Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第124巻第6号

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症例報告
行動異常型前頭側頭型認知症によるDiogenes症候群の1例
大西 陽之1)2), 垰夲 大喜2), 森 康治2), 繁信 和恵3), 鐘本 英輝2), 吉山 顕次2), 岩瀬 真生2), 橋本 衛2)4), 池田 学2)
1)大阪府立病院機構大阪急性期総合医療センター
2)大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室
3)公益財団法人浅香山病院
4)近畿大学医学部精神神経科学教室
精神神経学雑誌 124: 373-381, 2022
受理日:2022年2月1日

 Diogenes症候群(DS)は,1975年にClark, A. N.らがセルフネグレクトによる不衛生な外見を示し,汚い,散らかった家で生活しているが羞恥心を示さない高齢者に対して提唱した神経行動症候群である.今回,われわれは行動異常型前頭側頭型認知症(bvFTD)によるDSの1例を経験した.症例は56歳男性.X-3年から脱抑制行動,X-1年からアパシー,共感や感情移入の欠如,固執・常同性,食事嗜好の変化が出現したため,X年に当科受診となった.浪費を行い,数百万円の借金を作っていた.また,電気とガスが止まり半年間ほとんど入浴しておらず,食べかけの弁当などの大量のゴミで自宅の床は覆われていた.神経心理検査において前頭葉機能低下,頭部MRIおよび脳血流SPECTでの前頭葉の萎縮,血流低下を認めたため,bvFTDによるDSと診断し,施設入所に向けての環境調整を行った.bvFTDによるDSの症例報告は本邦では過去にない.本症例では離婚前にbvFTDを発症していたが,DSが生じたのは離婚後であるため,配偶者の存在が発症に対し予防的に働いていたと考えられた.また,DSの患者は援助を拒絶する傾向があり介入が難しいとされるが,本症例では物の廃棄や介入に従順であった.先行研究と併せて,bvFTDによるDSに対しての介入は効果的である可能性が示された.DSは,本人の生命予後悪化だけでなく周辺住民への被害も引き起こす可能性があるため早期介入が重要である.ゴミ屋敷への対応に苦慮している市区町村は多く存在しており,症例の蓄積と早期発見・介入の確立のためには各自治体と医療機関の連携が求められると考えられた.症例報告については患者と家族の同意を取得し,プライバシー保護に留意した.

索引用語:行動異常型前頭側頭型認知症, ディオゲネス症候群, セルフネグレクト, ためこみ症, ゴミ屋敷>
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