公認心理師法は施行後5年を経過し,制度の見直しの時期を迎えた.しかしながら,医療機関における心理職の配置は限定的なままであり,心理支援を保険診療の枠組みのなかで提供できるような基盤づくりも進んでいない.こうした背景を踏まえ,本研究では厚生労働省事業による医療機関の公認心理師に関する調査データを二次解析し,公認心理師の雇用と心理支援業務との関係について検討を行った.解析には,のべ826施設の心理部門の代表者が回答した心理職の人数や実施業務に関するデータを用いた.その結果,心理業務は因子分析により10因子に集約された.さらに,施設の常勤・非常勤の人数と各10因子の心理業務の遂行度に関して階層線形モデルで分析した結果,すべての心理業務において,常勤心理職が増えることで業務の遂行度が有意に上がることが明らかとなった.特に,「主要な精神疾患」および「性的・行動的問題や疾患/依存症」に対する心理支援,「集団に対する心理支援/アウトリーチ」「入院における心理支援/ケースカンファレンス」「地域連携(一般)」「多職種連携による支援」の6業務については,非常勤の増加は業務の遂行度を上げることはなく,常勤の増加のみが関係していた.一方で,非常勤については3人以上に増えた場合に限り,「家庭および社会経済的問題」への支援,「心理検査/外来カウンセリング」「教育・研究・組織運営/家族関係者への支援」「地域連携(児童)」の4業務の遂行度が上がることが示された.ただし,「教育・研究・組織運営/家族関係者への支援」に関しては,常勤が増えた場合と比較して遂行度の上がり方はごくわずかであった.以上より,専門的・発展的な心理支援業務の拡充を図るうえでは複数の常勤者の配置が望ましいこと,非常勤雇用の心理職が常勤雇用されることにより支援の幅が広がり組織への貢献が高まる可能性が示された.制度面での見直しが進み,公認心理師の常勤雇用が進むことが望まれる.
医療機関における公認心理師の雇用と業務の実態―心理支援の拡充と制度の見直しに向けて―
1)国立精神・神経医療研究センター病院臨床心理部
2)福島県立医科大学医学部健康リスクコミュニケーション学講座
3)国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター
4)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部
5)国立精神・神経医療研究センター病院司法精神診療部
6)国立精神・神経医療研究センター病院精神診療部
2)福島県立医科大学医学部健康リスクコミュニケーション学講座
3)国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター
4)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部
5)国立精神・神経医療研究センター病院司法精神診療部
6)国立精神・神経医療研究センター病院精神診療部
精神神経学雑誌
125:
116-128, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-016
受理日:2022年9月3日
https://doi.org/10.57369/pnj.23-016
受理日:2022年9月3日
<索引用語:公認心理師, 心理職, 心理支援, 雇用, 医療機関>