Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第123巻第1号

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特集 刑事責任能力鑑定の方法―裁判員裁判における私の実践―
裁判員裁判を契機とした刑事責任能力鑑定の変化
五十嵐 禎人
千葉大学社会精神保健教育研究センター法システム研究部門
精神神経学雑誌 123: 20-25, 2021

 裁判員裁判法が施行されてから,10年が経過した.裁判員裁判では,公判前整理手続の必須化,連日開廷,口頭主義の徹底など,審理が大きく変化したが,それに伴い,刑事責任能力鑑定の実施にも大きな変化が生じた.裁判所の依頼による鑑定は,公判前整理手続の段階で行われることになった.精神鑑定書の簡素化が要請され,精神鑑定書の書式が提案され,書式に基づく精神鑑定書が増加した.しかし,口頭主義の徹底により,鑑定結果の報告は,鑑定人尋問におけるプレゼンテーションが中心となった.刑事責任能力鑑定の件数が急増したが,精神鑑定を行うための技量が十分ではない精神科医による鑑定も増加している.裁判員裁判を契機として,刑事責任能力を巡り新たな議論がなされたが,それらの議論に対する精神医学の立場からの疑問について論じた.

索引用語:裁判員, 精神鑑定, 刑事責任能力, 司法精神医学>

はじめに
 裁判員制度とは,一定の刑事裁判において,国民から事件ごとに選ばれた裁判員が裁判官とともに審理に参加する制度である.2004年5月21日に成立した『裁判員の参加する刑事裁判に関する法律』(以下,裁判員裁判法)は,2009年5月21日より施行され,2019年5月に施行10周年をむかえた.最高裁判所の統計14)によれば,制度開始から2020年8月31日までの間に終局した裁判員裁判の対象人員は13,305人で,有罪12,905人,無罪122人,家裁移送12人,その他(免訴・公訴棄却・移送など)266人であり,有罪率は97.0%であった.裁判員に選任された人は74,975人,平均審理期間は9.3月,平均実審理期間は8.3日,平均開廷回数4.5回となっていた.裁判員制度については,制度発足以前から賛否を含めさまざまな議論がなされており,現在でも議論は継続している.しかし,施行後10年を経て,制度そのものは定着しているように思われる.

I.裁判員裁判における審理の変化が刑事責任能力鑑定の実施に与えた影響
 一般市民が参加する裁判員裁判では法廷における審理のあり方に大きな変化があった.裁判員裁判では,公判前整理手続が必ず行われ,事前に当事者双方の争点整理がなされ,審理計画が作成され,審理はそれに基づいて行われる.公判前整理手続終了後には,原則として新たな証拠請求はできない.公判は,ほぼ連続して開廷(連日開廷)され,口頭主義が徹底(「目で見て耳で聞いてわかる審理」)されることになった.
 裁判員裁判における審理の変化に伴い,裁判所の依頼によって行われる刑事責任能力鑑定の手続や結果の報告にも従来とは異なる変化が要請されることになった.こうした裁判員裁判における精神鑑定実施について,最高裁判所13)は,以下のように総括している.

 専門家による鑑定の結果を裁判員が正しく理解できるような分かりやすい審理を実現するため,特に裁判所が選任した鑑定人の場合には,一問一答式の尋問を延々と続けるのではなく,まず鑑定人が口頭で鑑定結果の要点を報告(プレゼンテーション)し,その後,当事者や裁判所が疑問点について尋問を行う形式が定着した.また,報告の方法について鑑定人と法曹三者との事前のカンファレンス(打合せ)を行う運用も定着した.

 以下,裁判員裁判における審理の変化が,刑事責任能力鑑定の実施に与えた影響について述べることとする.

1.精神鑑定の行われる時期―鑑定資料の取り扱い―
 裁判員裁判では,刑事責任能力鑑定は原則として公判前整理手続の段階で行われる.この段階では,証拠に関する取り調べはまったく行われておらず,公判前整理手続に関与する裁判官も,当事者双方の提出する証拠の具体的な内容まではみていない.つまり,精神鑑定の基礎資料とすべき被告人の供述調書や目撃証言などについても,法廷での吟味はなされておらず,鑑定の前提となる犯行に関する客観的な事実についても確定していない状態で精神鑑定を行うことになる.したがって,鑑定人に対してどのような資料を提供するべきかという問題が生じることが予測された.裁判員裁判法施行後の実務では,争いのある証拠に関しては,検察官・弁護人の主張を含めて鑑定人に提供されることがほとんどである.
 また,犯行の態様などについて双方に争いがある場合には,いくつかの場合わけを仮定したうえで,鑑定意見を求めることが提案されていた.しかし,著者の限られた経験の範囲ではあるが,法律学的な視点からの場合わけは,精神医学的には意味のない場合わけであることも少なくない.

2.鑑定結果の報告―わかりやすい報告―
 裁判員裁判法51条は,「裁判官,検察官及び弁護人は,裁判員の負担が過重なものとならないようにしつつ,裁判員がその職責を十分に果たすことができるよう,審理を迅速で分かりやすいものとすることに努めなければならない」と規定している.この規定は,「裁判員の負担に対する配慮」と題された法曹三者に対する努力規定であり,鑑定人に対するものではない.しかし,「わかりやすい」ということは,公判において精神鑑定の結果を報告する鑑定人にも要求されることである.裁判員裁判で鑑定人に求められるわかりやすい鑑定結果の報告とは,精神医学的分析によって得られた知見を,専門家以外にも理解できるようにわかりやすく説明することである.ここでいうわかりやすさとは,単に用語を平易化してわかりやすくするということではない.精神鑑定で得られた精神医学的な知見をもとに,被鑑定人の精神障害が犯行に与えた影響の有無・程度・機序を,論理的に説明することである2)
 裁判員制度の準備段階で行われた司法研究15)では,「従来の長さの鑑定書が作成されれば,それも証拠となる可能性があり,その場合には裁判員が混乱するおそれがある」「鑑定人自身の手控えや覚え書きとして詳細なメモが作成されることはあっても,鑑定書としては簡潔なもの1つにするのが相当」という提言がなされた.証拠採用に備えた簡にして要を得た精神鑑定書の書式の提案,精神医学的概念や専門用語に関するわかりやすい用語集の刊行7)9),事前カンファレンスを利用した鑑定人と裁判官,検察官,弁護人を交えての協議やパワーポイントを活用した鑑定人尋問などの工夫が行われることになった.
 証拠採用に備えた精神鑑定書の標準的な書式として,厚生労働科学研究班による手引き6)では,枠線つき・別紙方式の精神鑑定書の書式が提示された.また,最高検察庁の精神鑑定研究会は,厚生労働科学研究班の示した書式をもとに,「裁判員裁判の下における精神鑑定書の書式例」を公表した.これらの書式に対しては,批判的な意見8)もみられたが,実務では,これらの別紙方式の書式を利用した精神鑑定書がかなり増加したように思われる.ただし,実際の公判では,精神鑑定書自体はほとんど証拠採用されず,鑑定結果の報告は,鑑定人によるプレゼンテーションによって行われる.裁判所に提出する精神鑑定書について,書式や分量にこだわる必要性はなくなっている.

II.裁判員裁判における精神鑑定の実施状況と課題
 裁判員裁判における精神鑑定の実施状況はどのようなものであろうか.裁判所の鑑定留置状の発付数11)は,2005年には213(うち被疑者192,以下同じ)人であったが,2008年277(242)人,2009年390(353)人,2010年520(483)人と裁判員制度の開始に伴い急増し,最近では,2017年633(558)人,2018年605(537)人と高い値が続いている.もちろんこの件数のすべてが精神鑑定のための鑑定留置とはいえないが,起訴前嘱託鑑定が急増した.に2010年から2018年までに判決の出た事件における裁判員裁判法50条に基づく公判前鑑定の実施件数ならびに裁判員裁判の対象事例に対する公判前鑑定の実施率の年次変化を示した12)に示されるように,裁判員制度開始当初は,起訴前嘱託鑑定の存在する事例に関しては,よほどの事情がない限り裁判所は公判前鑑定の実施(再鑑定)を認めていなかったが,最近では,弁護人の要請で裁判所が公判前鑑定の実施を認める事例が増えており,公判前鑑定の実施件数や実施率が増加した.
 こうした鑑定件数の増加に対して,精神科医の側の対応は十分であろうか.著者の狭い見聞の範囲でも,精神医学的な報告として必須の情報の記載を欠く精神鑑定書や,鑑定人尋問において精神医学的に不適切な内容のプレゼンテーションを行う鑑定人が少なからず存在している.質の高い精神鑑定を行うためには,鑑定人には,①精神科診断を的確に行えること,②一件記録や問診を通じて得られた情報を分析し,犯行時の被鑑定人の精神状態を再構成できること,③精神障害が犯行に与えた影響の分析ができること,④鑑定結果を論理的にわかりやすく説明することができること,の4つの技量が必要と思われる2).現在,日本精神神経学会では,司法精神医学委員会主催で刑事精神鑑定をテーマとした研修会を開催している.また,日本司法精神医学会では,刑事精神鑑定ワークショップの開催や学会認定精神鑑定医制度の実施など,刑事精神鑑定に関する研修・教育の充実を図っている.しかし,諸外国と比較すると,わが国の刑事精神鑑定に関する研修・教育体制は,十分とはいえないのが現状である.今後,こうした研修・教育体制の充実を図っていく必要があるといえよう.

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III.裁判員制度を契機とした刑事責任能力鑑定に関する議論の影響
 一般市民が裁判員として参加する裁判員裁判においては,刑事責任能力は難しい法律概念の1つと位置づけられ,裁判員制度の準備作業として行われた司法研究15)でも,大きな課題の1つとして検討がなされた.また,裁判員裁判法や『心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律』の施行を契機として,刑事責任能力とはどのようなものであり,どのように判定・判断されるべきものか,刑事責任判断における精神科医と裁判官との役割分担をどのように考えるべきかなどをめぐり新たな議論がなされるようになった.
 法曹界における議論は,「責任能力については,法的判断の部分まで精神科医に鑑定を求めていた従来のやり方に対する反省から,精神科医と裁判所との役割分担についての意識が進み,鑑定を依頼する段階から,カンファレンス等を通じ,裁判所が精神科医の見解を求めたい事項が何であるか(精神障害が犯行に及ぼした影響の機序等)を明確に伝え,その部分を公判で分かりやすく説明してもらうよう依頼するという意識が高まった」16)と要約できるであろう.つまり,刑事責任能力は法的概念であり,その判断は精神科医ではなく法律家の専権事項であるということである.この見解自体は,これまでいわれてきたことの再確認ともいえること5)であり,著者としても異論はない.しかし,最近の刑事責任能力鑑定に関する議論には,いささか疑問に感じるところもあるので,以下に述べることとする.

1.「生物学的要素が心理学的要素に与えた影響」とは
 最高裁判所の判例10)では,「生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度については,その診断が臨床精神医学の本分である」と判示している.つまり,生物学的要素についてだけでなく,「生物学的要素が心理学的要素に与えた影響」の有無・程度・機序(仕組み)について精神医学の立場から意見を述べることが,鑑定人の本分であることを最高裁判所は明確にしているといえる.最近の刑事責任能力鑑定では,「精神障害が犯行に及ぼした影響」についての意見を精神科医は求められているが,「生物学的要素が心理学的要素に与えた影響」と「精神障害が犯行に及ぼした(与えた)影響」とでは,指し示す内容に若干の相違があるように思われる.
 心理学的要素とは,弁識能力と制御能力から構成される法的判断能力である.刑事責任能力に限らず,一般に判断能力とは,精神医学の立場からみれば,連続量として測定される次元的現象である3).どのような種類の精神障害であれ,精神障害と診断されている人とそうした診断を受けていない健常な人とを比較すれば,精神障害の与えた影響を完全に否定することは難しい.しかし,刑事責任能力判断における「著しく」(低下した状態)という要件は,価値基準(裁判官による規範的判断)による評価であり,精神医学で使用されている平均基準による単なる正常からの偏倚を意味するものではない.刑事責任能力の文脈でいえば,精神障害の及ぼした影響は,被鑑定人の法的判断能力に影響を与える程度のものである必要があると思われる.したがって,「生物学的要素が心理学的要素に与えた影響」とは,単に「精神障害が犯行に及ぼした影響」というよりは,「精神障害が犯行時の被鑑定人の法的判断能力に及ぼした影響」のことであり,「精神障害が犯行時の被鑑定人の判断や行動に及ぼした影響」と考えたほうが,判例の意図をより正確に反映するのではなかろうか.

2.「機序」について
 刑事責任能力鑑定の鑑定嘱託事項は,当初は,精神障害が犯行に及ぼした影響の「有無・程度」とされることが多かった.その後「有無・程度・機序(仕方)」となり,最近では,単に「機序(仕方)」とされることも少なくない.精神科医に「程度」ではなく「機序」に関する意見を求める法曹の要望も理解できないわけではない.しかし,すべての事例について精神障害の及ぼした影響の「機序」が解明できるとは,著者4)には思われないし,「機序」が解明できなければ,心理学的要素への影響に関する分析が行えないとも思われない.例えば,緊張病状態にあった事例では,「機序」の具体的な解明は困難であるし,緊張病状態の存在そのものが少なくとも著しい判断能力の障害を示唆する所見といえよう.また,境界性パーソナリティ障害やクレプトマニアと診断される人が放火や万引きを行った場合の「機序」の解明とはいったいどのようなものなのであろうか.これらの場合は,放火や万引きは精神障害の症状によるものではなく,そういう行動を繰り返すがゆえに,精神障害と診断されているのであり,因果関係が逆ということになる.事例の特性を考慮せずに,一律に「機序」の解明を求める最近の法曹の動向には,精神医学の立場からは危惧を抱かざるをえない.

3.精神障害を診断することの意義
 「機序」の解明を強調する最近の傾向に著者が懸念を感ずるのは,近年の議論で,生物学的要素である精神障害の診断を行うことの意義が軽視されているように感じるからでもある.精神医学には,精神障害の診断名ごとに,その精神障害の症状や病状の推移,症状や病状がその人の精神機能(意識,現実検討,判断,行動など)に与える影響に関する知見がある.心理学的要素への影響の分析にあたっては,臨床精神医学におけるこうした知見を活用する必要があるが,そのためには,精神障害の診断が的確に行われていることが大前提となる.精神障害の診断名が的確であるからこそ,過去の特定の時点における判断能力を精神医学の立場からある程度の根拠をもって推測できるのである4).刑事責任能力鑑定を行う精神科医は,精神医学的診断の重要性を忘れてはならない.

4.責任能力の説明方法
 裁判員制度の準備段階で行われた司法研究15)は,犯行が妄想に直接支配されていたか否かが責任能力の判断のポイントとなる統合失調症事例について,裁判員にとって理解しやすい説明方法として,「精神障害のためにその犯罪を犯したのか」「もともとの人格(病前の人格)に基づく判断によって犯したのか」という視点から検討することを提案した.また,裁判員裁判法施行後に行われた司法研究16)では,「精神の機能(正常な部分を含む),症状,病態病理が,犯行にどのような影響を与えたかの機序の説明」として,「もともとの性格・人格」と「精神障害(病気)の症状」という視点から犯行前後の被告人の行動を分析することを提案している.いずれの司法研究でも,機序の分析・説明にあたっては,正常な部分と異常な部分の比較衡量という二分法によっている.実際,こうした二分法による判断方法は,わかりやすく,裁判員にも理解しやすいように思われる.
 しかし,わが国の刑事責任能力の判断は,心神喪失,心神耗弱,完全責任能力の三分法によっている.争点が,心神喪失か完全責任能力か,心神耗弱か完全責任能力かという事例であれば,二分法による説明は,精神障害(病気)か否かという比較的単純な視点に整理され,裁判員にとっても理解しやすいといえよう.しかし,争点が,心神喪失か心神耗弱かという事例では,どちらも精神障害(病気)があることが前提である.両者の相違は,精神障害の影響の程度の問題であり,説明を工夫したとしても,裁判員がその内容を十分に理解したうえで判断することは容易なことではないように思われる.
 著者も,心神喪失か心神耗弱かが争点となった裁判員裁判を経験したことがある.鑑定人尋問において,判断能力の程度に関する意見を述べずに鑑定結果を報告したが,判決は,著者が心神耗弱相当とした起訴前鑑定の結果とは異なり,心神喪失で無罪というものであった.その後,この事例について,模擬裁判員が参加する模擬鑑定人尋問が行われたが,模擬裁判員の判断は,完全責任能力であった.模擬裁判員は,模擬鑑定人尋問に参加しただけであり,鑑定人尋問以外の場面にも参加し,裁判官との評議も行って判断した裁判員とは,事件に関する情報量にも格段の差異があり,両者の判断を単純に比較することはできない.当該事件の被告人は,治療が中断したままの状態で公判に臨んでおり,法廷でも統合失調症の症状の影響による言動が顕在化していた.著者の印象としては,実際に被告人の法廷での言動を目にすることができたか否かが,両者の判断の相違にかなり大きな影響を与えていたように思われる.
 一例をもって敷衍することは必ずしも適切とはいえないが,心神喪失か心神耗弱かが争点とされる事例では,法廷での被告人の言動から裁判員が受ける印象が,裁判員の判断に与える影響は大きなものと推測される.裁判員が,被告人の病気に納得できれば心神喪失,十分に納得できなければ心神耗弱になり,病気であることにまったく納得がいかなければ,完全責任能力と判断されてしまうおそれがあるのではなかろうか.
 裁判員制度開始以前には,一般市民の参加する裁判員裁判では,責任能力や精神障害に対する理解が十分ではないために厳罰化が起こるのではないかという懸念が示されていた.裁判員裁判法施行後の判決をみると,従来の裁判であれば,心神喪失とは認定されないような事例で心神喪失が認定されていることもあれば,当事者双方が心神耗弱で合意しているにもかかわらず,完全責任能力と認定された事例もある.裁判員裁判で厳罰化が起きたという批判は必ずしも適切といえないように思われるが,責任能力判断に従来とは異なるぶれが生じている可能性は指摘できるように思われる.そして,そうしたぶれが生じる背景に,正常な部分と異常な部分の比較衡量という二分法による責任能力の説明の影響があるのではなかろうか.

おわりに
 責任能力・精神障害者免責制度は,法律学や精神医学だけの問題ではなく,広く社会一般の合意のうえに成立している制度1)であることを考えれば,裁判員制度によって,一般市民の感覚が責任能力判断に反映されることには,重要な意義がある.精神科医は,被鑑定人の精神障害の診断を的確に行ったうえで,精神障害が,犯行時の被鑑定人の判断や行動に与えた影響を分析し,その結果について,論理的かつわかりやすい説明を行い,裁判員の理解を得るように努める必要があるといえよう.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) 五十嵐禎人: 刑事責任能力総論. 刑事精神鑑定のすべて(五十嵐禎人編, 専門医のための精神科臨床リュミエール1). 中山書店, 東京, p.2-15, 2008

2) 五十嵐禎人: 精神鑑定専門医に必要な技量とは. 司法精神医学, 8 (1); 94-98, 2013

3) 五十嵐禎人: 判断能力の精神医学的評価. 司法精神医学, 12 (1); 34-46, 2017

4) 五十嵐禎人: 刑事責任能力鑑定の精神医学的基礎. 刑事精神鑑定ハンドブック (五十嵐禎人, 岡田幸之編). 中山書店, 東京, p.2-21, 2019

5) 五十嵐禎人: 刑事責任能力の判定(1)―刑事責任能力判断において精神科医の果たすべき役割―. 同書. p.33-41

6) 厚生労働科学研究「他害行為を行った者の責任能力鑑定に関する研究」班編: 刑事責任能力に関する精神鑑定書作成の手引き平成18~20年度総括版. 2009

7) 松下正明: みんなの精神医学用語辞典. 弘文堂, 東京, 2009

8) 中谷陽二: 最高検察庁による精神鑑定書例に関する私見. 精神経誌, 111 (11); 1363-1368, 2009

9) 日本司法精神医学会裁判員制度プロジェクト委員会編: だれでもわかる精神医学用語集―裁判員制度のために― 民事法研究会, 東京, 2010

10) 最高裁判所: 平成20年4月25日第二小法廷判決. 刑集, 62 (5); 1559, 2008

11) 最高裁判所事務総局: 司法統計年報刑事事件編 (平成17~30年度). 2006~2018 (https://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/search) (参照2019-10-08)

12) 最高裁判所事務総局: 平成22~30年における裁判員裁判の実施状況等に関する資料. 2011~2019 (https://www.saibanin.courts.go.jp/topics/detail/09_12_05-10jissi_jyoukyou.html) (参照2019-10-08)

13) 最高裁判所事務総局: 裁判員制度10年の総括報告書. 2019 (https://www.saibanin.courts.go.jp/vc-files/saibanin/file/r1_hyousi_honbun.pdf) (参照2019-10-08)

14) 最高裁判所事務総局: 裁判員裁判の実施状況について(制度施行~令和2年8月末・速報). 2020 (https://www.saibanin.courts.go.jp/vc-files/saibanin/2020/r2_8_saibaninsokuhou.pdf) (参照2020-11-13)

15) 司法研修所編: 難解な法律概念と裁判員裁判 法曹会, 東京, 2009

16) 司法研修所編: 裁判員裁判において公判準備に困難を来した事件に関する実証的研究. 法曹会, 東京, 2018

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