全国の精神保健福祉センター(以下,センター)では依存症に関する相談支援事業を行っているが,センターが受ける薬物依存症相談のなかで,近年話題となっている市販薬・処方薬・大麻使用をめぐる相談の現状や,センターがこれらの相談を受ける際にどのような課題があるかは知られておらず,これらの情報を得ることは地域における市販薬・処方薬・大麻相談に適切に対処するために必要である.そこで本研究では,全国69のセンターを対象とした量的な悉皆調査と,11のセンターを抽出したインタビュー調査を併用する混合研究法を通して,これらの相談の現状と課題の把握を行った.悉皆調査は記述統計を求め,インタビュー調査ではセンターは相談を受ける際にどのような課題を感じているか,そしてセンターでは相談にどのように対応をしているか,という2つのリサーチクエスチョンを設定し,再帰的テーマ分析を用いてテーマを生成した.悉皆調査より,市販薬・処方薬使用に関する相談が増えていると感じていること,既存の支援プログラムではニーズに対応しきれないと感じていることを把握した.インタビュー調査より市販薬・処方薬のオーバードーズをめぐるスティグマから地域の支援機関と連携して支援にあたることに課題を感じていること,対象者が支援に不信感を有しており,支援につながりづらいとセンターの担当者が感じていることがわかった.加えて,相談件数の伸び悩みや効果的な広報のありかたを模索していること,さまざまな部署と連携し,ハーム・リダクションを意識して支援にあたっている現状が明らかになった.さらに,地域の課題抽出や研修を通した支援システムの構築を試みていた.本研究は,センターをはじめとした地域の支援機関がこれらの物質使用に対してどのような支援を提供し,環境を整備する必要があるかの指針を提供している.今後は政策を通した課題への対処と,継続的なモニタリングが求められる.
2)北里大学医学部精神科学
3)横浜市こころの健康相談センター
4)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部
5)山梨県精神保健福祉センター
6)大阪府こころの健康総合センター
7)栃木県精神保健福祉センター
8)松ヶ丘病院
9)愛知県精神保健福祉センター
https://doi.org/10.57369/pnj.26-040
受付日:2025年6月4日
受理日:2025年12月15日
はじめに
物質へのアディクションは,ある特定の精神作用物質の使用に対するコントロールの喪失によって特徴づけられる1).従来,物質へのアディクションに対する支援は,アルコール依存症,覚醒剤依存症への支援が中心であったが,近年では2つの新しい傾向が生じている.1つは,それまでの臨床現場の中核を占めていた覚醒剤のような違法薬物ではなく,市販される医薬品(以下,市販薬)や医療機関で処方される向精神薬(以下,処方薬)の使用への変化である10).全国の依存症専門医療機関を対象に行われている経時的な調査においてこの傾向は顕著であり,直近2024年の調査では,過去1年以内に使用があった患者の主たる使用薬物が市販薬ないし処方薬だった者が覚醒剤のそれよりも多かったほか,過去1年以内に使用があった患者がはじめて使用した薬物も睡眠薬・抗不安薬および市販薬であった者の割合が覚醒剤のそれを超えたと報告された11).
もう1つの変化は大麻をめぐる社会情勢の変化である.2023年12月の『大麻取締法』改正に伴い,cannabidiolの難治性てんかんへの利用の可能性が拡大された反面,大麻が『麻薬及び向精神薬取締法』へ移行され,それまで禁止されていなかった大麻の使用に刑罰が科されることとなった.2014年度から大麻事犯における検挙者が一貫して増加傾向にあることから,使用罪創設が大麻使用に歯止めをかけることにつながるとしている5)9).しかし,大麻使用に伴う法的リスクを回避するため,大麻に似せたいわゆる合成カンナビノイド製品の使用が健康被害を生じているという報告もあり6)15),アディクションの支援現場でもこのような大麻および関連する向精神作用のある合成大麻製品に関連した相談に対応することが求められている.
依存症に関する相談・支援は,医療機関や民間の支援団体のほか,全国の精神保健福祉センター(以下,センター)においても実施されている.2017年に厚生労働省より開始された「依存症対策全国拠点機関設置運営事業及び依存症対策総合支援事業」に基づき,全国のセンターは各地域の「アルコール健康障害・薬物依存症・ギャンブル等依存症に関する相談の拠点」に位置付けられており,それぞれのセンターが管轄する地域で依存症に関する相談支援が行われている.最新の調査では2023年度中に全国69ヵ所のセンターで平均して118件の薬物依存症に関連した相談を受けていることが報告された4).しかし,これらの相談において,前述のような市販薬・処方薬の使用や大麻使用に関連したセンターの相談の現状や,センターが抱える課題は明らかでなく,効果的な依存症対策のための政策に資する情報が得られていない.そこで本研究では,全国のセンターを対象にしたアンケート調査による量的情報の収集と,アンケートの回答内容をもとに市販薬・処方薬・大麻に関して一部のセンターを対象にインタビュー調査を行い,より詳細な質的情報を収集することで,全国のセンターにおける相談対応の課題と現状を把握することを試みた.
I.方法
本研究では,全国のセンターにおける市販薬・処方薬・大麻使用に関連した相談の現状を量的・質的両面から把握するため,全国のセンターを対象としたアンケート調査と,アンケートの回答内容に基づいて抽出したセンターを対象としたインタビュー調査を実施した.
1.アンケート調査
アンケート調査では,全国69すべてのセンターに対して,同センター長会のメーリングリストを用いて2024年10月にアンケートをメール送付した.アンケートでは,以下の項目を聴取した.
1)前年度と比較して,2024年度に市販薬・処方薬・大麻相談が増えていると感じるか
2)センターで受ける市販薬・処方薬・大麻相談について,どのように対応することが多いか
3)市販薬・処方薬・大麻相談を受ける際に困難に感じること
4)市販薬・処方薬・大麻を主訴とする相談者を依存症の集団プログラムで受け入れているか
5)市販薬・処方薬・大麻を主訴とする相談者を依存症の集団プログラムで受け入れる際に困難に感じること
6)市販薬・処方薬・大麻を主訴とする家族相談について,どのような家族支援を行うことが多いか
2.インタビュー調査
前記のアンケート調査に記載された内容をもとに,市販薬・処方薬・大麻相談があり,かつインタビューへの協力に同意した11のセンターを対象に,センターが抱える課題や実施している取り組みを把握するためのフォーカスグループインタビューを実施した.インタビューは3ないし4のセンターを1つのグループとして,3回に分けて実施した.インタビューは120分間とし,研究者2名が以下の質問について,インタビューに参加した各センターに聴取を行った.
1)市販薬・処方薬・大麻相談について,どのように対応することが多いか
2)市販薬・処方薬・大麻相談を受ける際に工夫していること
3)市販薬・処方薬・大麻相談を受ける際に連携することの多い機関
4)市販薬・処方薬・大麻相談を受ける際に効果的だと思う対応
5)市販薬・処方薬・大麻相談を受ける際に困ること
6)市販薬・処方薬・大麻相談を受けるにあたって必要だと思う資源や情報
7)市販薬・処方薬・大麻相談における相談勧奨のための取り組み
3.解析
アンケート調査では,各質問の回答について単純集計を求めた.インタビュー調査では,センターは相談を受ける際にどのような課題を感じているか,そしてセンターでは相談にどのように対応をしているか,という2つのリサーチクエスチョンを設定し,それぞれ再帰的テーマ分析3)によるテーマ生成を行った.具体的には以下の手続きを行っている.(i)データに精通する:参加者の感想について,筆頭著者(MK)がすべて集計し,全記述内容を複数回通読し,明らかな誤字脱字を修正した.(ii)コーディング:全記述内容についてMKが切片化しコーディングを行った.この際,記述内容から影響を与えた要因が何であったか明らかな記述はその文言をそのままコード化し,記載内容から要因が明らかでない記述は,スティグマに関する研究の知見を参考に潜在的な意味をMKが考察してコーディングした.(iii)初期テーマの生成:類似したコード同士をカテゴリー化してテーマを帰納的に生成した.(iv)テーマの開発とレビュー:生成されたテーマについて,構成するコードとそのデータ切片をすべて通読し,テーマとコードが一致しているか検証した.そのうえで,再度すべての感想データを通読し,各カテゴリーに分類されるべき記述内容に漏れがないか確認し,必要に応じてテーマないしコードを修正した.また,テーマの見直しに際してはSFと複数回話し合いを行い,内容を確認した.(v)テーマの磨き上げ・定義と命名:複数の研究者らで各コードのカテゴリーを最も適切に説明すると思われたテーマ名を命名し,構成されるコードに基づいて定義づけをした.アンケート調査の集計にはMicrosoft Excelを,再帰的テーマ分析にはNVivo 14を使用した.
4.倫理的配慮
アンケート調査,インタビュー調査共に,全国精神保健福祉センター長会研究倫理審査委員会の承認を得て実施した.アンケート調査では,アンケートへの回答をもって回答の同意を得たものとした.インタビュー調査については,事前に書面にて調査の説明および同意取得を行った.また,回答内容については,個人ないしセンターが特定できないよう匿名化している.なお,本研究は令和6年度厚生労働省依存症に関する調査研究事業「薬物依存症者に対する地域支援体制の実態と均てん化に関する研究」(事業担当者:藤城聡)の一環として行われた.
II.結果
1.アンケート調査
調査には69すべてのセンターから回答を得た(回答率100%).相談対応の現状に関する回答内容を表1に示す.2022年度と比較し,市販薬に関する相談が増えたと回答したセンターは35(50.7%),処方薬に関する相談が増えたと回答したセンターは26(37.7%),大麻に関する相談が増えたと回答したセンターは19(27.5%)であった.相談を受理した際の対応では,市販薬・処方薬・大麻相談いずれも個別の面接相談対応を行うという回答が66と最も多かった.市販薬・処方薬相談では受診勧奨を行うという対応が次いで多かった(市販薬:55,処方薬:54)が,大麻相談では受診勧奨と民間相談機関の相談勧奨を行うという回答が同数であった(56).相談対応の際に困難を感じることでは,市販薬・処方薬相談では併存する心理社会的問題への対処に困難を感じるという回答が最も多かった(ともに43).他方,大麻相談では本人の困り感が薄いという回答が最も多かった(45).
センターにおける集団プログラム・家族支援の対応状況に関する回答内容を表2に示す.集団プログラムへの導入では,市販薬・処方薬・大麻相談いずれも実施するプログラムが対応していないという回答が最も多かった(市販薬・処方薬は26,大麻は25).集団プログラム実施時に困難を感じることでは,市販薬・処方薬相談では併存する問題にプログラムでは対応しづらいという回答が最も多かった(市販薬は16,処方薬は13).大麻では動機づけが弱く,プログラムから離脱しやすいという回答が最も多かった(22).家族支援における対応では,いずれも個別の相談対応を行うという回答が最も多かった(市販薬・処方薬は63,大麻は64).
2.インタビュー調査
1)センターは相談を受ける際にどのような課題を感じているか
上記リサーチクエスチョンに関して再帰的テーマ分析による分析を行った結果,「既存の支援システムが機能しづらい」「市販薬・処方薬独自の難しさ」「対象者にリーチし,つながり続けることの難しさ」という3つのテーマを生成した.
(1)テーマ1:既存の支援システムが機能しづらい
センターは,アディクションの支援システムに関する課題を報告した.そのなかには,市販薬・処方薬のオーバードーズに際して,対応可能な医療機関が限られており地域の医療機関から受診を拒否されること,精神科単科の医療機関と身体科の医療機関でそれぞれ受け入れる際に他科で問題がないという“お墨付き”を求められ,結果的にどちらにも受診できないことがあった.
『オーバードーズした時の内科的治療をしてくれないと単科の精神科さんが診れないっていうのもあったりもして,身体科の病院にも断られがちみたいな,病院も数が知れているので,あそこの病院も行けなくなりましたとか,そんなときはちょっと困ったりする』
同様の課題は地域の相談機関でも存在していた.地理的に条件が良い地域の相談機関から「オーバードーズがあるから」という理由で対応を拒否され,センターに相談が一極集中してしまうことを課題として挙げる声があった.
『精神保健福祉センターで相談を受けてるんだっていうところで,よくも悪くも相談が一極集中しているような気がしなくもなく,難しいなと思います.地域で受けてほしいんだけど,そういう地域の機関から相談が流れてくるっていうところで,もうちょっと自分たちでも受けられるような内容なんじゃないかなと思うところもあるので』
関係機関との連携の難しさの背景として,地域の支援者が市販薬・処方薬をオーバードーズする人に対する陰性感情をもっているのではないかと考察した.頻回なオーバードーズによって地域の支援者が疲弊し,「また繰り返しているのか」と冷たい対応になっていくケースがあると話していた.
『救急の身体科さんはもう何回もこんなことで来ないでくださいみたいな感じになってくる.地域の訪問看護師さんも死なないじゃないですか,みたいな感じの空気になっていくみたいな,そういう悪循環みたいなところもできてきたりすると,なかなか難しくなっていく』
(2)テーマ2:市販薬・処方薬独自の難しさ
特に市販薬・処方薬の相談について,従来の依存症支援ではうまくいかないという指摘があった.理由として,対象の薬物やこれに関する情報が入手しやすく,止めるのが難しいこと,支援者の側に対象となる薬物や支援方法に関する知識が不足しており,ピアの支援者が育っていない地域もあるため,効果的な対応がわからないと感じていた.
『違法薬物と支援が全く同じじゃないというところが難しさを感じてまして,そこがわれわれスタッフも経験がなかったり,まだまだ技術が足りないというか知識も足りないので,そういったところの情報がほしい』
市販薬・処方薬のケースでは親子関係の課題など抱える課題が複雑であり,支援の個別性が高いこと,依存症の枠組みでとらえることが支援を難しくしていること,薬物乱用防止教育の安易な“ダメ.ゼッタイ.”の枠組みが当事者に対する理解や支援を遠ざけているという指摘があった.
『引きこもりも市販薬の乱用も生きづらさの問題で,まだ乱用の段階であれば,まだ思春期の問題,それが引きこもったり,不登校だったり,親子関係の問題だったり,そういった問題があれば,まずそこにアプローチしていかないと』
『学校としては生徒さんにそういったところ(オーバードーズ)に近づいてほしくないものだから「ダメ.ゼッタイ.」っていう感じの啓発の仕方にどうしてもなりがちになってくるけども,今は「ダメ.ゼッタイ.」という形じゃないんだよって,どうしても学校現場にはなかなかまだそこまで浸透していかないというところがあります』
このほか,市販薬・処方薬では特に自死のリスクも常に留意する必要があり,慎重に対応していると指摘するセンターもあった.
『生きるための手段って言いながら最初にされた未遂の手段が過量服薬だった人が実は完遂で亡くなられてるなかでは一番割合としては多い.未遂手段が過量服薬だから大丈夫と思ってたらいざ完遂されてる方,最初の未遂手段は過量服薬だったみたいなこともあるので,侮れないなというか,非常に注意深く対応していく必要がある』
(3)テーマ3:対象者にリーチし,つながり続けることの難しさ
インタビューに参加したセンターからは,対象者につながることが難しいだけでなく,つながることができてもすぐに途切れてしまい,継続的な相談に至らないといった課題も聞かれた.
『救急病院に搬送されたケースで同意を得られた方はセンターにおつなぎいただいて,介入するというのを始めているんですけれども,なかなか,「もうやりません」ということで終わってしまうというので,非常につながりにくくて,何かいい策はないかなというのが,今の状態になっております』
この現象の背景として,対象者やその保護者に過去の支援関係における傷つきや支援者に対する不信感があり,支援を求める行為に否定的であるとインタビュー参加者は考察した.
『それまでに大人に受け止めてもらってきた人っていうのは割とスルスルとカウンセリング的な感じでできるんですけど,全くそれをしてこなかった人たちというのはものすごく大変というか,なんかやっぱり不信感もすごい強いです』
そのほか,学校などでは薬物に関連する困りごとがあるのにセンターの相談件数には反映されていないことから,相談の主な対象となる若年層にリーチすることができるようSNSを活用するなど工夫をしているが,十分に相談を拾えていないと感じていた.
『相談件数も世間で騒がれてるわりにはちょっと少ないかなと思うところで,Twitter(現X)で投稿した告知もあんまり効果が出るような感じがしなくて,そういう告知が難しい』
2)センターは相談対応時にどのような工夫をしているか
このリサーチクエスチョンに関し,「傷つきに配慮し,ニーズに寄り添った本人・保護者支援をおこなうこと」と「物質や対象者にあわせた新たな支援ネットワークの構築」という2つのテーマを生成した.
(1)テーマ1:傷つきに配慮し,ニーズに寄り添った本人・保護者支援をおこなうこと
インタビューに参加したセンターは,薬物使用の背景にある生きづらさに理解を示し,安易に薬物使用をやめさせず,まずはハームリダクションを意識し,本人のニーズに寄り添った柔軟な対応を心掛けていると語った.
『「やめなさい」とか,そういうことは一切言わず,今来てくれるということは何か困っていることがあるんだろうから,その困りごとについて「一緒に考えませんか」という切り口で,とにかく細く長くでもいいので,つながっていただくっていうことにすごく注力しているところです.(中略)とにかくハーム・リダクション的なかかわりをかなり重視しています』
『クビになるのは困るから,せめてこう,バイトに行く前はめちゃくちゃ飲んでたのをちょっと減らそうかとか,それでまあ,ある程度フラフラしながらでもやれるんだったら,そのほうがいいよね,みたいな話をさせてもらったりしています』
センターの担当は支援機関・支援者や大人全般に対する傷つきや不信感が対象者にあることに留意し,対象者やその保護者の不安感・不信感の払しょくに努め,長期的な視点で支援するようにしていると話した.
『ご家族も本人も結構傷ついてきた経験がすごい多いので,そこにわざわざどっか新しいところをつなげるっていうタイミングでもない場合もあるかなっていうところもあって,関係を広げていくタイミングとかはちょっと意識してっていうのは,やってはいる』
『他者への不信感が強い当事者とご家族が多いので,まず今何に困ってるかニーズの聞き取りっていうこと,それに応じるっていうことで信頼関係を築いてるかなと思います』
そのほか,対象者の保護者支援にも注力しており,対象者とつながれない場合でも保護者への支援を継続することが必要であり,家族関係の課題への介入の意義をセンターの担当者は強調した.
『親もやっぱりいろんな問題を抱えていらっしゃって,わりと支援者とかかわらないようにしてしまうっていう方も多いので,関係性を作ってご家族とまず途切れないようにすることで,当事者と途切れないようにするっていうことを私たちは心がけています』
相談時の正しい対応の確認のため,独自のマニュアルを整備していると話したセンターもあった.これに加え,相談をキャッチすることができるよう,相談窓口を積極的に周知するよう努めているという声も聞かれた.
『センター内で相談対応のマニュアル的なものを作りまして,どういうふうに対応するかを,ある程度統一したような形で,対応のほうは進めていっています』
(2)テーマ2:物質や対象者にあわせた新たな支援ネットワークの構築
対象者が支援から途切れやすいという性質に留意し,センターでは地域の支援者の陰性感情に対処することや,関係機関が双方向的にやり取りができるよう間を取りもつといった工夫を実践していた.
『日頃の連携会議でいろんなところに参加してもらって,固い会議じゃなくてざっくばらんに話し合えるっていう,思いを吐露できるっていうような会議を,年間そんなに多くないですが,最近ちょっとあんまりできてなくて,2回ぐらいにはなってしまったのですが,いろんなところでやっているというところです』
また,センターでは地域の関係機関に研修や教育機会を提供するほか,地域の関係機関が抱える課題の把握のために調査を実施しているという意見もあった.
『学校も結構困っているなかで,対応をどうしていったらいいか,みたいなことは,知りたいっていうニーズが多いところがあるので,そういったつらさを紛らわすために対処行動的にしてるんですよみたいな話を学校の先生とか,若者にかかわっているような支援者向けに研修をやって,非常に好評だったなというところです』
連携は外部機関だけにとどまらず,自殺対策事業や思春期相談事業など,センター内の他事業と横断的に連携し,工夫して個別の支援や啓発にあたっていると話した.
『相談対応が依存症対応と思春期対応と自殺対策に分かれていて,オーバードーズの問題は,どこにでも絡むっていうのが特徴かなと思うので,あんまり担当を決めてっていうよりは,みんなで協力しながら,知恵を出し合いながら対応している』
『自殺対策という枠組みでやってることなんですけども,ゲートキーパー養成講座ですね.悩んでる方に周囲の方が気づいて声をかけてっていうスキルを少し学んでいただこうっていう,オーバードーズをメインにターゲットにしているわけではないんですけども,やはり教職員の方に対して,児童生徒さんに対してどのように向き合っていくかということを,ある程度意識していただくための取り組みでもあります』
III.考察
本研究では,全国のセンターを対象に行った量的な悉皆調査と一部センターを抽出して行った質的なインタビュー調査を組み合わせた混合研究法を用いて,全国のセンターにおける市販薬・処方薬・大麻関連の相談の現状と課題の多層的な理解を試みた.まず,量的調査より,全国のセンターでは特に市販薬・処方薬使用に関する相談が増えていると感じていること,大麻相談で対象者の困り感が薄いと感じる一方で,市販薬や処方薬の使用では支援の個別性が高く背景の問題が複雑であるため,既存の支援プログラムでニーズに対応しきれないと感じていることがわかった.
これに関して,支援においてより具体的にどのような課題を感じており,またどのように工夫して対処を試みているか詳細な質的調査を行ったところ,市販薬・処方薬のオーバードーズをめぐるスティグマから地域の支援機関が機能を発揮しづらく,センターと地域の支援機関との連携に課題を感じている現状を把握した.また,背景の複雑さという点では対象者の過去の支援における傷つきや不信感から相談をうまく拾ってつながり続けることが難しいため,支援の際に個別性に留意し,ハーム・リダクションを意識して長期的な視点で対応していた.また,効果的な広報のありかたを模索していることや,依存症対策のみならずさまざまな部署と連携して支援や啓発にあたること,地域の課題抽出や研修を通した新たな支援システムの構築を試みていることが明らかになった.
以上の通り,本研究は市販薬・処方薬・大麻使用の支援の現状や課題を混合研究法により全国規模で立体的に明らかにしたとともに,これらの物質使用に対する効果的な支援策としていくつかの示唆を提供する.
1.ハーム・リダクション推進の必要性
市販薬・処方薬使用に対するセンターの支援では「いかにしてやめさせるか」という既存のアディクションに基づくアプローチではなく,ハーム・リダクション13)のような新たな支援戦略に活路を求めていた.対象となる薬物の入手が容易であるという性質をふまえ,現実主義的な立場からいかにして使用に伴う害を低減し,背景にある問題にアプローチするか考えざるを得ないと感じている可能性がある.また,従来思春期や自殺対策相談事業を実施しているセンターでは,依存症という切り口ではなくとも,類似する相談に対応してきた経緯がある.そのため,たとえ依存症という切り口の相談でも,依存症としてではなく,こういった他事業の枠組みを活用しつつ,ハーム・リダクションといったアイデアを取り入れている可能性がうかがえた.他方,インタビュー参加者が話したハーム・リダクションの内容は統一されておらず,支援者間の認識に差異がある可能性も否定できない.それゆえ,今後市販薬や処方薬の使用に対する適切な支援を拡大していくためにも,ハーム・リダクションを含むさまざまな選択肢に関して積極的に調査を行い,これを広めていくことが必要となる可能性があろう.
2.実効性のある薬物規制
薬物規制という観点からは,例えば,近年市販薬のオーバードーズの中心を占めるdextromethorphanは新型コロナウイルス感染症禍の鎮咳薬のスイッチOTC化の後にオーバードーズに用いられることが増えたと考えられている.このほか,本邦でのオーバードーズで使用される市販薬にはbromovalerylureaやallylisopropylacetylureaなど,諸外国では乱用のリスクから医薬品として使用されていない成分が含まれており2)8)14),こういった医薬品をめぐる規制の状況が支援を難しくしている可能性が示唆された.それゆえ,市販薬・処方薬使用を巡る問題に対処するためには個別の支援だけでなく,薬物規制を取り巻く状況にも目を向ける必要があるかもしれない.
また,インタビュー調査では大麻使用の相談についての語りが少なかった.この要因として,センターにおける薬物相談のニーズが全国規模で大麻よりも市販薬・処方薬に関連した相談に集中している可能性が考えられる.加えて,本インタビューは悉皆調査ではなく,対象となったセンターは人口規模の大きい繁華街を有する都市部のセンターと比較的規模の小さい地方のセンターとが混在する抽出型の調査である.それゆえ,このようなセンターの地域特性の違いがインタビューの内容に影響を与えた可能性がある.
他方で,アンケート調査のみという限定的な情報であるものの,大麻に関連した相談における対象者の困り感の薄さや動機づけの低さを指摘するセンターが市販薬や処方薬と比較して多かったことについても留意する必要がある.『大麻取締法』の改正において,大麻の使用に刑罰を科す根拠は若者の大麻蔓延の抑止力としての効果を期待するとともに,現在使用している者に対して,大麻がただちに害を生じないが,長期的にはさまざまな健康被害を生じるため,司法のおせっかいで使用者を困らせることで早期に支援につなげることが必要であるという根拠づけがなされていた.しかし,少なくとも全国のセンターを対象とした量的調査では,困りごとを作ることによって対象者を支援につなげるという同法改正の目的が果たされていることを積極的に支持する結果を得られなかった.むしろ援助機関に対する不信感を強め,対象者の相談行動に悪影響を与えている可能性さえ懸念される.同法はまだ改正されてから日が浅いが,法本来の目的を果たすことができているか,可能な限り早期にその運用の実態について調査を行って見直す必要があるとはいえないだろうか.
3.薬物使用の背景に目を向けることの必要性
効果的な支援という点では,対象者の支援に対する拒絶感,さまざまな支援機関の支援対象者への陰性感情に対処するのが重要となることもインタビューの結果は示唆する.トラウマ&バイオレンスインフォームド・ケア7)12)は,対象者の物質使用を維持・増悪させる要因として社会構造に目を向けることを提案する概念として近年知られているが,本研究の結果はまさに市販薬や処方薬のオーバードーズを維持・増悪させる要因として対象者の過去の支援場面における傷つきや,支援者の物質使用をめぐる偏見が無視できない要因であることを示している.そのように考えるならば,オーバードーズを含む薬物使用という現象について学校などさまざまな場面で行われる啓発・教育活動に関しても,本調査でセンターの担当者が語ったように,科学的な根拠を欠く「ダメ.ゼッタイ.」ではなく,使用の背景に目を向けるような働きかけに転換することが必要とはいえないだろうか.
おわりに
本研究では,全国の精神保健福祉センターを対象に,市販薬・処方薬・大麻使用に対する支援の現状や課題を調査した.調査の結果,全国のセンターでは市販薬・処方薬・大麻使用に関して既存の依存症支援の資源に限界を感じており,対象者の直接支援のみならず対象者を取り巻く社会的な文脈へのアプローチも含め幅広い支援の形を模索していることが明らかになった.今後は,同様の調査を継続することを通して継続的な実態把握を試みることと,調査を通して把握された課題を政策により支援していくことが重要となる.
なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
謝 辞 大変ご多忙ななか,アンケートやインタビューにご協力いただいた全国の精神保健福祉センターの皆様に心よりお礼申し上げます.
1) American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed (DSM-5). American Psychiatric Publishing, Arlington, 2013 (日本精神神経学会 日本語版用語監修, 髙橋三郎, 大野 裕監訳: DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院, 東京, 2014)
2) Biyajima, M., Satoh, S., Morikawa, T., et al.: Bromisoval-induced bromism with status epilepticus mimicking Wernicke's encephalopathy: report of two cases. BMC Neurol, 22 (1); 181, 2022![]()
3) Braun, V., Clarke, V.: Using thematic analysis in psychology. Qual Res Psychol, 3 (2); 77-101, 2006
4) 藤城 聡, 小西 潤, 志田博和ほか: 令和6年度依存症に関する調査研究事業「薬物依存症者に対する地域支援体制の実態と均てん化に関する研究」研究報告書. 2025
5) 舩田正彦: 大麻取締法改正の意義を考える. 薬局薬学, 16 (1); 8-14, 2024
6) 舩田正彦: 危険ドラッグの有害作用評価に関する研究―合成カンナビノイドを中心に―. ファルマシア, 60 (11); 1040-1044, 2024
7) Government of Canada: Trauma and violence-informed approaches to policy and practice. 2018 (https://www.canada.ca/en/public-health/services/publications/health-risks-safety/trauma-violence-informed-approaches-policy-practice.html) (参照2025-05-08)
8) Katsuki, H., Kamijo, Y., Kyan, R., et al.: The efficacy of intermittent hemodialysis in severe bromovalerylurea poisoning. Am J Emerg Med, 79; 231.e1-231.e2, 2024![]()
9) 厚生労働省: 令和7年3月1日に「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」の一部が施行されます. 2025 (https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43079.html) (参照2025-05-27)
10) 松本俊彦: 我が国における薬物乱用・依存の実態と対策の課題. ファルマシア, 60 (11); 1003-1008, 2024
11) 松本俊彦, 宇佐美貴士, 沖田恭治ほか: 全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査. 令和6年度厚生労働行政政策推進調査事業補助金医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業「薬物乱用・依存状況の実態把握のための全国調査と近年の動向を踏まえた大麻等の乱用に関する研究」令和6年度総括・分担研究報告書. p.99-154, 2025
12) Ponic, P., Varcoe, C., Smutylo, T.: Trauma-(and Violence-) Informed Approaches to Supporting Victims of Violence: Policy and Practice Considerations. Victims of Crime Research Digest. 2016 (https://www.justice.gc.ca/eng/rp-pr/cj-jp/victim/rd9-rr9/p2.html) (参照2025-05-08)
13) 齋藤利和, 宮田久嗣, 高野 歩: ハームリダクションの広がりについて―物質使用障害治療への応用―. 精神経誌, 126 (5); 309-315, 2024
14) Teenage drug overdoses on the rise, alarming doctors, experts. Asahi Shimbun (2023.12.19) (https://www.asahi.com/ajw/articles/15087900) (参照2025-05-08)
15) Yokoyama, N., Ikejiri, T., Hakariya, H.: Challenges in regulating synthetic new psychoactive substances: lessons from Japan's generic scheduling against hexahydrocannabihexol. JMA J, 8 (1); 270-272, 2025![]()







