Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第125巻第3号

※会員以外の方で全文の閲覧をご希望される場合は、「電子書籍」にてご購入いただけます。
特集 これからの「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」 ― いわゆる「にも包括」を考える―
多機能型精神科診療所での実践から
三家 英明
医療法人三家クリニック
精神神経学雑誌 125: 212-218, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-030

 「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会」の報告書によれば,精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの基本的な考え方として「精神障害の有無や程度にかかわらず,誰もが安心して自分らしく暮らすことができるよう,重層的な連携による支援体制を構築することが適当」とされ,地域共生社会を実現するためのシステム,仕組みであるとされている.42年前,地域の生活の場で診療所を開設し,利用者のニーズに導かれながら求められる医療・支援活動を模索してきた立場からすると,やっと少し見晴らしの良い場所にたどり着いて,われわれ診療所の活動現場にも光が差し込んできたとの感がある.改めて今日の多機能型精神科診療所の形成過程を再検証して,診療所が地域包括ケアにどのようにかかわりうるのか,その際,何が必要であるのかについて検討してみた.診療所という場所にいると,「入院医療中心から地域生活中心へ」といわれた改革ビジョン以降の施策によっても取り残されたままの多くの人たちの存在に気づかされる.外来医療には十分な配慮がなされず,期待した体制の整備も行われず,利用者に必要な医療や支援が十分に届かなかったからである.今後こうした人たちにも手が差し伸べられる施策が進められなければいけない.通院はしていても,パーソナルリカバリーに向けたほかの支援とはつながることができないままであったり,さらに8050問題で顕在化している,膨大な数に及ぶひきこもりの人たちの存在も,ともに外来医療が抱える喫緊の課題である.著者は,こうした外来医療の課題解決こそが,求められる地域包括ケアにつながると考える.それについては,「かかりつけ精神科医」機能で語られている外来でのケースマネジメントと,必要な人に支援が届くように手厚くかかわる精神保健福祉士を配置すること,そして,これまで手の届かなかった人たちに支援を届ける訪問診療をはじめ,多職種による活発なアウトリーチをほかの支援と連携してつないでいくことが重要であると考える.

索引用語:精神障害にも対応した地域包括ケアシステム, 多機能型精神科診療所, かかりつけ精神科医機能, 訪問診療, 多職種アウトリーチ>

はじめに
 2021年3月,「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会」の報告書が出された.精神障害にも対応した地域包括ケアシステム(以後「にも包括」)の基本的な考え方が示され,精神障害の有無や程度にかかわらず,誰もが地域で安心して自分らしく暮らすことができるよう,重層的な連携による支援体制を構築することが適当とされており,地域共生社会を実現するためのシステムや仕組みが必要であるとされている.
 報告は多分に理念が先行して,その中身もまだ具体性に欠けるとはいえ,いよいよ地域のことが,この基本的な考え方のうえで論じられる時代が来たと感慨深いものを感じている.42年間,地域の生活の場に身をおいて,精神疾患や障害を抱えて暮らす人たちをどのように支えていくか試行錯誤を重ねてきた者にとっては,ようやくにして診療所での精神科医療にも目が注がれ,われわれが活動している地域に光が差し込んできたと思えたからである.
 地域には,医療支援が必要であるにもかかわらず,十分な支援が受けられないまま,声を上げられないでいる障害を抱えた患者や家族は,私たちの予想を超えてはるかに多く存在している.「にも包括」が実行される社会では,まずは,こうした医療支援から取り残されている人たちに対して,求められている支援が行き届く仕組み作りが求められている.そのためには,これまでの地域の現場の活動や現状を踏まえた,丁寧で実効性のある制度設計と運用が期待される.
 「創造とは過去をつなげて未来を作ること」(スティーブ・ジョブス)であるならば,長年,生活の場を拠点として,精神疾患と障害を有して暮らす人たちをどう支援していくのかを課題として診療活動にあたり,その都度必要になったものを自ら調達しながら,多機能型精神科診療所としての形態を作り上げてきた当院の歩みを振り返り,期待すべき「にも包括」が,絵に描いた餅になることなく,より多くの人に希望を与えるものになるためには何が必要となるのかを考えてみたい.

I.クリニックの開設と運営―求められたものをその都度用意しながら―
 精神科医となって以来,著者は閉鎖病棟,開放型病棟,デイケア,そして地域の生活の場などさまざまな治療の場を経験してきたが,その場所ごとに出会う患者の様子が異なるばかりでなく,治療する側の発想や考えも,自身が身をおいている場所から自由ではありえないことに気づかされた.保健所の嘱託医として統合失調症など精神病圏の人たちと保健所や自宅に訪問して出会うなかで,住み慣れた生活の場こそが「治療の場」にふさわしいとの考えに至り診療所を開設して彼らを支える診療活動をすることを決めた.42年前のことである.

1.精神科ソーシャルワーカーとの協働
 開院当時,地域には精神障害を有する人が集い,くつろぐ場はほとんどなく,退院しても自宅以外に行き場所がなく,肩身の狭い思いをして自宅にひきこもるうち,再発,再燃して再入院を余儀なくされる人たちは少なくなかった.そこで,開設にあたって診療所の一角に出入り自由な談話室を設けた.談話室には,精神科ソーシャルワーカー〔現 精神保健福祉士(mental health social worker:MHSW)〕を配置して,来院者の相談に応じ,仲間や関係機関につなぐ役割を担ってもらった.そして,タイムリーな対応をするため,往診カバンを用意して,必要とあれば往診,訪問診療にも出かけることとした.今日と違い,初診の来院者はほとんどが紹介による受診ばかりで,そもそも継続できるか危ぶまれながらの診療所活動であったが,徐々に受診者が増えるなか,医師による診察室内診療(診察,投薬など)だけで回復していく人がいる一方で,生活のしづらさや生活上の諸問題を抱えていて,医師の診療行為だけでは回復が期待しにくい人たちが半数近くいることがわかった.そうした人たちに対しては,MHSWが寄り添って相談にのり,グループワークやレクリエーションに誘ったり,必要な資源につないでいくという,丁寧で,手厚い支援を行うことが不可欠であると考えられた.問題を抱えた来院者一人ひとりと向き合うため担当制としたが,対象者の増加に伴いスタッフも増員することになり,院内での相談だけではなく,訪問や同行支援,関係機関との連絡調整など,生活面の支援に力を入れていくようになった.医療福祉相談室が外来診療のそばにあることで,タイムリーな支援活動を行うことができ,談話室では診察室ではみられない利用者の姿を把握することができた.また,必要に応じて,自宅訪問や,同行訪問を行うことで,支援に必要なより多くの情報も得ることができ,適切な他機関へのつなぎ役を果たすこともスムーズにできた.

2.精神科デイケアの開設と改革,就労支援14)
 談話室に多くの利用者や家族が出入りするようになった頃,小規模デイケアの制度化を受けて開所した精神科デイケアは,外来でのこうしたMHSWの働きかけもあり,次第に利用者が増え,やがて利用者であふれるようになり,新規の受け入れも難しくなるほどとなった.見通しの立たない困難な状況を克服することが求められた.ちょうど,その頃,担当していた患者が障害者職業センターの職業カウンセラーの復職支援を受け,復職していく様を目のあたりにして衝撃を受け,就労支援について学び,デイケアの出口に就労支援を用意した.また,デイケアの利用を個別担当制にしたうえで,利用目的に沿って選べるように数多くのプログラムを準備していった.こうして2002年頃始まった当院のデイケア改革は,一大モデルチェンジであったが,その後も,個々の利用者の利用目的に沿った柔軟なプログラムを運営してマイナーチェンジを繰り返していくスタイルを継続している.さらに就労支援プログラムを立ち上げてから,就労支援は地域の課題として市内の支援者関係会議(サポーター連絡会議)が立ち上がり,以後,地域の就労移行支援事業所,就業・生活支援センター,ハローワークなどとの関係機関連携も進んだことで,ステップアップ型・通過型のデイケアとしての機能を増してきている.
 デイケアを利用する人たちによって,就労をはじめリカバリーの道が広がってきたこと,関係機関との連携が密となり,デイケアとの並行利用などにより,多様な回復過程を歩む人たちを見かけることが多くなった.これらのことが,著者がひきこもる人たちに積極的にかかわろうとする動機の1つになったのは間違いない.

3.アウトリーチ
 アウトリーチは当初医療福祉相談室のMHSWや外来看護師が担っていたが,ニーズが増してやがて訪問看護ステーションが立ち上がり,各部署からのアウトリーチも活発となった.訪問診療,訪問看護,訪問支援などのアウトリーチは,当院の診療活動において,重要な手段となっている6)12)15)17-19).ここ数年で当院でのアウトリーチが活発となっている理由として,ひきこもる人たちへの訪問診療に積極的に取り組みだしたことがある.これを可能にしているのには,医療福祉相談室のみならず,どの部署においてもケースマネジメントできるようになり,協働して支援できる体制が整ったことが大きい.訪問診療でひきこもる人たちにかかわる際は,かなりのエネルギーを要するが,時機をみて多職種チームのメンバーにつなぐことでさまざまな見立て・手立てが可能となった.例えば,医師が訪問診療の過程で,デイケアからの訪問や丁寧な個別導入などによって,ひきこもる人たちに対しても見通しをもって,さまざまな手立てを考えることができるようなったことが挙げられる11)
 地域にはSOSの声を上げることができないままにひきこもっている人たちが多く存在する.そうした人たちに手を差し伸べる活動をしていると,ほかからも支援を希望する声が上がり,想像以上に地域の家族,関係諸機関からの往診や訪問診療へのニーズは大きいものがあると実感させられている.こうした流れのなかでできあがってきたのが今日の当院の活動であり,「にも包括」の検討会でも多職種による訪問活動と地域連携でタイムリーな支援を届けている現状が資料として紹介された4)
 当院では,開院以来,精神科外来医療における制度的な裏づけのないまま,利用者のニーズに応じてできることをやってきた.決して十分なものではないが,院内外の多くの支援者に支えられて,多くの人たちが回復し,自分らしさをとりもどし,より満足な生活を送られているのを目のあたりにして,彼らの姿に励まされて活動を継続することができた.振り返ってみれば,診察室内診療だけでは十分な支援とならない人たちに気づいて以来,今日まで生きづらさのなかにある人たちに,スタッフとともにかかわってきたのは,今日的にいえば,いわば利用者それぞれのパーソナルリカバリーに向けて支援してきたのであり,それによってわれわれもまた,自らのパーソナルリカバリーの道を歩むことができてきたのだと理解している.

II.外来医療に取り残された人たち
 こうして,これまで目の前の生きづらさを抱えた人たちに対してリカバリー支援を継続してきているが,就労支援を受けて障害者就労を果たした人たちが,次々と夜の診察室を訪れてくるなど,就労支援に取り組む以前には想像もできなかった様子を実感するにつけ,そうした支援を受けるチャンスをもてていない人たちのことを意識せざるをえない.本来なら,どの人も,どの医療機関を訪れようが,等しく同じレベルの医療・支援が受けられるべきであるが,現実には,依然として,偶然や運に支配されている現状にあるといわざるをえない.
 通院していても,ほかの社会資源とのつながりをもてていない,いわゆる外来ニートと呼ばれる人たちが注目されたのは10年以上も前である2)9).こうした人たちについても,本人の希望に寄り添いながら就労支援やほかの支援機関につなぎ,少しでもその人らしく豊かに暮らしていけるように支援していく必要がある.そのためには,唯一,つながっている医療機関の外来でMHSWなどが寄り添って相談に乗り,ケースマネジメントをして必要な支援につなぐことが重要である.しかし,MHSWを配置している診療所は,日本精神神経科診療所協会の調査(2015)16)において25.9%であったが,その多くがデイケアに配属されていることを考えると,外来業務に専属するMHSWの存在はあまりにも少ない.本来必要とされるスタッフの配置が医療機関の任意の選択に任されてはいけないし,誰もが等しく支援が受けられる環境整備がぜひ必要である.
 また,長きにわたり,入院治療中心の精神科医療下にあった精神科医は,ひきこもりの人の家族を前にして「連れてくれば診ます」と言うばかりで,ひきこもり状態にある人たちに対して,何ら支援の手を差し伸べようとはしてこなかった.医療機関に駆け込みながら,受け止めてもらえず,10年,20年と時間を費やしてしまった家族は決して少なくはない.8050問題は,こうした医療機関における不作為,精神科外来医療の怠慢の結果でもある.地域で外来医療を専らとしてきたわれわれは,その責任を問われる立場にあるといわなければならない.
 ひきこもる人たちは,医療中断者,未治療・未受診の人たちで,統合失調症,双極性障害,社交不安障害,強迫性障害,PTSD,トラウマなどさまざまであり,発達障害を有する場合が多く,医療支援を要する場合が多い.医師やMHSWなどが,家族相談で丁寧な聞き取りを行い,かかわり方を工夫することで受診・外出が可能となる人もいる.準備が必要であるが,精神科医が直接に会い,見立てを行い,見通し・手立てを示して,支援するチームにつないでいくことが,地域で外来医療を担う精神科医に求められている.実際,ひきこもり相談の半数以上は医療機関を訪れている.門前払いせず,診診連携を強化して,手が差し伸べられるようなネットワーク作りと地域関係機関との密な連携による丁寧な支援が求められている.

III.外来医療の拡充を求めて
 著者の開業後,精神科デイケア・ナイトケア・ショートケア,精神科訪問看護が制度化されたが,最も必要と思われる外来診療と連動した医療福祉相談は制度設計の俎上には上がることなく,外来医療は旧態依然たる状態のまま,何の工夫もなされず今日まで来てしまった.上述の膨大な数に上る外来ニートと呼ばれる人たちや,ひきこもる人たちなど,取り残された人たちの問題も,ここに起因するところが大きいと考えている.地域生活を支える外来医療が軽視され続けてきた結果であると考えざるをえない.こうした現状に直面させられるにつけ,速やかな制度改革を願わざるをえない.

1.デイケア施設・外来のあり方に関する研究(1992)1)
 1992年,厚生科学研究班のデイケア施設・外来のあり方に関する研究(研究代表者:大森文太郎)において,著者は日本精神神経科診療所協会から診療所代表として参加させていただく機会を得た.当院での外来診療を報告させていただいた結果,報告書において,外来診療については「精神科外来機能について,一般診療機能のみではなく患者のhandicapやdisabilityに対しても積極的に対応できる体制をとるべきである.このために,外来専属のPSW,CP,保健婦等のスタッフをそろえるべき」とまとめられた.本研究班の事務局を担当した原田俊樹氏は編集後記で「精神科医療に携わる多くのスタッフの日々の努力が正当に評価され,それが患者個人の利益に供することを目的とすることに尽きる<中略>1993年度に予定されている精神保健法の見直しに本研究会の趣旨ができるだけ反映されることを期待してやみません」と記している.

2.『精神医療保健福祉の改革ビジョン』(2004)5)
 それから10年余を経て2004年に取りまとめられた『精神保健医療福祉の改革ビジョン』は「入院医療中心から地域生活中心へ」と謳われたが,地域生活を支えるべき外来医療のことはほとんど取り上げられず,医療改革は病院のほうを向いており,外来医療は改革から取り残されることとなった.外来を専らとして地域での活動を展開してきて外来医療拡充の必要性を痛感していた著者からすれば,残念でならず,あのときの改革で取り残されていなかったら,多くの受療者の人生ももっと違ったものになっていたと思わざるをえない8).前述の研究班の主旨はまったく生かされず,完全に無視されてしまい,その後も制度上の改革はなく,成果が患者個人の利益に供されることもなかったのである.

3.『良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針』(2014)3)
 2013年の『精神保健福祉法』の改正に伴い,2014年に上記の指針が発表され,「入院医療中心の精神医療から地域生活を支えるための精神医療の実現に向け,精神障害者に対する保健医療福祉に携わる全ての関係者が目指すべき方向性を定める」ものと記述された.
 やっと,改革ビジョンでは抜け落ちていた「地域生活を支えるための精神科医療の実現に向け」と明記され,めざすべき方向性が明確にされた.
 概要のなかで,地域の診療所に身をおく著者が注目したのは,「第二 精神障害者の居宅等における保健医療サービス及び福祉サービスの提供に関する事項」で,特に以下の4項目について言及したい.
1)外来・デイケア等で適切な医療を受けながら地域で生活できるよう,外来医療提供体制の整備および医療機関間の連携を推進する
 通院していればそれでよしという入院医療重視時代の手薄な外来医療提供体制が,通院者の再発,再入院,重症化をもたらし,また,就労機会の喪失,社会的孤立,大量の外来ニートの存在を生み出してしまった.
 医師の診療とともに,回復に向けて生活の再建を支援するMHSWがしっかりとかかわり,必要な医療的,福祉的支援につなぐ必要がある.本来は外来に多職種チームがほしいが,最低でも1名のトレーニングされたMHSWの配置が可能となれば,外来医療,地域医療福祉の様相は変わり,地域の精神科医療水準の向上が可能となる.
 また,地域の誰もが等しく良質な医療を受けられるようにするためには,医療機関間で積極的に連携を図る必要がある.デイケア,訪問支援,就労支援などを有しない医療機関にこそ,生活支援の視点でケースマネジメントできるMHSWが存在して,必要な支援につなぐ支援が必要であると考える.
2)アウトリーチ(多職種チームによる訪問支援)を行うことのできる体制を整備し,受療中断者等の地域生活に必要なアクセスを確保する
 アウトリーチを行いうる環境整備とは,外来を拠点とする多職種チームの配置を保障することである.医療機関との連携のあいまいな,ただ週3回という数だけこなすような閉鎖的な訪問看護に対しては,医療機関とのケース会議を義務づけるなどしていく必要がある.今後は特に自らは通院困難な人,未治療・未受診,医療中断者に対する積極的な訪問医療・支援が求められている.そして,しっかりとマネジメントを行い,デイケアや地域の関係機関にタイムリーにつないでいけるMHSWの存在が求められる.
 訪問先が患家に限定されていることは,今日の支援の必要性,実態に沿わず足枷になっている.
3)在宅の精神障害者の急性増悪等に対応できるよう,精神科救急医療体制を整備する
 外来における救急医療体制の整備とは,さまざまな社会資源とつなぎ,救急化を予防し,もし再燃しても,早期に対応して,入院せず通院医療を継続できる外来の多職種支援チームの配置を可能にすることである.過去の大阪精神科診療所協会の調査においても外来で相談に応じるコメディカルが存在することで,救急事態を鎮静化し,通院継続が可能となるケースが多いことがわかった7)
4)医療機関および障害福祉サービス事業を行うもの等との連携を推進するとともに,居住支援に関する施策を推進する
 医療機関と障害福祉サービス事業との連携の推進には医療機関にMHSWの配置が必要で,つなぎ役を設けず連携を語るのは絵に描いた餅である.配置できる施策を急ぐべきである.

 上記のどの項目においても,方向性は明確に示されていて,異論はなかったが,具体的な運用にあたって誰が担うのかについての言及がなく,それが示されないとまったくの机上の空論となってしまう.著者はこのことについては,すでに別のところで言及しているが13),どの項目に関しても,MHSWの外来への配置が共通の回答になると考えられ,長年,著者が主張してきたことでもある10)

IV.「にも包括」ケースマネジメントを含むいわゆる「かかりつけ精神科医機能」
 「にも包括」で示されているケースマネジメントを含むいわゆる「かかりつけ精神科医機能」の内容は,まさに当院が開業以来,MHSWと協働してやってきたことである.精神科医ひとりがこれらの業務を担うことは不可能である.「にも包括」の言う重層的な連携,つなぎ支援をめざすには,まず外来に精神科医と協働するMHSWの存在が欠かせない.やがてニーズに応じて,複数のMHSWや多職種支援チームが構成されるようになれば,より有効で重層的な連携が可能になると考えられる.
 また「にも包括」では精神科救急にかかわって,従来の救急医療の議論とは異なり,平時の対応の重要性,時間外ではない,必ずしも入院が必要ではない精神科救急に関して外来医療の側の問題として取り上げられた.大いに評価するところであるが,時間外ではない救急対応にMHSWの存在が重要であることは,著者らの過去の調査でも明らかになっている7)
 著者にとっては,MHSWなしで外来診療活動をすることは考えられない.MHSWがいることで外来は外に向かって開かれ,その守備範囲は広がり,守備能力は向上する.MHSWの配置のない外来では,できることは限定され,受診者への必要なサービスの提供もできず,パーソナルリカバリーの道も遠のいてしまうと思われる.
 システムの一翼を担いつつ,地域包括ケアシステムにつなげていくためには,入り口となる医療の側にこうした受けとめ,つなぐ役割を担う人が必要不可欠であると考える.国の施策により,一般の精神科診療所にもMHSWの配置が可能となれば,地域包括ケアシステムも,より多くの人に利用されるところとなり,地域のネットワークも大きく様変わりするにちがいない.

おわりに
 はじめに地域生活ありき,すべては普段の生活の場から始まる.精神科医療も地域に足場をおいて,そこで暮らす人々の健康と生活を守るところに立ち返って,医療と支援を行っていかなければならない.これまでの,「入院医療中心から地域生活中心へ」と謳われながらも入院医療に軸足をおいたままの精神科医療施策によって,その流れに取り残され,地域で置き去りにされている人たちの存在は,われわれに問われている問題であり,「にも包括」の実践にあたって,まず取り組まなければならない宿題であるように思う.「にも包括」の基本方針がそのことを促している.
 この実践を通じて,これまでの精神科医療のあり方を問い直し,どの人も取り残されることなく,等しく医療支援が提供されるきっかけとなることを望みたい.
 地域で,誰が動き,どうつないでいくのか,そこでわれわれはどういう役割を担っていくのか,「にも包括」が描く地域共生社会の実現を絵に描いた餅にせず,機能させていくことがすべての関係者に課せられている.

 編  注:本特集は,第117回日本精神神経学会学術総会シンポジウムをもとに臼杵理人(国立病院機構災害医療センター救命救急科)を代表として企画された.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

 謝 辞 本シンポジウムを企画され,発表の機会を与えていただき,また論文化を勧めていただいた臼杵理人先生に深謝します.
また,本論文を書くにあたり,著者と活動をともにしてきた精神保健福祉士はじめ,チームの皆さんに感謝します.
そして,気づき,希望,そして勇気を与え続けてくれている当事者・家族の方々に敬意を表します.

文献

1) 「デイケア施設・外来のあり方に関する」研究班: デイケア施設・外来のあり方に関する研究. 1992

2) 平川博之: 膨大な数の「外来ニート」に注目しよう―実態調査から見えた実現可能な支援策とは―. NPOメンタルケア協議会「第13回シンポジウム」報告書. p.35-49, 2010

3) 厚生労働省: 良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針(厚生労働省告示 第65号). 2014 (https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00008830&dataType=0&pageNo=1) (参照2022-03-03)

4) 厚生労働省: : 第7回 精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会, 資料2 地域精神医療について p.33, 2021 (https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000724758.pdf) (参照2022-03-03)

5) 厚生労働省: 厚生労働省精神保健対策本部: 精神保健医療福祉の改革ビジョン(概要). 2004 (https://www.mhlw.go.jp/topics/2004/09/dl/tp0902-1a.pdf) (参照2022-03-03)

6) 櫛田理彩, 渡部雄貴, 松岡明子ほか: アウトリーチで, 作業始めました―作業療法士は生活の場で何ができるのか―. 精神科臨床サービス, 18 (4); 376-380, 2018

7) 三家英明: 精神科診療所における救急医療について―大阪での実態調査をもとに―. 精神科救急, 3; 71-80, 2000

8) 三家英明: これからの外来診療はどうなるのか―地域ケア指向型精神科診療所の立場から―. 日本精神科病院雑誌, 24 (10); 1020-1027, 2005

9) 三家英明: ひきこもり, 外来ニートに対する精神科クリニックでの多職種チームによる援助の実践的検討. 日精診ジャーナル, 39 (5); 66-72, 2013

10) 三家英明: 外来にこそ精神保健福祉士 (PSW) の配置を! ともにリカバリーの道を歩むために. 日本外来精神医療学会誌, 16 (2); 10-13, 2016

11) 三家英明: アウトリーチと他職種連携―多機能型精神科診療所によるアウトリーチ活動―. 日本外来精神医療学会誌, 18 (2); 13-18, 2018

12) 三家英明, 高松桃子, 関 晋太郎ほか: 精神科クリニックでのアウトリーチの展開と精神科医の役割. 精神科臨床サービス, 18 (4); 353-360, 2018

13) 三家英明: 地域の現場で, 精神科診療所の活動を通して考えていること. 精神科, 34 (3); 285-292, 2019

14) 三家英明: 就労支援の取り組みがもたらしたもの―希望と勇気―. デイケア実践研究, 24 (1); 58-64, 2020

15) 中村理香, 岡谷明子, 宮村なおみほか: アウトリーチを行う看護師たち―地域での生活を支える看護師の役割とは―. 精神科臨床サービス, 18 (4); 361-365, 2018

16) 日本精神神経科診療所協会: 会員基礎調査報告書. 2015

17) 岡崎 剛: カウンセリングを届ける―新しい心理士の役割と可能性―. 精神科臨床サービス, 18 (4); 371-375, 2018

18) 大下珠亀, 長谷高麻衣子, 浜中利保: 多職種連携の中での精神保健福祉士のアウトリーチ―人生の伴走(伴奏)者として―. 精神科臨床サービス, 18 (4); 366-370, 2018

19) 玉岡枝里子, 浜中利保: 地域のプラットホームとして―相談支援専門員の役割―. 精神科臨床サービス, 18 (4); 381-385, 2018

Advertisement

ページの先頭へ

Copyright © The Japanese Society of Psychiatry and Neurology