsenroth, M. J., et al.: Biases in research: risk factors for non-replicability in psychotherapy and pharmacotherapy research. Psychol Med, 47 (6); 1000-1011, 2017![]()
18) Lieb, K., von der Osten-Sacken, J., Stoffers-Winterling,, J., et al.: Conflicts of interest and spin in reviews of psychological therapies: a systematic review. BMJ Open, 6 (4); e010606, 2016![]()
19) Minds診療ガイドライン作成マニュアル編集委員会編: minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver. 3.0 2021 (https://minds.jcqhc.or.jp/methods/cpg-development/minds-manual/) (参照2026-01-04)
20) Murayama, A., Kugo, H., Senoo, Y.: Cross-sectional analysis of pharmaceutical industry payments to authors of clinical practice guidelines for bipolar disorder and major depressive disorder in Japan. BMJ Open, 14 (6); e086396, 2024
21) Nature Editors: Nature journals tighten rules on non-financial conflicts. Nature, 554 (7690); 6, 2018![]()
22) Nejstgaard, C. H., Bero, L., Hróbjartsson, A., et al.: Association between conflicts of interest and favourable recommendations in clinical guidelines, advisory committee reports, opinion pieces, and narrative reviews: systematic review. BMJ, 371; m4234, 2020![]()
23) 奥村晃子: 第25回診療ガイドライン作成に関する意見交換会 診療ガイドライン作成における利益相反 (COI) 管理について. 2023 (https://minds.jcqhc.or.jp/docs/events/minds-events/25th/a04.pdf) (参照2026-01-04)
24) Pellegrini, L., Garg, K., Enara, A., et al.: Repetitive transcranial magnetic stimulation (r-TMS) and selective serotonin reuptake inhibitor-resistance in obsessive-compulsive disorder: a meta-analysis and clinical implications. Compr Psychiatry, 118; 152339, 2022![]()
25) Perlis, R. H., Perlis, C. S., Wu, Y., et al.: Industry sponsorship and financial conflict of interest in the reporting of clinical trials in psychiatry. Am J Psychiatry, 162 (10); 1957-1960, 2005![]()
26) Radun, I.: Nonfinancial conflict of interest in peer-review: some notes for discussion. Account Res, 30 (6); 331-342, 2023
27) 曽根三郎: 診療ガイドライン (CPG) と利益相反 (COI) 管理. 心臓, 48 (1); 11-20, 2016
28) 竹下 啓: 医師の3つの責務 (診療・研究・教育) と利益相反. 精神経誌, 122 (11); 812-821, 2020
29) Tayler & Francis: Editorial Policies Author Services: What is a conflict of interest? (https://authorservices.taylorandfrancis.com/editorial-policies/competing-interest/) (参照2026-01-04)
30) Tringale, K. R., Hattangadi-Gluth, J. A.: Truth, trust, and transparency - the highly complex nature of patients' perceptions of conflicts of interest in medicine. JAMA Netw Open, 2 (4); e191929, 2019![]()
31) Wiersma, M., Kerridge, I., Lipworth, W.: Dangers of neglecting non-financial conflicts of interest in health and medicine. J Med Ethics, 44 (5); 319-322, 2018![]()
32) Wiersma, M., Kerridge, I., Lipworth, W., et al.: Should we try to manage non-financial interests? BMJ, 361; k1240, 2018![]()
33) Wiersma, M., Kerridge, I. H., Lipworth, W.: Perspectives on non-financial conflicts of interest in health-related journals: a scoping review. Account Res, 32 (7); 1089-1125, 2025![]()







