Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第123巻第4号

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特集 「共同意思決定」を生む対話についての検討―患者の権利,意思とはなにか―
日本の精神科医療におけるピアサポートの意義―共同意思決定に立ち会う役割―
松谷 光太郎1)2), ボー ティトゥイチャン2), 福井 里江3), 伊藤 順一郎4), 相川 章子5)
1)武蔵野大学大学院人間社会研究科
2)一般社団法人社会福祉振興協会
3)東京学芸大学教育心理学講座
4)メンタルヘルス診療所しっぽふぁーれ
5)聖学院大学心理福祉学部
精神神経学雑誌 123: 199-205, 2021

 精神科医療分野における問題にはさまざまなものがあるが,そのなかでも重大で患者の日常生活に多大な影響を及ぼす問題に「差別・偏見」がある.そこから生じる生活のしづらさや,自己認証への障壁は,精神科医療の歴史とともに,また患者の生活とともに長い間繰り返されてきた.理由は複合的に絡んでいると考えられるが,第一に,精神科医療や精神科診察の閉鎖性が挙げられる.不透明で見えにくい実情が精神科病院への不信感となり,さらに,そのような場所で処遇されても仕方がない人として精神疾患をもつ人々のことをみなすという,差別や偏見に結びつく文化的な土壌ができてしまった.第二に,このような精神科医療の閉鎖性を背景に,患者や家族の側にも,ひたすら隠す文化が生まれている.そのことが,精神科医療の閉鎖性に輪をかけてしまう.自分が受けている精神科医療に満足することができず,また,精神疾患をもっていることをひた隠しにせざるをえないとしたら,その患者は,自分の存在価値を疑い,自尊心を失いがちになったとしてもおかしくない.
 ピアサポートの意義は,同じような経験をもち,弱さを知っており,つらい思いをしたことがあり,そのような人の気持ちを理解できる立場の人と出会えることにある.医療機関にピアスタッフが雇用され,診察前に患者の相談にのったり,診察後に診察の感想を聞いたりすることは,患者の安心感・安全保障感につながるであろう.
 われわれの開発した,コンピュータを用いた共同意思決定システムSHAREは,当事者のエンパワーメントの力動を活かしつつ,精神科の治療のなかでピアサポートの機会をつくり,それを診察の場にも活かした共同意思決定のシステムである.研究によれば,既存の診察を続けた患者と比べ,SHAREを利用した患者は医師との関係性やコミュニケーションの内容,満足度などの向上が明らかになった.また,患者とピアスタッフの間には,SHAREを媒介として,対等かつ自然な形で,経験に基づく役立つ情報の共有や感情の共有も行われ,患者のピアサポート支援の役立ち感が向上していることも明らかになった.
 今後,患者が主体的に権利を行使できる環境整備,ピアスタッフが活躍できる精神科医療の土壌づくり,制度の整備,意識改革が求められる.

索引用語:権利擁護, 差別・偏見, ピアサポート, 共同意思決定, SHARE>
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