Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第122巻第7号

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特集 高齢者に求められる精神療法とはどのようなものか
認知症患者に対する「主体性」を尊重した精神療法―森田療法的アプローチを施行した1例から―
稲村 圭亮
東京慈恵会医科大学精神医学講座
精神神経学雑誌 122: 536-542, 2020

 近年,アルツハイマー病を中心とした認知症に対する画像診断などの診断技術が向上し,比較的早期に診断することが可能となった.それに伴い,進行を遅らせることを目標とした抗認知症薬による早期からの薬物療法の重要性が説かれている.このように,早期における薬物療法の重要性が普及する一方で,社会・心理的な介入の重要性は見過ごされがちである.実際,病初期の認知症を有する患者が,自らの何らかの変容を自覚し,それに対して抑うつや不安を呈することも多い.具体的には,もの忘れに対する不安や失敗することへの恐れから人前に出ることが少なくなる,あるいは,失敗が日々重なれば,自信も失い,反応性にうつ状態に陥ることもある.しかし,医療現場においては認知症患者のこれらの苦痛を考慮せずに,漫然と抗認知症薬の投与が行われている場面も存在する.このような医療は,患者の治療に対する「主体性」を無視するものであり,たとえ早期診断を行ったとしても,治療中断や,一部では認知症の告知を受けても治療に結びつかない不要な精神的不利益となる可能性もある.認知症患者の抑うつや不安といった症状は,その背景に何らかの理由があり,人によりさまざまである.それらを抽出するために認知症患者の訴えに傾聴および共感し介入することにより,抑うつや不安症状を改善するのみならず,治療に対して前向きな姿勢を得ることができ,結果として,認知症を有する人の「主体性」を尊重したケアや医療の提供につながることが期待される.今回,そのような心理・社会的介入の1つとして,森田療法的アプローチを用いた症例を紹介する.患者の苦悩に耳を傾け,患者自身の現在の生活に焦点をおき,生活の活性化を図るようなアプローチを考え,自分らしさ,すなわち「主体性」をどのように維持するかといった点に焦点をあてる精神療法について症例を提示して議論したい.

索引用語:認知症, 精神療法, 森田療法, 軽度認知障害>
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