わが国の矯正施設では近年摂食障害(ED)の受刑者が増加し,女子刑務所などの現場では対応に大変苦慮している.重篤で一般刑務所では対応困難な症例は,医療刑務所に移送される.北九州医療刑務所(以下,当所)では,患者の受け入れを2012年5月より開始し集約的な治療を行ってきた.【目的】当所に入所した100人の神経性やせ症(AN)女性患者を分類し比較することにより,その病態理解を進める.【方法】矯正施設初回入所以前の,EDの病歴と覚醒剤乱用歴の有無により,「ED病歴(+)覚醒剤歴(-)」群,「ED病歴(-)覚醒剤歴(-)」群,「覚醒剤歴(+)ED病歴(+)」群,「覚醒剤歴(+)ED病歴(-)」群に分類し,人口統計学的,臨床的,心理社会的データの比較を行った.【結果】大多数を占めたのは「ED病歴(+)覚醒剤歴(-)」群(n=74)であり,若くして典型的なEDを発症しきわめて長い病歴をもった,重症遷延性神経性やせ症(SEAN)であった.「ED病歴(-)覚醒剤歴(-)」群(n=13)は,中高年になり逮捕や収容を契機にEDを出現させていた.「覚醒剤歴(+)ED病歴(-)」群(n=9)は,矯正施設収容以後に,ほぼ矯正施設内限定でEDの症状を出現させていた.「ED病歴(-)覚醒剤歴(-)」群と「覚醒剤歴(+)ED病歴(-)」群は非典型的なEDの病像を示し,やせ願望は比較的軽度であった.重篤で長いED病歴をもつ「ED病歴(+)覚醒剤歴(-)」群においても,矯正施設初回入所以前にED治療を受けた者は,約半数にすぎなかった.【考察】ANの女性受刑者は均一の集団ではなく,治療や対応はそれぞれの病態に適合させる必要があるため,これらの分類は治療のために有益である.「ED病歴(+)覚醒剤歴(-)」群は,数の多さからもEDの典型性や重篤性からも臨床的に特に重要である.医療刑務所のAN患者の病態や治療について,今後も系統的多面的に研究を進め,報告する予定である.
医療刑務所における神経性やせ症女性患者に関する研究―第一報:特徴的な諸群への分類―
1)北九州医療刑務所
2)九州大学病院心療内科
3)九州大学病院ARO次世代医療センター
2)九州大学病院心療内科
3)九州大学病院ARO次世代医療センター
精神神経学雑誌
124:
601-622, 2022
受理日:2022年4月12日
受理日:2022年4月12日
<索引用語:神経性やせ症, 摂食障害, 窃盗, 覚醒剤乱用, 医療刑務所>