Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第121巻第9号

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特集 科学的エビデンスと脳基盤に基づくポジティブ精神医学―最前線と臨床応用の発展性―
ポジティブサイコロジー理論によるポジティブ精神医学への発展
須賀 英道
龍谷大学短期大学部社会福祉学科
精神神経学雑誌 121: 700-707, 2019
受理日:2019年1月19日

 ポジティブサイコロジーが精神神経学会学術総会のシンポジウムに取り上げられて2019年で4年目となる.これまではこの学会シンポジウムを草分け的舞台として,Seligman, M. E. P.のポジティブサイコロジーの紹介や認知行動療法での応用,脳科学との関連,地域医療への発展性,ウェルビーイング実践手法などが取り上げられてきた.著者は自ら開発したウェルビーイング実践プログラムの紹介と,教育や臨床でのプログラム導入効果について報告した.特に臨床において,休職中のうつ病患者へのリワークプログラムにウェルビーイング実践プログラムを導入し,高い有効性が示されたことは,今後の日本の精神科臨床でのポジティブサイコロジーの活用の期待につながった.こうしたなかで,ポジティブサイコロジーの発祥の地でもある米国では最近大きな動きがみられる.それは2015年に,Jeste, D. V.とPalmer, B. W.によって「Positive Psychiatry」が発刊され,ポジティブサイコロジーが精神医学にも明確に組み入れられたことである.日本でも,2012年に大野裕を中心に日本ポジティブサイコロジー医学会が立ち上がり,ポジティブ視点を心理学から医学へと切り替える動きが始まり,このシンポジウムもその流れのなかで生じた.今回は,米国で立ち上がったこのポジティブ精神医学について取り上げ,これまでの精神医学との相違点や必要性,精神科治療と予防への応用,今後の発展性などについて紹介したい.ポジティビティーの視点については,精神医学分野以外ではレジリエンスや楽観性,エンゲージメントといったポジティブ心理社会性要因について,主観的なポジティブ感だけではなく,測定可能な客観的エビデンスとして数多く報告されてきた.しかし,こうした研究成果が日々の精神医療にほとんど影響を及ぼしてこなかったのが現況でもあり残念ともいえる.今後の日本でのポジティブ精神医学に対する評価が高まることが望まれるだろう.

索引用語:ポジティブサイコロジー, ポジティブ精神医学, ウェルビーイング実践プログラム, リワーク>

はじめに
 これまでの精神医学では,各個人の訴える,あるいは各個人に生じた具体的問題に対して,精神医学的視点で原因究明し解決するという方向性(診断,治療など)が主に求められた.これは医学の基本でもあるパソジェネシス手法であり,精神医学の王道である.しかし近年になり,個人要因以上に環境要因が大きくなってくると,各個人の抱える問題の解決を極致の課題とする方向性から,環境適応への柔軟性と主観的幸福感の向上に価値を求める流れが生じている.サリュートジェネシス手法が医学にも取り入れられ始めたのがその証である.
 ポジティブサイコロジー手法はその1つであり,各個人が自らの特性を理解し,自己の強みを早期につかみ,自己肯定によってウェルビーイングに至るといったポジティブ視点が求められる.これによってレジリエンスが強化されることが実証2)されており,メンタル不調の一次予防に直結する手法ともいえる.そして,この方向性は個人に限られるものではなく,絆(relationship)の強化によって,家族・社会での受容性の向上や連帯感による行動変容を生み出し,ウェルビーイングを拡大させ,成長した地域コミュニティーをも生み出す.
 本稿ではまず,最近米国で始まったポジティブ精神医学について,その概念と精神科治療や予防への応用,今後の展望などについて紹介する.さらに後半では,わが国でもポジティブ精神医学を臨床に用いた実践例として,リワークプログラムにおけるウェルビーイング実践プログラムの効果を報告するとともに,認知症予防セミナーでのウェルビーイング実践プログラムの効果をもとに,今後の超高齢社会に求められるウェルビーイング視点についても言及したい.

I.ポジティブ精神医学の出現
 ポジティブサイコロジーに対する精神科医のイメージは,胡散臭いといった否定的なものが現時点では大半であろう.これは,医学の基本はパソジェネシス的視点であり,患者の抱える病気の諸問題についてその原因を究明し解決することが目的とされているからである.そこでは患者のもつネガティビティーに常に目が向けられ,そのネガティビティーの解決が学術的にも臨床的にも最重要課題とされている.そこにポジティブという言葉はそぐわない.何の学術的根拠もない胡散臭い考え方だという見方になるのも否定できない.
 しかし,この短絡的なイメージは,精神科医の関心が精神疾患の診断・治療に関するエビデンスに偏りすぎ,ポジティブサイコロジーのアウトカムデータへの無関心によるものといえる.ポジティブサイコロジーにおいては,さまざまな心理実験によって,気分や思考,意欲などを向上させる要因があることが実証10)されている.これらの要因が,ポジティブ心理社会性要因(positive psychosocial factors:PPSFs)と呼ばれるものである.しかし,精神医学や医療ではPPSFsの向上によってポジティブな成果が生じることにこれまで目が向けられてこなかった.
 精神医学の定義については,「精神,感情あるいは行動障害,特に内因性あるいは対人関係に起因する障害を治療する,科学と実践を取り扱う医学の一分野」3)という見方が中心である.一方,ここで取り扱うポジティブ精神医学については,2015年にJeste, D. V. とPalmer, B. W. が著した「Positive Psychiatry」2)のなかで,「ポジティブ精神医学とは,精神あるいは身体疾患の患者やそのリスクがある人に対して,PPSFsを向上させることを目的とするアセスメントや治療介入を通して,ウェルビーイングの理解や促進を行う科学と実践である」と定義している.このことは,ポジティブ精神医学のめざすことが,決して従来の精神医学との交代ではなく,病理学から健康生成論へ,すなわち,症状を治療することからウェルビーイングを強化することまで幅広く取り扱うことを意味している.これは,これまでの精神医学を補強し豊かにするものであり,PPSFsと健康増進,ウェルビーイングの関係性についてのエビデンスを,精神医学の臨床実践や教育,研究においても活用することである.
 ポジティブ精神医学の考え方が生まれた背景には,Seligman, M. E. P.5)によるポジティブサイコロジーの立ち上げの動きがある.彼は,従来の心理学が人のもつ欠点や病気の解明といったネガティブ視点に偏り,人の潜在力や,長所,達成可能な熱望,心理学的な要求水準についてはほとんど何も解明してこなかったという状況を反省し,ポジティブサイコロジーの必要性を主張した.ポジティブサイコロジーは,個人のもつポジティブな性質を理解し,まとめあげることに主眼をおく新たな科学とし,すべての人の人生をより高めていくことを究極の目的とした.その後ポジティブサイコロジーの動きは国際的に広がり,欧州ポジティブ心理学ネットワークや国際ポジティブ心理学会,さらに2012年には日本ポジティブサイコロジー医学会が発起した.
 精神医学の使命が精神疾患の患者の症状を軽減することに限定されるものではなく,患者の成長や繁栄,発展に目を向け,彼らの人生を満足いくものにすることまで幅広く対応していくことにあると多くの精神科医が気づき始めたことがこうした国際的な動きの根底にあるといえる.さらに現代社会において精神疾患の患者が治療によって「治る」という概念に多様性が生じたこともその動きの背景にあるだろう.感染症のように完治することが難しく,慢性化していく疾患の患者にとって求められるものが,その患者のおかれた環境とその受容性によって大きく異なる.そこに生まれたのがリカバリー概念であり,ポジティブアウトカムの1つの捉え方である.
 リカバリー概念は一元的なものではなく,米国の実践ガイド7)でも希望,強み,個人特性,全体論,ピアサポート,非直線的,エンパワーメント,自己方向付け,敬意,責任感の10個の要素を原理として,ディメンジョナルなアプローチが求められている.こうした捉え方によってリカバリーの結果には多様性が包含されている.ポジティブアウトカムのもう1つに,ウェルビーイングがある.ウェルビーイングでは,WHOの健康定義でも用いられたように個人の心身の健康状態や社会的役割,コミュニティーの向上をめざす.さらには,単純な快楽感(喜びや幸福感,歓喜のようなポジティブ気分)で満たされるものではなく,自己活性化や生きる意味の幸福感的(エウデモニア)体験を促進することでもある.他にポジティブアウトカムとして,ポジティブに年をとること〔上手な加齢(successful aging)〕や逆境からの立ち直り〔トラウマ後の成長(posttraumatic growth)〕といった目標も挙げられている.
 従来の精神医学では精神病理による評価が中心であるのに対して,ポジティブ精神医学ではこうしたポジティブ特性についてPPSFsの評価が用いられる.レジリエンスや楽観性,叡智,熟達,自己効力感の認識,コーピング,創造性,誠実性,崇高さ,宗教心などが挙げられている.PPSFsの向上によってポジティブアウトカムが期待される.
 ポジティブ精神医学における治療介入は,社会心理的および精神療法的介入となるが,介入による活性化によって,楽しい体験や,感謝ワーク,親切行為の実践,生きる意味や希望の追求,自己の強みの気づきと伸ばし,自己や他者に対する共感の構築などが行われる4).これらの効果を期待して,統合失調症や希死念慮,慢性痛,禁煙希望など多くの対象者に用いられている.従来の薬物療法,精神療法に加えることで,さらに治療効果を高めるような補完的および代替的,統合的な医学治療介入といえる.このことは,腰痛治療において整体・鍼灸療法の介入によって治療効果が向上するというエビデンスがあるが,それに類似している.
 ポジティブ精神医学では,治療介入の視点を広げ,予防介入の効果が期待される.例えば,子どもや青年に対する予防努力において,胎児性アルコール症候群や反社会性行為,非行,トラウマ/ストレス関連障害などにその効果が示され,特殊教育,少年司法,児童福祉などにおいて活用されている1).また,個人や集団レベルでの成人に対する予防努力として,トラウマ/ストレス関連障害,精神病の初発例,産後うつ,高齢者うつ,認知症などにも応用されるだろう.ただし,こうした予防努力を維持するためには社会の役割も必要とされる.
 今後,ポジティブ精神医学は実践的な手法を用いることで統合していくことができるだろう.それは,患者における症状や診断を評価するだけでなく,患者のウェルビーイングやPPSFsのレベルについても評価することからポジティブ精神医学を広げられるからである.そして,精神療法的および行動療法的治療介入を行い,さらにはそれに付随する追加研究や生物学的研究を生かすことで,向上したウェルビーイングや低いレベルの知覚ストレス,上手な加齢,トラウマ後の成長,リカバリーのようなポジティブアウトカムを中心としたそれぞれの特性を強化することができる.ポジティブアウトカムや貢献,強みをさらに強化できれば,精神疾患に対するスティグマの減少や,ヘルスケアの専門家や若い精神科医を惹きつけさらなる発展につながる.今後の精神医学が,ヘルスケアシステム全般の中核要素に発展するためには,精神科の実践のなかにポジティブ精神医学を日常的に取り入れることが明らかに必要である.今その時期が始まったといえるのである.

II.わが国でのポジティブ精神医学の実践
1.休職うつ病患者のリワークプログラムでの活用
 ポジティブ精神医学の考えに基づく臨床手法として,著者はウェルビーイング実践プログラムを作成8)した.この実践プログラムの有効性の実証には,集団精神療法,特に集団認知行動療法が実施できる場が適していることが予想され,うつ状態にて休職となり,リワークプログラムに通っている人を対象に試みた.大うつ病性障害患者に対してのポジティブ心理療法については,Seligmanらが薬物療法および精神療法より有効であったという報告6)をしている.その後,米国では積極的にポジティブ手法がうつ病治療に導入されているが,リワークプログラムでは数少ない.そこで著者はリワークセミナーにおいて,ウェルビーイング実践プログラムを参画型ワークショップ形式でグループに対して施行することにした.
1)対象
 対象は,DSM-5にて,抑うつ障害群と診断され外来治療中にうつ状態にて休職期間に入った患者のなかからウェルビーイング実践プログラムの受講エントリーをした48名(男:29,女19)である.平均年齢は42.2±11.2歳.教育歴は全員が大卒である.本研究については,龍谷大学倫理委員会にて承認されている.
2)方法
 ウェルビーイング実践プログラムを週1回60分,1クール5回で施行した.施行形式は,4人1グループの参画型ワークショップ形式で,進行は2人ペアでの会話(face-to-face)を基本に行った.プログラムの概要を表1に示す.
(1)調査方法
 ウェルビーイング実践プログラムの施行前後において,アンケート調査を行った.アンケートでは,人生満足度,主観的幸福度,生活満足度,協調的幸福度,抑うつ度の尺度を用いて,自己評価した.
(2)評価尺度
 各個人の生活全般の満足度については,内閣府が実施している「国民生活選好度調査」の指標を用いた.次に,主観的幸福度については,11段階(0非常に不幸~10非常に幸福)の自己評価尺度を用いた.人生満足度としては,哲学的な個人差を除外した人類共通の人生満足度の測定として,「人生満足度尺度(Satisfaction with life scale:SWLS)」(角野,1994)を用い,日本人向けの幸福感の変化(協調的幸福度)を捉えるためには,「協調的幸福感尺度」を用いた.メンタルヘルスの指標の1つとして抑うつ度の変化を見るために日本版ベック抑うつ質問票(Beck Depression Inventory:BDI-II)を用いた.
(3)ウェルビーイング実践プログラムの日常生活での活用状況調査
 ウェルビーイング実践プログラムの施行後(1クール最終日)に,プログラムの具体的手法について,各人の日常生活でどれだけ実践されているか,その活用状況について調査した.活用状況は,「活用して効果を感じた」「すでにやっている」「少しやり始めた」「やりたいけどできない」「自分には無理だ」の5段階評価とした.なお,この活用状況調査については,初期の36名については行っておらず,今回調査期間の途中から導入したため,12名の対象者にのみ行われたものである.
(4)参画型ワークショップの様子
 参画型ワークショップでは,テーブルごとに4人1グループとし,2人ペアを基本に会話(face-to-face)を進めた.会話の進行では,講師がファシリテーターとなり,会話のテーマが細分して与えられ,ワークショップが進められた.
3)結果
表2に示されるように,人生満足度,主観的幸福度,生活満足度,協調的幸福度におけるすべての尺度において,有意に向上がみられた.協調的幸福度は,本プログラムで最も意図した協調性の獲得を意味しており,その有効性を示しているといえる.また,BDI-IIの改善が示すように,抑うつ症状も有意に改善した.
 以上の結果にみられるように,抑うつ症状が有意に改善し,さらに人生満足度,主観的幸福度,生活満足度,協調的幸福度のいずれも有意に向上したことは,復職を目標にしている人にとってウェルビーイング実践プログラムを実施9)することは意義があると考えられる.
 次に,ウェルビーイング実践プログラムの日常生活での活用状況について,日常生活でどこまで実践しているか(実践率)と,参加者が実際に有効と意識したかどうか(主観的有効比率)について算出した(表3).
 半数以上の人によって日常生活で実践された手法は,楽しい会話(66.7%),一所懸命(50.0%),感謝(75.0%),絆の拡大(50.0%)であり,そのなかで主観的に有効と感じられたものは,一所懸命(41.7%),感謝(50.0%)であった.
 一方,実践率の低い手法は,強みの気づき(25.0%)であった.
 また,楽しい会話(25.0%),強みの気づき(25.0%),目標設定&自己評価(25.0%),生きがい(16.7%),絆の拡大(25.0%)は,あまり主観的に有効と感じられなかった.
 ここでは会話を主とした参画型ワークショップを行うことによって,各人の健康や時間の管理,目標設定が意識化され,復職を求めるうつ病患者の日常生活における基本的指向性が変わり,人生全体の満足度が増加したと思われる.また会話形式を用いることで小グループの交流により他者を理解し,協調することによる幸福感を得ることができたと思われる.これは,社会生活を送るために必要な他者からの視線と自己意識を結びつけることにつながる.このプロセスを積極的に提供することによって,うつ病患者は自分の状況や特性を反映した目標を設定し,復職に向けたモチベーションを高め行動変容を可能にすることができると考えられる.
 リワークプログラムに取り組むうつ病患者に対して,主観的に有効と感じられた手法として,感謝や一所懸命が挙げられた.このことは,著者が外来で行っているうつ病患者の個人面談で,「ありがとう&よかったこと日記」や一所懸命に取り組む課題の設定を早期に導入し,効果を認めていたことからも頷ける結果である.そして,強みの気づきが苦手で,主観的に有効と感じにくいことも,うつ病患者のネガティブ指向の特性から理解できる.著者の経験上,一般学生や不安障害患者,発達障害患者においては,強みの気づきにあまり抵抗はなく,強みの書き出しも比較的スムーズである.そのため,うつ病患者では,「ありがとう&よかったこと日記」や一所懸命に取り組む課題の設定に効果を自覚してから「強みのノート」への取り組みを推奨する方針にしていた.
 しかしその後,ウェルビーイング実践プログラムをセミナーで施行していくなかで,強みの気づきのアプローチ手法を変えることで,うつ病患者も自分たちの強みに多く気づけることがわかった.その手法とは,東日本大震災などの逆境における日本人の強みをイメージし,その日本人の強みを自分たちも同様にもっているという気づきによって,自分の強みにつなげることができるというものである.この強みは,トラウマ後の成長(posttraumatic growth)というポジティビティー概念で,内向的な神経症傾向のパーソナリティの人やうつ状態の人にもマッチしていることがわかった.

2.認知症予防セミナーでの活用
 著者は認知症予防セミナーを年に2回行っている.内容は,表4のようにウェルビーイング実践プログラムの短縮版の形式で,6つのテーマを4回のセッションに分けて,週に1回施行している.
 毎回の参加者は,70歳前後の男女約25名であり,セミナーの終了後のアンケート評価では「とてもよかった」「また参加したい」が9割以上を占めた.そこで,主観的幸福度,人生満足度,協調的幸福度,抑うつ感についてもアンケート調査したが,セミナー前後でいずれも有意に改善していた.
 この結果から,ウェルビーイング実践プログラムが認知症予防になるとはいえない.しかし,プログラム施行後に会話を主としたコミュニケーション意欲が高まり,一人で過ごさず誰かとのつながりをもって毎日生活したいというモチベーションが向上していることは確かである.そして,自分の強みに気づき,その強みがこれまでの人生に役に立っていたという自己への肯定的評価が,生きがいとして再認される.
 年をとるという,加齢に対する自己評価には,身体的側面の衰えが全面に出て,ネガティブなイメージが強い.さらに,若かりし頃の才能と比較すると老いていく姿は衰えにしかみえない.しかし,強みという心理的側面,そして人とのつながりが深まるという社会的側面は,「老い」によってより成長するというポジティブなイメージに変換することは可能である.この加齢における成長が,上手な加齢(successful aging)と呼ばれる概念である.人生100年といわれ高まりつつある最近の健康意識のなかで,この上手な加齢の概念は重要である.PPSFsの1つとしても,ポジティブ精神医学において大きく取り上げられるようになってきた.こうしたポジティブ精神医学の一手法として,作成したウェルビーイング実践プログラムが今後さまざまな分野に使われることを期待したい.

表1画像拡大表2画像拡大表3画像拡大表4画像拡大

おわりに
 ポジティブ精神医学という概念は,日本においてはまだ多くの精神科医にとって未知の分野である.精神疾患の多くが多様化し,病態そのものが軽症化していくなかで,メンタル不調者が増加しているのは最近の社会傾向でもある.この状況に対して,薬物療法による対処に頼ってきた多くの精神科医が行き詰まりを感じているのは事実である.そうしたなかで,ポジティブ精神医学の視点をもとにした対処法が多く生まれ,その効果についてのエビデンスが増加していくことに期待したい.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) Bell, C. C.: Trauma, culture, and resiliency. Resilience and Mental Health: Challenges Across the Life-span (eds by Southwick, S. M., Litz, B. W., et al.). Cambridge University Press, Cambridge, 2011

2) Jeste, D. V., Palmer, B. W., eds: Positive Psychiatry: A Clinical Handbook American Psychiatric Publishing, Washington, D. C., 2015

3) Merriam-Webster Medical Dictionary. 2003 (https://www.merriam-webster.com/medical) (参照2019−06−18)

4) Parks, A. C., Biswas-Diener, R.: Positive interventions: past, present and future. Mindfulness, Acceptance, and Positive Psychology: The Seven Foundations of Well-being (eds by Kashdan, T. B., Ciarrochi, J. V.). New Harbinger Publications, Oakland, 2013

5) Seligman, M. E. P.: The president's address. Am Psychol, 54; 559-562, 1999

6) Seligman, M. E. P., Rashid, T., Parks, A. C.: Positive psychotherapy. Am Psychol, 61 (8); 774-788, 2006
Medline

7) Substance Abuse and Mental Health Services Administration: SAMHSA announces a working definition of "recovery" from mental disorders and substance use disorders. 2011 (https://www.drugsandalcohol.ie/16678) (参照2019−06−18)

8) 須賀英道: 幸せはあなたのまわりにある―ポジティブ思考のための実践ガイドブック―. 金剛出版, 東京, 2014

9) 須賀英道: 休職中のうつ病患者へのポジティブ心理手法を用いたグループセラピーの効果. 第12回日本うつ病学会抄録 157. 2015

10) Vaillant, G. E.: Positive emotions, spirituality and the practice of psychiatry. Mens Sana Monogr, 6 (1); 48-62, 2008
Medline

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