Advertisement第121回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第127巻第5号

※会員以外の方で全文の閲覧をご希望される場合は、「電子書籍」にてご購入いただけます。
精神医学のフロンティア
地域高齢住民における血漿バイオマーカーと認知症発症の関係
小原 知之1)2), 二宮 利治2)
1)九州大学大学院医学研究院精神病態医学
2)九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学
精神神経学雑誌 127: 291-298, 2025
https://doi.org/10.57369/pnj.25-049
受付日:2024年11月10日
受理日:2025年1月7日

 【目的】一般高齢者住民における血漿アミロイドβ(Aβ)42/40比,リン酸化タウ181(p-tau181),グリア線維性酸性蛋白(GFAP),および神経フィラメント軽鎖(NfL)と認知症発症との関連を検討し,これらの血漿バイオマーカーが認知症発症の予測能を向上させるかを解明する.【研究方法】認知症のない65歳以上の日本人地域在住者1,346人を5.0年間前向きに追跡した.各血漿バイオマーカーはSimoa HD-X分析装置を用いて定量した.Cox比例ハザードモデルを用いて各血漿バイオマーカーレベルが認知症発症に及ぼすハザード比を算出した.【結果】追跡期間中に151人が認知症を発症し,そのうち108人がアルツハイマー型認知症(AD),43人が非アルツハイマー型認知症(非AD)だった.血漿Aβ42/40レベルの低値および血漿p-tau181レベルの高値はAD発症と有意に関連したが,非AD発症とは関連しなかった.一方,血漿GFAPおよびNfLレベルが高いほどADおよび非ADの発症リスクは有意に上昇した(全傾向性P<0.05).さらに,これら4つの血漿バイオマーカーを認知症発症リスクモデルの総スコアからなるモデルに加えると認知症発症の予測能は有意に改善した.【結論】日本人地域高齢住民において,血漿Aβ42/40とp-tau181はAD発症に特異的なバイオマーカーであり,血漿GFAPとNfLは全認知症発症の潜在的バイオマーカーであることが示唆された.さらに,臨床においてこれらの血漿バイオマーカーを測定することは,認知症発症の高リスク者を同定するための有用かつ比較的低侵襲な方法かもしれない.本研究結果については,さらに大規模かつ追跡期間の長い研究での検証が必要である.

索引用語:血漿バイオマーカー, 認知症, 追跡研究, 予測能>

はじめに
 抗アミロイドβ抗体薬がアルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)の新規治療薬として厚生労働省から承認されたことにより,認知症のハイリスク群を同定するための低侵襲で低コストな測定法の特定が急務となっている.AD診断のための確立されたバイオマーカーとして,脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)中およびPET上のアミロイドβ(amyloid beta:Aβ)がある.しかし,CSF中またはPETでこれらのバイオマーカーを測定することは侵襲的,高価な検査であるため,容易に実施できないという問題がある.2022年,Teunissen, C. E.らはシステマティクレビューにおいて認知症の血漿バイオマーカーとして血漿アミロイドβ(Aβ),リン酸化タウ(p-tau),グリア線維性酸性蛋白(glial fibrillary acid protein:GFAP),および神経フィラメント軽鎖(neurofilament light:NfL)を挙げている10).AβはADの主な病理学的マーカーであり,前向き研究において血漿Aβ42/40比(Aβ42/40)の低下がAD発症と有意に関連するという報告が散見される8).臨床および病理学的研究では,血漿p-tau181はADに特異的なバイオマーカーであると報告されている8).GFAPは脳内アストロサイトの反応またはアストロサイトーシスのマーカーとして知られている8).しかし,血清GFAPレベルと認知症リスクの関連を評価した前向き研究が2報しかないうえ,血漿GFAPと認知症発症の関連を検討した前向き研究はない8).NfLは,その病理学的背景にかかわらず,神経変性のマーカーとして知られており,血漿または血清NfLレベルと認知症発症の関連を評価した前向き研究が散見される8).しかし,これまで地域高齢住民を対象にAβ42/40,p-tau181,GFAP,およびNfLの血漿レベルと認知症発症リスクとの関連を包括的に評価した前向き縦断研究はない.そこで,本研究は日本人地域高齢住民を対象に血漿Aβ42/40,p-tau181,GFAP,NfLの濃度と認知症発症の関連を明らかにし,これら4つの血漿バイオマーカーが認知症発症の予測能に与える影響を検討した.

I.研究の方法と結果
1.対象集団
 本研究は日本の8地域に在住の高齢者を対象とした認知症の前向き研究であるJapan Prospective Studies Collaboration for Aging and Dementia(JPSC-AD)研究の一環として,福岡県久山町コホートの追跡調査のデータを使用したサブ解析として実施した.福岡県久山町で2012年から2013年にかけて65歳以上の全住民2,036人を対象に実施した認知症の悉皆調査に1,906人(女性1,126人,男性780人)(参加率93.6%)が参加した.本研究の対象者は,同意を得ることができなかった44人,認知症の既発症者339人,保存血漿がなかった174人,ベースライン時の認知機能検査ができなかった2人,知的障害をもつ1人を除いた1,346人(女性765人,男性581人)である.本研究はヘルシンキ宣言および九州大学と国立量子科学技術研究所の臨床研究倫理審査委員会(承認番号:686-10,2023-56,2022-24)の承認のもとで実施された.また,すべての対象者から書面による同意を取得した.

2.追跡調査
 本研究の追跡期間は中央値5.0年(四分位範囲4.9~5.1年)だった.追跡調査は研究チーム,地元の開業医,町の保健所の職員で構成される確立された日常的なモニタリングシステムを利用して,認知機能低下や脳卒中を含む新しい神経学的イベントに関する情報を定期的に収集した.また,毎年健診を実施し,認知症の新規発症例を特定した.毎年の健診を受けなかった参加者や町外に転居した参加者には,郵便や電話による調査を行った.さらに,可能な限り正確に認知症の発症者を同定するために,2017年から2018年にかけて認知症の包括的な調査を実施し,1,159人(全参加者の86.1%)が参加した.認知症や認知機能低下を含む神経学的症状が疑われた場合,研究チームの精神科専門医と脳卒中専門医がその対象者を慎重に評価し,認知症の有無を確認した.また,対象者が死亡した場合には,家族や主治医へのインタビュー,CT/MRIなどの神経画像を含むすべての利用可能な診療記録を含む包括的な調査を実施した.

3.認知症の診断
 認知症および軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)の診断は,それぞれ『精神障害の診断・統計マニュアル第3版改訂版(DSM-III-R)』1)およびPetersen, R. C. らが2001年に報告した臨床基準9)に準じて行った.認知症の病型診断はNational Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke and the Alzheimer’s Disease and Related Disorders Associationの診断基準に基づいて,ADまたは非アルツハイマー型認知症(非AD)と診断した5).認知症のスクリーニング調査では,Mini-Mental State Examination(MMSE)を用いた2)6).認知症またはMCIが疑われる参加者に対しては,精神科専門医がWechsler Memory Scaleの論理的記憶テスト4)11)を含む包括的な認知機能検査と神経学的診察を実施した.

4.血漿バイオマーカーの測定
 血漿は2012~2013年のベースライン調査の一環として収集した.エチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid:EDTA)に採取した血液検体は,室温で30分間血液を凝固させた後,1,500 gで10分間遠心分離した.分離された血漿はポリプロピレンチューブに収集され,採取後3.5~6.0時間以内に-80°Cで凍結した.2023年にこれらの血漿サンプルを解凍し,SimoaTM HD-Xアナライザー(Quanterix社,レキシントン,ケンタッキー州)を用いて,Simoa Human Neurology 4-Plex EキットおよびSimoa pTau-181 V2アドバンテージキット(Quanterix社,ビレリカ,マサチューセッツ州)を使い,Aβ42,Aβ40,p-tau181,GFAP,NfLの血漿レベルを定量化した.Aβ42/40のみ,1人測定できなかった.

5.危険因子
 ベースライン調査では,訓練を受けた面接者によって教育歴,喫煙習慣,飲酒量,病歴,糖尿病,高血圧,高コレステロール血症の治療など,生活習慣に関する質問を行った.低学歴は9年以下の義務教育年数と定義した.血圧は座位で5分以上安静にした後に3回測定し,その3回の平均値を用いた.高血圧は血圧が140/90 mmHg以上,および/または降圧薬の現在の服用と定義した.血糖値はヘキソキナーゼ法で測定し,糖尿病は空腹時血糖値が7.0 mmol/L以上,随時または75 g経口ブドウ糖負荷試験後2時間の血糖値が11.1 mmol/L以上,および/またはインスリンまたは経口血糖降下薬の使用で定義した8).血清総コレステロールレベルは酵素法で測定し,高コレステロール血症は血清コレステロールが5.69 mmol/L以上,および/または高脂血症薬の服用と定義した.血清クレアチニン濃度は酵素法で測定し,推算糸球体濾過率(estimated glomerular filtration rate:eGFR)は慢性腎臓病疫学コラボレーションの方程式を用いて日本人係数0.813で計算した8).脳卒中の既往は久山町研究のすべての臨床情報を用いて定義した.身長と体重は,靴を履かずに軽装で測定し,BMI(kg/m2)を計算した.心電図異常は,ミネソタコード3-1,4-1,4-2,4-3,または8-3で定義した.飲酒と喫煙習慣は現在の習慣的有無で分類した.日常の身体活動レベルは,職業や家庭での一般的な活動において,日中の低活動(ほとんど一日中座っているか横になっている)の有無で分類した.APOE-ε4陽性を特定するために,2つの一塩基多型(rs429358およびrs7412)を,マルチプレックスPCRに基づくインベーダーアッセイまたはマルチプレックスPCRに基づくターゲットシーケンシング法を用いて遺伝子タイピングした8)

6.統計解析
 Cox比例ハザードモデルを用いて,各血漿バイオマーカーの認知症発症に対するハザード比(hazard ratio:HR)とその95%信頼区間(confidence interval:CI)を推定した.多変量調整では,年齢,性別,学歴,高血圧,糖尿病,BMI,脳卒中歴,喫煙習慣,日中の低活動を共変量とした.これらの共変量は,いずれもわれわれが以前に開発した認知症発症の臨床予測モデルの因子であり,認知症のリスクスコアの算出に用いた3).また,これらの共変量にeGFRおよびAPOE-ε4陽性を追加した多変量調整解析も実施した.さらに,各血漿バイオマーカーレベルと認知症と病型別の発症リスクとの関係性について制限付き3次スプライン解析を用いた.基準値は各血漿バイオマーカーの5パーセンタイルを用いた.非線形性の検定は,線形項を含むモデルの対数尤度と3次スプライン項を含むモデルの対数尤度を比較する尤度比検定を行った.さらに,多変量調整で用いた因子で構成された認知症の発症リスク予測モデルに各血漿バイオマーカーを加えることにより,認知症発症に対する血漿バイオマーカーのリスク予測能を評価するために,DeLong法を用いてモデル間におけるHarrellのC統計量を算出した.すべての統計解析はSASソフトウェアパッケージ(バージョン9.4,SAS Institute, Cary, NC)を使用して行い,すべての解析でP値が0.05未満を統計的に有意と定義した.

7.結 果
 この集団におけるAβ42/40,p-tau181,GFAP,NfLの血漿濃度の中央値(四分位範囲)は,それぞれ0.0652(0.0569~0.0736),4.12 pg/mL(3.199~4.466),165.625 pg/mL(126.539~227.047),および28.781 pg/mL(21.682~39.272)だった.追跡期間中,151人(男性60人,女性91人)が認知症を発症した.このうち,143人は脳画像検査を受け,17人は脳の剖検を受けた.認知症の病型別内訳は,108人がADまたは混合型AD(例:ADと血管性認知症),43人が非ADと診断された.
表1に各血漿バイオマーカーのレベル別にみた認知症の発症リスクを示す.性・年齢調整した結果,Aβ42/40レベルが低いほど,GFAPおよびNfLレベルが高いほど認知症の発症リスクは有意に上昇した(すべての傾向性P値<0.001).p-tau181レベルとの間に有意な関連は認めなかった.これらの関連は,年齢,性別,学歴,高血圧,糖尿病,eGFR,BMI,脳卒中の既往,喫煙習慣,日中の低活動,APOE-ε4を調整しても変わらなかった(すべての傾向性P値<0.001).病型別の解析(表2)では,血漿Aβ42/40比の低下,およびp-tau181レベルの上昇に伴いADの発症リスクは有意に上昇した(すべての傾向性P値<0.05).一方,これらの関連は非ADでは認めなかった.GFAPおよびNfLレベルの上昇はADおよび非AD発症といずれも有意に関連した(すべての傾向性P値<0.05).
 次に各血漿バイオマーカーレベルと認知症発症の関連の形状を評価するために,制限付き3次スプライン解析を行った().認知症の発症リスクは,血漿Aβ42/40が低下するにつれて,血漿p-tau181,GFAP,およびNfLは血漿濃度の上昇とともに増加し,その後は増加が緩やかになってプラトーに達した(非線形性のP値<0.01,).各血漿バイオマーカーとAD発症の関連は,認知症発症との関連と同様だった.一方,非ADの発症リスクは,Aβ42/40レベルやp-tau181レベルとの間に明らかな関連は認めなかったが,GFAPおよびNfLの血漿レベル上昇とは非線形性の関連を示した.
 最後に,認知症リスクモデル(既報の論文3)に基づき多変量調整で用いた調整因子でリスクスコアを算出)に各血漿バイオマーカーを加えて認知症発症の予測能を評価した(表3).認知症リスクモデルのみのC統計量(C統計量:0.727)と比べ,血漿Aβ42/40を加えたモデルは予測能がわずかに改善した(C統計量:0.742,P値=0.05).一方,血漿p-tau181を加えてもC統計量は有意に変化しなかった(C統計量:0.731,P値=0.21).血漿GFAPまたはNfLレベルを加えたモデルでは,いずれの因子もC統計量が有意に改善した(GFAP:C統計量=0.757,P値<0.01,NfL:C統計量=0.736,P値<0.01).また,血漿Aβ42/40とGFAPを認知症リスクモデルに加えるとC統計量はさらに改善した(C統計量:0.764,P値<0.01).さらに,Aβ42/40+GFAP+NfLを加えたモデル,およびAβ42/40+GFAP+NfL+p-tau181を加えたモデルでも同様にC統計量は有意に改善した.

表1画像拡大表2画像拡大
画像拡大
表3画像拡大

II.考察
 既報の研究から血漿Aβ42/40は脳内Aβ蓄積の信頼できるバイオマーカーであることが知られている8).また,いくつかの追跡研究において血漿p-tau181レベルの上昇はAD発症の有意な危険因子だった8).一方,血漿GFAPと認知症発症の関係を検討した追跡研究はない.カナダの地域住民を対象とした追跡研究であるChicago Health and Aging Projectと,診療所患者の追跡研究であるAmsterdam Dementia Cohortが,それぞれ血清GFAP値の上昇と認知症,およびAD発症との間に有意な関連があると報告している8).血漿NfLと認知症発症の関連については,Rotterdam Study,Chicago Health and Aging Project,Amsterdam Dementia Cohortが,血漿または血清NfL値の上昇と認知症およびAD発症の間に有意な関連を示した8).これらの既往の知見はいずれも本研究結果を支持するものであり,一般高齢住民において,血漿Aβ42/40,p-tau181,GFAPまたはNfL値と認知症発症の間に有意な関連があることが示唆される.
 本研究では,血漿Aβ42/40,p-tau181,GFAP,NfL濃度と認知症発症の関連は非線形性を示し,各血漿バイオマーカー濃度が低値/高値になると認知症の発症リスクはプラトーに達した.認知症の発症におけるA-T-N神経病理学的カスケードを考慮すると8),血漿Aβ42/40低値,またはp-tau181およびNfL高値が神経変性または神経軸索性脳障害を引き起こして認知症の発症リスクに最大限の影響を及ぼす域値まで上昇したことを示唆しているのかもしれない.臨床研究において,血漿GFAP濃度はAβ負荷が高くなるにつれて直線的に上昇するうえ,その上昇は血漿p-tau181の上昇に先立つこと,Aβ負荷が高くなるにつれてプラトーに達することが明らかになっている.このことは,血漿GFAPと認知症発症の関係は本研究と同様の非線形性を示すと考えられる8).しかし,各血漿バイオマーカーと認知症発症との非線形性の関連については,追跡期間が比較的短いため,実際の関係を正確に反映していない可能性がある.この関係を解明するために,本研究よりも大規模で追跡期間の長い追跡研究を行う必要がある.
 本研究では,血漿Aβ42/40およびp-tau181濃度はAD発症と有意に関連したが,非AD発症との関連は認めなかった.前述したように,臨床研究や前向き研究でも,血漿Aβ42/40濃度の低下や血漿p-tau181濃度の上昇とAD発症との間に有意な関連があることが示されている8).一方,血漿GFAPおよびNfL値の上昇はADのみならず非AD発症とも有意に関連した.上述したように,CSF中のAβやアミロイドPETが陽性になると同時に血漿GFAPが急激かつ持続的に上昇することから,GFAPがAβ沈着に関連した脳の変化を反映している可能性が示唆される8).一方,GFAPはアストロサイトの細胞骨格成分として知られており,臨床研究でレビー小体型認知症や前頭側頭型変性症などの非AD患者の髄液,血漿,および血清中のGFAP濃度は,認知機能正常者と比べいずれも高いことが示されている8).つまり,アストロサイト活性化の指標であるGFAPはADのみならず非ADも含めた病理学的変化のバイオマーカーとなる可能性がある.同様に,NfLは軸索細胞骨格の構成成分であり,神経変性,神経軸索障害,または脳血管障害の蓄積マーカーとして知られている8).そのため,血漿NfLの上昇がADおよび非AD発症と関連するという本研究結果は,既報の知見と一致している.以上より,血漿Aβ42/40とp-tau181はAD発症の特異的マーカーとなる可能性がある一方,血漿GFAPとNfLはADだけでなく非ADも含めた全認知症発症のバイオマーカーなのかもしれない.

おわりに
 本研究では,地域高齢住民において血漿Aβ42/40とp-tau181がAD発症の特異的血漿バイオマーカーであり,血漿GFAPとNfLは非ADも含めた全認知症発症の血漿バイオマーカーであることを示唆している.また,認知症の危険因子からなる認知症発症を予測するモデルに血漿Aβ42/40,p-tau181,GFAP,NfLを加えると,認知症発症の予測能が有意に改善した.以上より,これらの血漿バイオマーカーの測定は認知症発症のハイリスク者を同定するために有用かつ比較的侵襲性の低い検査であることが示唆される.しかし,「認知症に関する脳脊髄液・血液バイオマーカー,APOE検査の適正使用指針」で述べられているように,現時点における血液バイオマーカー検査は認知症の診断ではなく,あくまで認知症のハイリスク群の同定に有用であることが示唆される7).また,血液バイオマーカーの実用化に向けては検査プロトコルの標準化,検査の頑強性の向上,検査費用の低価格化などまだまだ課題が多い7).本研究で得られた知見を検証して臨床で活用するためには,さらなる大規模かつ長期の追跡研究や臨床研究が必要である.

 注:本論文はPCN誌に掲載された最新の研究論文8)を編集委員会の依頼により,著者の2人が日本語で書き改め,その意義と展望などにつき加筆したものである.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 3rd ed, Revised (DSM-III-R). American Psychiatric Association, Washington, D. C., 1987 (髙橋三郎訳: DSM-III-R精神障害の診断・統計マニュアル. 医学書院, 東京, 1988)

2) Folstein, M. F., Folstein, S. E., McHugh, P. R.: "Mini-mental state". A practical method for grading the cognitive state of patients for the clinician. J Psychiatr Res, 12 (3); 189-198, 1975
Medline

3) Honda, T., Ohara, T., Yoshida, D., et al.: Development of a dementia prediction model for primary care: the Hisayama Study. Alzheimers Dement (Amst), 13 (1); e12221, 2021
Medline

4) 小池 敦, 杉下守弘: 日本版ウェクスラー記憶検査法 (WMS-R). 日本臨床, 69 (増刊8); 408-412, 2011

5) McKhann, G., Drachman, D., Folstein, M., et al.: Clinical diagnosis of Alzheimer's disease: report of the NINCDS-ADRDA Work Group under the auspices of Department of Health and Human Services Task Force on Alzheimer's Disease. Neurology, 34 (7); 939-944, 1984
Medline

6) 森 悦朗, 三谷洋子, 山鳥 重: 神経疾患患者における日本語版Mini-Mental Stateテストの有用性. 神経心理学, 1 (2); 82-90, 1985

7) 認知症に関する脳脊髄液・血液バイオマーカー, APOE検査の適正使用指針作成委員会: 認知症に関する脳脊髄液・血液バイオマーカー, APOE検査の適正使用指針. 2023 (https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/activity/guidelines_20230930R.pdf) (参照2024-11-05)

8) Ohara, T., Tatebe, H., Hata, J., et al.: Plasma biomarkers for predicting the development of dementia in a community-dwelling older Japanese population. Psychiatry Clin Neurosci, 78 (6); 362-371, 2024
Medline

9) Petersen, R. C., Doody, R., Kurz, A., et al.: Current concepts in mild cognitive impairment. Arch Neurol, 58 (12); 1985-1992, 2001
Medline

10) Teunissen, C. E., Verberk, I. M. W., Thijssen, E. H., et al.: Blood-based biomarkers for Alzheimer's disease: towards clinical implementation. Lancet Neurol, 21 (1); 66-77, 2022
Medline

11) Wechsler, D.: Manual for the Wechsler Memory Scale-Revised. Psychological Corporation, San Antonio, 1987

Advertisement

ページの先頭へ

Copyright © The Japanese Society of Psychiatry and Neurology