Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第122巻第8号

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特集 患者の違法薬物使用を知ったとき,精神科医はどうふるまうべきなのか?
薬物依存症臨床における守秘義務の重要性
成瀬 暢也
埼玉県立精神医療センター
精神神経学雑誌 122: 594-601, 2020

 依存症患者の薬物使用は,「人に癒されず生きにくさを抱えた人の孤独な自己治療」という視点が最も適切である.患者の自己評価は総じて低く,自己否定感や羞恥心をもち,見捨てられる不安も強く,誰にも心を開けないケースが多い.依存症からの回復には,人と信頼関係を築き,人に癒されるようになることが不可欠である.そのために,「守秘義務が順守された正直になれる安全な場所」が必要になる.とくに覚せい剤の使用は,それ自体が犯罪である.やめられないから受診したいのに,通報される不安から受診できない.守秘義務の重要性を,「ようこそ外来」「LIFEプログラム」,自助グループ(NA),ダルクを例に報告した.ハームリダクションでは,患者が薬物を使っているか否か,それが違法であるか否かにかかわらず,患者の困っていることを支援する.「薬物をやめさせる支援」ではなく,その背景にある「生きにくさへの支援」を行うことが,依存症治療の基本である.依存症患者の薬物使用は,懲らしめるべき「悪」ではなく,回復をめざす「症状」として捉えるべきである.守秘義務の順守は最低限治療者に求められる態度であり,治療の命綱である.これが保障されない場所で信頼関係は築けず,回復は生まれない.回復に必要なものは,「信頼できるひと」と「安心できる居場所」である.

索引用語:薬物依存症, 守秘義務, 依存症治療, ハームリダクション>

はじめに
 依存症からの回復には,心を開いて正直になれること,人と信頼関係を築けること,人に癒されるようになることが必要である.しかし,薬物依存症患者は正直に再使用を認めると責められる.そればかりか刑事司法機関に通報される場合もある.そのため,多くの患者は相談や受診を躊躇している.人に相談することができない依存症患者は守秘義務を保障されないと,あたり前の支援を受けることができない.
 本稿では,依存症,とくに薬物依存症臨床における守秘義務の重要性について考えてみたい.

I.薬物依存症患者の背景と心理的特徴
 依存症の背景には人間関係の問題がある.著者は依存症患者には共通した特徴があると考えている.それは,患者の年齢,性別,使っている物質に関係なく,「自己評価が低く自分に自信がもてない」「人を信じられない」「本音を言えない」「見捨てられる不安が強い」「孤独でさみしい」「自分を大切にできない」の6項目に集約できる6-8)
 一般に,依存症患者の薬物使用は,面白おかしく快楽を求めて陥った結果で,自業自得,自己責任とされることが多い.しかし,実は患者の多くは幼少時からの虐待,いじめ,性被害などの深い傷を負っていることに驚かされる.そして,そのことを誰にも話せず心の内に秘めて苦しんでいる.依存症患者の薬物使用は,「人に癒されず生きにくさを抱えた人の孤独な自己治療」という視点が最も適切である1)8)
 彼らの自己評価は総じて低く,自己否定感や羞恥心をもち,見捨てられる不安も強いことから,誰にも心を開けない.彼らは,対処できない困難に直面したとき,人に助けを求めることなく,一人薬物使用によって気分を変えて凌いできた.誰とも信頼関係を築けず,人に癒されることなく孤独に生きてきた例が多い.当然,自殺に向かう可能性も高くなる5)9)18)

II.薬物依存症臨床において大切なこと
 依存症からの回復には,失敗を許され正直になれる安全な場所が必要である.依存症患者が,自助グループやリハビリテーション施設につながり続けることによって回復しているという事実が,このことを証明している.
 依存症からの回復とは,「人に癒されるようになること」である.そのためには,安心して心の内を話せること,つまり信頼関係を築き,人に癒されるようになることが必要である.依存症患者は一人では回復できないといわれる所以である.
 一人で困難に対処しようとした結果,依存症になったとするならば,薬物に求めていたものを人から得られるようになることが回復のために必要である.信頼関係を築くことにより,それまで薬物に求めていた過度の不安,緊張,不眠,自信喪失,意欲低下,抑うつ気分,羞恥などの不快な気分への対処を可能にできるはずである.
 治療者・援助者は,依存症患者に薬物をやめさせようとするのではなく,薬物に頼る必要をなくしていくことを目標とするべきである.つまり,「薬物に酔うこと」から「人と信頼関係を築き癒されること」への転換が「回復」である.人間不信を克服していくその第一歩が,正直な思いを安心して人に話せることであるといえよう.

III.薬物依存症臨床における守秘義務の重要性
 医療機関・相談機関では,信頼関係を築いていくために薬物依存症患者に対しても守秘義務が守られなければならない.とくに覚せい剤などの違法薬物の使用は,それ自体が犯罪である.患者はやめられないから受診するが,同時に通報される不安をもっている.その不安が受診を躊躇させる.病気なのに受診できない.受診できたとしても,安心して正直な思いを話すことができない.必要なときに治療・支援を受けることができない.このような状況では,治療は進まず状態は当然悪化していく.違法かどうかに囚われず,病者として適切な治療を提供することが医療者の役割である.
 患者の覚せい剤使用を通報することは治療者の役割放棄である.症状である再使用を患者が正直に話せなければ治療はできない.一方で受診を歓迎し,患者の困っていることに耳を傾け,誠実に対応していくことで,特別な治療プログラムを提供しなくても,回復していくことを著者は経験している.

IV.実践例より
1.「ようこそ外来」の実践―守秘義務を重視した外来治療―
 外来治療を行うにあたって留意することは,①来院したこと自体を評価・歓迎する,②本人が問題に感じていることを聞き取る,③本人がどうしたいか,に焦点をあてる,④薬物使用によって起きた問題を整理する,⑤依存症についての知識を提供する,⑥治療継続の重要性を伝える,⑦外来治療が続くよう十分配慮する,⑧必要であれば入院を提案する,⑨家族には苦労をねぎらい,家族会・家族教室などへつなぐ,などである7)8)
 加えて重要なのが,覚せい剤使用についての対応である.患者が信頼関係のうえに安心して正直に話せることが大切である.また,覚せい剤使用・所持については医療者に通報の義務はない.通報するか否かは医師の裁量に委ねられている.著者は「再使用は依存症の症状として捉え通報はしない」旨を保障して治療を行っている10).これによって,治療関係は格段に深まる.薬物の再使用は,責められるべき「道徳的問題」ではなく,依存症の「症状」と捉え,どのように対処するかを一緒に考えていく.そのためには,患者が躊躇なく再使用を話せる治療環境が不可欠である.守秘義務が薬物依存症治療を行ううえで極めて重要である.
 このようなスタンスで外来治療を行うと,患者が安心して正直な思いを話すことができ,治療からの脱落を防ぐことができる.例えば,ある依存症専門外来の覚せい剤依存症外来継続率(3ヵ月間)が36~39%と報告3)されている状況で,当センターでは87%にまで高めることができている11)
 海外では治療継続率の高さが,回復率に反映されることが実証4)17)されていることから,治療継続に関する治療者側の姿勢が重要となる.
 当外来において,2011年6月から2015年3月までの3年10ヵ月の間に「ようこそ外来」を意識して著者が診察した薬物依存症(DSM-IV-TR)新規外来患者は322名で,男性239名(74.2%),女性83名(25.8%),平均年齢35.7±12.4歳であった.このうち,入院歴のある例は82名(25.5%),外来薬物依存症再発予防プログラム(LIFE)参加者は15名(4.6%),ダルク利用者は19名(5.9%)であった.対象者の多くは,外来での通常の診療が主であった.
 主な乱用薬物は,覚せい剤169名(52.5%),危険ドラッグ92名(28.6%),向精神薬34名(10.6%),有機溶剤(ガスを含む)11名(3.4%),鎮痛薬7名(2.3%),鎮咳薬5名(1.6%),その他4名(1.2%)であった.
 対象者の外来治療継続期間は,3ヵ月未満が78名(24.2%),このうち1回のみでの終了が37名(11.5%)であったが,22名(6.8%)は転医あるいは前医に戻っている.外来治療継続期間が,3ヵ月以上75.8%,6ヵ月以上61.5%,1年以上46.3%,3年以上18.0%であった.
 転帰については,全322名のうち,「断薬:6ヵ月以上完全断薬」141名(43.8%),「改善:完全断薬ではないが問題行動なく社会生活が著明に改善」51名(15.8%),「不変・悪化」29名(9.0%),「死亡」10名(3.1%),「逮捕・服役」8名(2.5%),「不明・不詳」83名(25.8%)であった.つまり,外来治療開始6ヵ月以上経過した時点で,薬物依存症改善率(断薬+改善)は59.6%(192/322),6ヵ月以上断薬継続率は43.8%(141/322),「不明・不詳」を除くと同断薬率は59.0%(141/239)であった.
 以上から,守秘義務を順守し,無理に薬物をやめさせようとせず,あたり前の治療を続けることで,治療継続率,断薬率が高くなることを示唆している12)

2.「LIFEプログラム」の実践―守秘義務を重視した外来プログラム―
 当センターでは,せりがや覚せい剤依存再発防止プログラム(Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program:SMARPP)などの許可を得てワークブックを作成し,外来薬物依存症再発予防プログラム「LIFE」として,2008年より実施している13).対象は,通院中の薬物依存症患者である.LIFEプログラムは,週1回のワークブックを用いたグループワークで,断薬できていないか再使用リスクが高い患者を対象としている.実際,参加者の84.2%に再使用を認めた.
 終了時点(9ヵ月)での3ヵ月以上の断薬率は61.5%であり,9ヵ月に満たないプログラム未継続・中断例では25.0%にとどまった14).断薬継続のためには長期の継続したプログラム参加が必要であり,補助介入ツールの活用,随伴性マネジメントや動機づけ面接法などの治療技法の活用,治療的雰囲気づくりなどが有効である.このプログラムでも,薬物使用を通報しないことはもちろん,薬物使用を責めることは一切ない.また,使用しないように指示することもない.
 以上より,依存症からの回復には①長期に継続して治療につながっていること,②安心できる居場所と仲間が確保されていること,③正直にありのままの自分を出せるようになること,などが重要であると推測される.

V.ダルク・自助グループと守秘義務
 薬物依存症のリハビリテーション施設であるダルクも自助グループであるNarcotics Anonimous(NA)も,ミーティングを中心に据えた活動である.ミーティングでは,その場で話されたことはミーティング外に持ち出さないことが大切なルールとして徹底される.正直に話したことで不利益になったり傷つけられたりするのであれば,口をつぐんでしまうであろう.両者ともに守秘義務が担保されなければ,存在意義さえ失ってしまう.
 ダルクやNAでは,薬物依存症患者が「安全な居場所」と「信頼できる仲間」を築いていくことが重要である.ここが生命線である.ダルクやNAは,社会からの誤解や偏見,スティグマによって傷つけられ,孤立する彼らを守る役割を果たしてきた.
 ダルクはNAの12ステップに沿って回復を進めることを基本とするリハビリテーション施設である.通所もあるが多くは入所してプログラムに取り組む.「ダメ.ゼッタイ.」に象徴される「不寛容・厳罰主義」の対極にあるのがダルクである.わが国が徹底して前者を推し進めてきたなかで,後者を選択し,潰れず潰されず生き延びてきた.
 ダルク的なものが広く社会に受け入れられるとき,わが国の「ダメ.ゼッタイ.」「不寛容・厳罰主義」から,人の生きる権利を尊重した回復支援が広がるであろう.ダルクを認められるか受け入れられるか,薬物使用を認められるか受け入れられるか,薬物依存症患者を尊厳ある人として認められるか受け入れられるか,その人らしさを,その人の人生を認められるか受け入れられるか,日本という国の「人」に対する考えの根本にかかわる大きな課題である.

VI.これからの薬物依存症臨床に必要なこと
 一般的にわれわれは薬物依存症患者に対して,初めから「厄介な人」「怖い」「犯罪者」などの陰性感情をもつことが多く,そのことを彼らは敏感に感じている.そのため,治療者の何気ない言葉や態度に傷つき,怒りや攻撃性を高めてしまう.治療者側が患者に対して陰性感情をもった場合,速やかに修正できないと治療は失敗に終わる.
 一方,彼らのなかに「このままではいけない」「変わりたい」「回復したい」という思いが存在することも事実である.そして,自分を理解してくれ,信用して本音を話せる存在を求めている.人のなかにあって安らぎを得ることができなかったために,物質によるかりそめの癒しを必要とし,のめりこんだ結果が依存症である.とすると,人のなかにあって安心感・安全感を得られるようになったとき,薬物によって気分を変える必要はなくなる.依存症からの回復のためには,基にある対人関係障害を改善していくことが不可欠である.その回復を実践する場が,自助グループであり回復施設である.これらにつなぐための準備と橋渡しも,医療機関の重要な役割である.
 そもそも薬物乱用者は,一般に「興味本位で薬物に手を出してはまった犯罪者」とみられることが多いが,薬物依存症者の薬物使用は,「人に癒やされず生きにくさを抱えた人の孤独な自己治療」という視点が最も適切である.先に述べたように彼らは,幼少時から虐待,いじめ,性被害など深い傷を負っていることが驚くほど多い.そして,人と信頼関係をもてず誰にも話したり助けを求めたりできない.対処できない困難に直面するとき,物質使用によって何とか凌いできた.しかし,その方法もいつかは行き詰ってしまう.
 物質使用の有無ばかりに囚われた近視眼的なかかわりになることなく,その背景にある「生きにくさ」「孤独感」「人からの癒されなさ」「安心感・安全感の欠如」などを見据えたかかわりでなければならない.
 最近,わが国でも依存症治療は大きく変革してきている.その主な理由は,海外で豊富なエビデンスのある治療法が導入されたためである.この新しいアプローチでは,患者と対決せず,患者の変わりたい方向へ支援し,よい変化に注目して十分評価する.失敗しても責めることなく,フィードバックしてよりよい方策を話しあう.これらは,精神疾患の治療としては,むしろあたり前のことである.
 依存症の最も重要な問題は,「ストレスに弱くなり,薬物がなければあたり前のことさえできなくなること」である.われわれは,それを「怠け」や「やる気のなさ」「甘え」と誤解しがちである.患者が,「やらない」のではなく,「やれなくなっている」と理解することが大切である.
 そのうえで,薬物依存症の臨床において重要なポイントを表1に示す15).最低限この7項目を理解しておくだけでも,よい治療を提供できると考えている.

表1画像拡大

VII.ハームリダクション臨床の提案
 薬物依存症治療における守秘義務について検討する際に,ハームリダクションの考え方を知っておくことは有意義である.ハームリダクションとは,欧州,カナダ,オーストラリアなどを中心に,成功している効果的・現実的な薬物政策である.ハームリダクションとは,「その使用を中止することが不可能・不本意である薬物使用のダメージを軽減することを目的とした政策・プログラム・その実践」である2)
 断薬を目的とはしておらず,薬物使用をやめることよりも,ダメージを軽減することに焦点をあてる.薬物を使っているか否か,それが違法薬物であるか否かは問われない.現実的に必要な支援を提供する.ハームリダクションは,科学的に実証され,公衆衛生に基づき,人権を尊重した政策であり,個人と社会の健康と安全を高めることを目的とする.
 わが国でハームリダクションといえば,注射針の無料交換,公認の注射場所の提供,代替麻薬メサドンの提供ばかりがクローズアップされる.同時に実施される敷居の低いプライマリ・ヘルスケアの提供,積極的な啓発活動,乱用者のエンパワメントなどに力を入れていることは知られていない.
 わが国は,薬物問題に「ダメ.ゼッタイ.」に象徴される「不寛容・厳罰主義」を一貫して進めてきた先進国では稀有な国である.これらは,「薬物依存症は病気」とする視点とは対極にある.臨床的には,「不寛容・厳罰主義」では治療にならないどころか,「反治療的」である.さらには,偏見や人権侵害を助長する可能性が高い.
 ハームリダクションのプログラムにつながっていることが,適切な情報提供・相談支援や医療支援・行政サービスへのアクセスを高め,薬物問題の深刻化を防ぐ.プログラムにつながり断薬へと動機づけられることも期待できる.ハームリダクション政策は,個人・社会の薬物使用による相対的ダメージを減少させることがわかってきている.例えば,救急医療利用回数の減少,医療費の減少,就業率の向上,薬物目的の犯罪の減少などの成果が報告されている.
 世界の先進国もかつては厳罰主義で対応していた.しかし,それでは対処できなかった反省に立って,大きく方向転換をしてきた歴史がある.それが米国を中心としたドラッグコート(処罰ではなく治療へ導入するシステム)であり,欧州などを中心としたハームリダクションである.このような状況で,わが国でも,2016年6月に「刑の一部執行猶予制度」が施行された.一定の服役後に残りの刑期に比較的長期の執行猶予期間を設定し,保護観察所で治療的サポートを提供する.国が厳罰から支援に舵を切った第一歩といえよう.しかし,この制度の成否は地域での支援体制の整備によるところが大きい.この制度に精神科医療はついていけるのかが問われている16)
 先述の通り,ハームリダクションの哲学では,患者が薬物を使っているか否か,それが違法であるか否かにかかわらず,患者の困っていることを支援する.薬物をやめさせる支援ではなく,その背景にある生きにくさへの支援を行う.これは依存症治療の基本である.その際に留意しておきたい点を表2に示す9)

表2画像拡大

おわりに
 治療者にとって,薬物依存症者の薬物使用は,懲らしめるべき「悪」ではなく,ともに回復をめざす「症状」である.周囲からバッシングを受け,自責感,無力感,絶望感をもち,孤立して助けを求められない薬物依存症患者に対して,まずは治療者が味方になる必要がある.そのことを伝えるために,通報しないことの保障は重要なメッセージとなる.薬物使用を責めないこと,断薬を強要しないことと並んで,守秘義務の順守は最低限治療者に求められる態度である.
 薬物依存症の治療にとって,守秘義務は治療の命綱である.これが保障されない場所で信頼関係は築けず,回復は生まれない.依存症患者は安心して正直になれる場所で人に癒され回復する.彼らの回復に必要なものは,「信頼できるひと」と「安心できる居場所」である.違法薬物の使用を通報することは,治療の放棄であり,医療者の態度ではない.
 ひとを信じられるようになると,ひとに癒されるようになる.ひとに癒されるようになると,薬物に酔う必要はなくなる.薬物依存症は人間関係の病気である.回復とは,信頼関係を築いていくことにほかならない.そのために守秘義務の順守は不可欠であり,守秘義務なくして依存症治療は成り立たないと言っても過言ではない.
 わが国の薬物依存症患者が回復を望んだとき,あたり前に治療・支援を受けられる日が来ることを切望する.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) Emmelkamp, P. M. G., Vedal, E.: Evidence-based Treatment for Alcohol and Drug Abuse. A Practitioner's Guide to Theory. Methods, and Practice. Routledge, New York, 2006 (小林桜児, 松本俊彦訳: アルコール・薬物依存臨床ガイドーエビデンスにもとづく理論と治療―. 金剛出版, 東京, 2010)

2) Harm Reduction International: What is harm reduction? (https://www.hri.global/what-is-harm-reduction) (参照2020-05-13)

3) Kobayashi, O., Matsumoto, T., Otsuki, M., et al.: Profiles associated with treatment retention in Japanese patients with methamphetamine use disorder: preliminary survey. Psychiatry Clin Neurosci, 62 (5); 526-532, 2008
Medline

4) Brecht, M. L., Herbeck, D.: Time to relapse following treatment for methamphetamine use: a long-term perspective on patterns and predictors. Drug Alcohol Depend, 139; 18-25, 2014
Medline

5) 松本俊彦, 小林桜児, 上條敦史ほか: 物質使用障害患者における自殺念慮と自殺企図の経験. 精神医学, 51 (2); 109-117, 2009

6) 成瀬暢也: 薬物患者をアルコール病棟で治療するために必要なこと. 日本アルコール・薬物医学会雑誌, 44 (2); 63-77, 2009

7) 成瀬暢也: 臨床家が知っておきたい依存症治療の基本とコツ. 依存と嗜癖―どう理解し, どう対処するか― (和田 清編). 医学書院, 東京, p.18-48, 2013

8) 成瀬暢也: 物質使用障害とどう向き合ったらよいのか―治療総論―. 精神療法, 42 (1); 95-106, 2016

9) 成瀬暢也: ハームリダクションアプローチ―やめさせようとしない依存症治療の実践―. 中外医学社, 東京, p.69-71, 2019

10) 成瀬暢也: 覚せい剤依存症の治療に際しては, 患者に「通報しないこと」を保障するべきである. 精神科, 21 (1); 80-85, 2012

11) 成瀬暢也: 薬物依存症の回復支援ハンドブック―援助者, 家族, 当事者への手引き―. 金剛出版, 東京, p.168-171, 2016

12) 成瀬暢也: 誰にでもできる薬物依存症の外来治療. 精神経誌, 119 (4); 260-268, 2017

13) 成瀬暢也: LIFEワークブックVer. 4. 現在の薬物依存のトレンドに対応する認知行動療法の開発. 平成27年度日本医療研究開発機構委託研究開発費「違法ドラッグ等の薬物依存のトレンドを踏まえた病態の解明と診断・治療法の開発に関する研究」分担研究成果物(主任研究者: 鈴木 勉). 2016

14) 成瀬暢也, 山神智子, 横山 創ほか: 専門病棟を有する精神科病院受診者に対する認知行動療法の開発と普及に関する研究(1). 平成24年度厚生労働省精神・神経疾患研究委託費「アルコールを含めた物質依存に対する病態解明及び心理社会的治療法の開発に関する研究」研究成果報告会抄録集. 2012

15) 成瀬暢也: 誰にでもできる薬物依存症の診かた. 中外医学社, 東京, p.2-7, 2017

16) 成瀬暢也: 薬物依存症と精神医療. 精神医学, 58 (8); 662-663, 2016

17) National Institute on Drug Abuse: Principles of Drug Addiction Treatment: A Research-Based Guide, 3rd ed. (https://www.drugabuse.gov/publications/principles-drug-addiction-treatment-research-based-guide-third-edition/principles-effective-treatment) (参照2020-05-13)

18) 岡坂昌子, 森田展彰, 中谷陽二: 薬物依存者の自殺企図に関する研究―自殺企図の実態とリスクファクターの検討―. 日本アルコール・薬物医学会雑誌, 41 (1); 39-58, 2006

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