Clozapine(CLZ)は治療抵抗性統合失調症に対して唯一適用が認められている抗精神病薬である.しかし無顆粒球症,心筋炎,心筋症,高血糖,皮疹などさまざまな重篤な副作用があり,その使用にあたっては十分に注意する必要がある.国内特定使用成績調査に認められたCLZに伴う薬疹の発症頻度は0.5%(6/1,192例)であった.Manu, P. らが2018年に行ったレビューには,副作用のために中止した後に再投与を行った報告は259例あるが,薬疹が疑われて中止された後にCLZが再投与された報告はわれわれが検索した限りでは存在しない.今回われわれは薬疹が疑われたためにCLZが中止となったが,詳細な検査を行った後に再投与を行った治療抵抗性統合失調症の1例を経験したので,若干の文献的考察を含めて報告する.症例は30歳代男性,X-22年に幻聴・作為体験などが出現して統合失調症と診断され,以後入退院を繰り返していた.Chlorpromazine換算で600 mg/日以上の4種類の抗精神病薬を投与されていたが,精神状態に十分な改善がみられなかったため,X-5年に他院でCLZを投与された.CLZ開始後に幻聴は改善傾向であったが,投与開始から31日目,CLZ 350 mg/日を内服している段階で体幹に瘙痒を伴う約1~1.5 cm大の紅斑が散在性に出現した.薬疹が疑われてCLZは中止され,中止後に皮疹は速やかに消失した.CLZ中止後に修正型電気けいれん療法も施行されたが,幻聴は持続し,自傷行為の出現も認められたためX年10月よりCLZ再投与の評価を目的に当科入院となった.入院後,当院皮膚科と連携を図り,CLZに対する薬剤誘発性リンパ球刺激試験(DLST),パッチテストの陰性を確認した.本人・家族に再投与に関してのリスク・ベネフィットを十分に説明し同意を得た後,CLZの内服テストを開始した.内服テストでは3日おきに1.25 mg,2.5 mg,6.25 mg,12.5 mgと慎重に増量を行い皮疹の出現がないことを確認し,CLZを少量で内服している期間は他の抗精神病薬の減量は行わなかった.本症例で,薬疹が疑われて中止された後にも少量からCLZを再投与する方法を提示した.
Clozapineによる薬疹を疑われ中止した後に再投与した治療抵抗性統合失調症の1例
1)大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室
2)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神疾患病態研究部
3)JCHO大阪病院
4)医療法人フォスター生きる・育む・輝くメンタルクリニック
5)大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学皮膚科学教室
2)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神疾患病態研究部
3)JCHO大阪病院
4)医療法人フォスター生きる・育む・輝くメンタルクリニック
5)大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学皮膚科学教室
精神神経学雑誌
122:
424-430, 2020
受理日:2020年2月25日
受理日:2020年2月25日
<索引用語:クロザピン, 再投与, 副作用, 薬疹>