Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第122巻第12号

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総説
精神分析的アプローチからみた自閉スペクトラム症と自閉スペクトラム心性について
福本 修1)2)3)
1)長谷川病院
2)代官山心理・分析オフィス
3)きしろメンタルクリニック
精神神経学雑誌 122: 893-909, 2020

 本総説では,現代の精神分析的アプローチについて概説したうえで,その観点からみた自閉スペクトラム症(ASD)の特性および自閉スペクトラム(AS)心性の特徴を論じる.精神分析は理論的用語からなる体系ではあっても,一定の設定と態度で行われる治療実践である.Freud, S. の時代と異なり,現代の精神分析的アプローチは,思弁的なおそれのある病因論の追究に囚われていない.そのめざすところは治療的な介入であり,障害の除去や矯正ではなく成長と関係性の回復をモデルに,患者が治療者と経験を共有するなかで心の柔軟性を獲得し,自己および他者についての理解を深めることを目的としている.それゆえ精神分析的アプローチは特定の疾患のためのものではないが,疾患に特有の何かを経験し理解する機会とはなりうる.精神分析的アプローチと自閉スペクトラム圏とのかかわりは,「自閉症」概念以前からKlein, M. やWinnicott, D. らの子どもを対象とした仕事にすでに存在した.障害の器質的基盤の存在が共有理解となってからも,Tustin, F. とその流れは,自閉性障害が確定した症例を精神分析的アプローチで治療した.彼らが得た独特の対象関係と不安についての知見(「自閉対象」「自閉輪郭」「ブラックホール」など)は,自閉的パーソナリティのあり方の理解に有益である.昨今,ASDの存在を前提に面接を始めたのではなく,経過の途上で気づかれるか,逆に気づかないまま面接が継続されることが増えている.それは成人のAS傾向を精神分析的に理解する契機となったが,相手と関係しつつその関係性を俯瞰して理解できるようになっていくという精神分析的アプローチの中核的三角形の原理が,ASDでは容易に働かないことを意味する.これは旧来の精神分析にとっては方法論自体の危機である.そうしたなかで精神分析的アプローチは,もう1つの特質である価値中立性に基づいて,患者の非自閉的部分との交流を図るばかりでなく,ASのさまざまな表れを特有の「生活形式」(Wittgenstein, L.)として理解し,相互共存を促すことに寄与しうる.

索引用語:自閉スペクトラム症, 自閉スペクトラム心性, 精神分析的アプローチ, 生活形式>
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