Advertisement第117回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第123巻第10号

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連載 ICD-11「精神,行動,神経発達の疾患」分類と病名の解説シリーズ
各論⑦
食行動症または摂食症群
吉内 一浩
東京大学大学院医学系研究科ストレス防御・心身医学
精神神経学雑誌 123: 684-687, 2021

 ICD-11における食行動症または摂食症群は,ICD-10における「摂食障害」と「乳幼児期および小児期の哺育障害」「乳幼児期および小児期の異食症」が統合されたカテゴリーで,DSM-5における「食行動障害および摂食障害群」と同様に,年齢による区分が廃止されている.また,DSM-5に合わせる形式で,新たにむちゃ食い症<過食性障害>と回避・制限性食物摂取症,反芻・吐き戻し症が独立した疾患として追加された.これらの新たな分類により,より正確な診断と,適切な治療に結びつくことが期待される.

索引用語:神経性やせ症, 神経性過食症, むちゃ食い症, 回避・制限性食物摂取症, 反芻・吐き戻し症>

はじめに
 ICD-11における食行動症または摂食症群(Feeding or eating disorders)(表1)は,ICD-104)における「摂食障害」と「乳幼児期および小児期の哺育障害」「乳幼児期および小児期の異食症」が統合されたカテゴリーで,これは,DSM-53)における「食行動障害および摂食障害群」と同様の分類となっている.また,DSM-5同様に,新たにむちゃ食い症<過食性障害>(Binge eating disorder)と回避・制限性食物摂取症(Avoidant-restrictive food intake disorder)が独立した疾患として追加された.これらは,臨床上有用性が低い,「非典型的」や「特定されない」とされる診断分類を減らすことを意図したもので1),実際,わが国における研究2)でも,DSM-5による診断で,DSM-IVによる診断と比較して,「特定不能」に分類される診断が減ったと報告がされている(ICD-10との対照表は表2).

表1画像拡大表2画像拡大

I.各疾患に関して
1.神経性やせ症<神経性無食欲症>(Anorexia nervosa)
 神経性やせ症は,低体重と,体型や体重に関する認知の歪みを伴うものであるが,低体重の基準として,成人では,BMIが18.5 kg/m2未満,小児や思春期では,年齢におけるBMIの5パーセンタイル未満が採用されている.ただし,急激な体重減少(例えば6ヵ月で20%よりも大きく減少)が生じた場合は,体重の絶対値の基準よりも,急激な体重減少という現象を考慮するとされている.また,小児と青年では,体重減少という現象ではなく,成長曲線から期待される体重増加が認められないという現象で現れることがある.
 ICD-11においてもDSM-5で採用された診断基準同様に,「肥満恐怖」のような患者の言語による報告よりも,行動による判断を重視する方向性が示されており,体重を減少させる,あるいは低体重を維持するための行動(摂食の制限や過剰な運動,排出行動など)による判断が示されている.また,体型や体重に関する認知の歪みに関しても,頻回の体型確認や体重測定,食物のカロリーチェックや,鏡をもたないことや体型がわかる服を着ないなどの行動が例として挙げられている.
 さらに,ICD-11では体重による分類と体重関連の行動に関する下位分類が追加されている.体重による下位分類としては,BMI(kg/m2)が14.0以上18.5未満を「有意な低体重を伴う」とし,14.0未満を「危険な低体重」と分類しており,DSM-5における分類よりも区分が少なく,また,最重症のBMIの基準が15.0から14.0に引き下げられている点が特徴的である.また,DSM-5には存在しない,「正常体重を伴う回復期」(18.5以上)が追加されている.体重関連の行動に関しては,DSM-5と同様,制限パターンとむちゃ食い・排出パターンの2つが記載されている.

2.神経性過食症<神経性大食症>(Bulimia nervosa)
 神経性過食症は,繰り返すむちゃ食いのエピソードが特徴的であり,神経性やせ症とは異なり,低体重を伴わないが,自己評価が過度に体型や体重に影響されるために,不適切な代償行動を伴うものである.ICD-10と異なり,ICD-11では,むちゃ食いの頻度の例が記載され,「少なくとも1ヶ月間にわたり,週1回以上である」とされている.これは,DSM-5における「平均して3カ月間にわたって,少なくとも週1回以上」という頻度よりも,期間に関する基準が引き下げられている点に留意が必要である.また,DSM-5で追加された,不適切な代償行動の頻度による重症度分類は採用されていない点にも留意が必要である.

3.むちゃ食い症<過食性障害>(Binge eating disorder)
 DSM-IV-TRでは研究用基準案として採用されていたむちゃ食い症が,DSM-5において新たに追加されたのと同様,ICD-11においても追加された.むちゃ食い症は,むちゃ食いを繰り返す点は,神経性過食症と共通であるが,不適切な代償行動を伴わない点が異なる.また,診断に必須ではないが,神経性過食症と同様に,自己評価が過度に体型や体重に影響されることも稀ではない点に留意が必要である.
 ICD-11のむちゃ食い症における,むちゃ食いの頻度の例は,神経性やせ症とは異なり,「3ヶ月間にわたって,少なくとも週1回以上」と記載されており,診断に必要な期間が長く,これは,DSM-5における過食性障害の診断基準と同じ3ヵ月という期間が採用されている.なお,ICD-11における日本語病名に関して,原則として「障害」という用語は使用せず,「症」という用語を使用するという方針になったため,DSM-5において使用された「過食性障害」という病名から「むちゃ食い症」という病名に変更を行った.この変更の過程は,「過食性障害」の「障害」を「症」に変更するだけでは「過食症」となり,神経性過食症(Bulimia Nervosa)と混乱を招くとの判断で,DSM-IV-TRの研究用基準案の日本語訳で用いられていた「むちゃ食い障害」を流用して,「障害」を「症」に変更し,「むちゃ食い症」としたというものである.
 ちなみに,「むちゃ食い」は,自分の摂食行動をコントロールできないと感じ,普段と比べて食べる量が多いまたは普段と食べ方(食べるものの種類や食べるスピードなど)が違う明確に区切られる期間(例えば,2時間)と定義される.

4.回避・制限性食物摂取症(Avoidant-restrictive food intake disorder)
 ICD-10の「乳幼児期および小児期の哺育障害」から派生し,DSM-5と同様,ICD-11で追加された診断名である.ICD-10の「乳幼児期および小児期の哺育障害」における「通常乳幼児期と早期小児期に特異的」との条件が外れて,診断を行うことになった.特徴としては,体型や体重への過度なこだわりやボディイメージの障害を伴わず(この点が,神経性やせ症とは異なる),食物を避けたり制限することによって,①有意な体重減少,臨床的に有意な栄養障害などを伴う,②生活面におけるさまざまな側面の機能の有意な障害が生じる,の①と②の両方,あるいは片方が生じることである.なお,ICD-10の「乳幼児期および小児期の哺育障害」において含まれていた「反芻性障害」は,後述の「反芻・吐き戻し症」として独立した病名となった.

5.異食症(Pica)
 ICD-11における「異食症」は,ICD-10における「乳幼児期および小児期の異食症」と「他の摂食障害」に含まれていた「非器質性の原因による成人の異食症」の両方を包含する形式となっているが,概念はほぼ同じで,非栄養的で非食用物質を定期的に摂取することが特徴である.DSM-5では,「少なくとも1ヶ月間にわたり」という期間に関する条件が記載されているが,ICD-11では,期間に関する記述はない.また,ICD-11においては,食用かそうでないかの識別が可能な,およそ2歳以降で臨床的に問題となることが記載されている.

6.反芻・吐き戻し症(Rumination-regurgitation disorder)
 前述のとおり,ICD-10では,「乳幼児期および小児期の哺育障害」に含まれていたが,ICD-11では,DSM-5と同様,独立した病名となっている.意図的に,繰り返し,食物の吐き戻しを行うことが特徴であるが,ICD-11では,少なくとも2歳に達していることが求められている.また,頻度・期間に関しては,DSM-5では「少なくとも1カ月間にわたり」「繰り返す」と記載されているが,ICD-11では,「少なくとも数週間にわたり,週あたり数回以上」と記載されており,DSM-5と同じ基準となっていない点は留意が必要である.

II.考察―臨床的意義,問題点,使用上の注意点など―
 まず,本カテゴリーの名称であるが,前述のとおり,ICD-11における日本語病名においては「障害」を用いず,「症」を用いることが原則となったことで,Feeding or eating disordersを「食行動症または摂食症群」と訳し,「摂食障害」という用語を用いない方針となった.
 各病名の日本語訳に関しては,基本的にDSM-5の日本語訳に準じたものとなっている.Anorexia nervosaに関しては,過去の日本語訳で用いられてきた「食欲」という用語によって,疾患の本態が「食欲」の病気であるという誤解を生じるもととなっていたために,「食欲」という用語を用いずに,「神経性やせ症」という新たな日本語病名がDSM-5において採用され,踏襲することになった.今回,ICD-11においても「神経性やせ症」という用語が採用されたことにより,本疾患が「食欲」が原因であるという,医療者のなかにも存在する誤解が,さらに減じていくことを期待する.
 ただし,Binge eating disorderに関しては,前述のとおり,DSM-5で採用された「過食性障害」という名称に「障害」が含まれるために,変更する必要があり,原則どおりに「障害」を「症」に置き換えるだけでは,Bulimia nervosa(神経性過食症)との混乱を招く危険性があるため,「むちゃ食い症」を採用することになった.

おわりに
 ICD-11においては,基本的には,DSM-5に合わせた診断名が採用され,診断基準もほぼ同様のものを採用しているために,DSM-5での報告2)のように,臨床的に有用度の低い「除外分類」への診断が減ることが期待される.また,本カテゴリーに関して,ICD-10に従って診断を行うよりも,ICD-11に従って診断を行うほうが,診断の正確性が高いという報告1)も出されており,本カテゴリーの患者に対して,より適切な医療の提供がされていくことが期待できる.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

 謝 辞 本稿を終えるにあたり,病名検討の際に多大なるご協力をいただきました,日本摂食障害学会前理事長小牧元先生(福岡国際医療福祉大学),日本心身医学会理事長福土審先生(東北大学),日本摂食障害学会病名検討ワーキンググループの野間俊一先生(のまこころクリニック),河合啓介先生(国立国際医療研究センター国府台病院),和田良久先生(府中みくまり病院)にお礼を申し上げます.

文献

1) Claudino, A. M., Pike, K. M., Hay, P., et al.: The classification of feeding and eating disorders in the ICD-11: results of a field study comparing proposed ICD-11 guidelines with existing ICD-10 guidelines. BMC Med, 17 (1); 93, 2019
Medline

2) Nakai, Y., Fukushima, M., Taniguchi, A., et al.: Comparison of DSM-IV versus proposed DSM-5 diagnostic criteria for eating disorders in a Japanese sample. Eur Eat Disord Rev, 21 (1); 8-14, 2013
Medline

3) American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed (DSM-5). American Psychiatric Publishing, Arlington, 2013 (日本精神神経学会 日本語版用語監修, 髙橋三郎, 大野 裕監訳: DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院, 東京, 2014)

4) World Health Organization: The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders: Clinical Descriptions and Diagnostic Guidelines. World Health Organization, Geneva, 1992 (融 道男, 中根允文ほか監訳: ICD-10精神および行動の障害-臨床記述と診断ガイドライン-, 新訂版. 医学書院, 東京, 2005)

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