Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第121巻第11号

※会員以外の方で全文の閲覧をご希望される場合は、「電子書籍」にてご購入いただけます。
特集 精神科一般外来での自殺予防について考える
総合病院精神科外来での自殺予防
衞藤 暢明, 原田 康平, 松尾 真裕子, 吉良 健太郎, 大串 祐馬, 畑中 聡仁, 川嵜 弘詔
福岡大学医学部精神医学教室
精神神経学雑誌 121: 873-879, 2019

 救急医療を担う総合病院は,自殺企図により生じた身体疾患への対応,精神疾患への対応,社会的な問題への対応の3つの要素のいずれにもかかわり,その点に精神科病院や行政機関とは違った独自性がある.実際の臨床では,何が最優先されることなのかを考えながら治療を進めることになる.患者の自殺の危険度に関しては,その患者のもつ自殺の危険因子の重なりを評価することによって優先度の高い患者を選別し,医療スタッフ間,支援者間で情報共有を行う.自殺に関連する背景の要因は年代ごとに傾向の違いがあり,かかわる相談機関や専門職も異なっている.それぞれの年代の特徴を踏まえて,精神科医療の枠にとどまらない多職種連携を図り,さまざまな相談機関との連携を図らねばならない.その場合に,自殺の危険因子をもとにした「危険度の評価」を共有しておくことが重要になる.現在,われわれは総合病院での自殺未遂者に対する治療経験をもとに,自殺関連事象(自殺未然,自殺念慮,自傷)が問題となっている患者,自死遺族・自死遺児を受け入れる外来診療の試みを行っている.ここでは患者自身が援助希求をできるようになり,孤立を防ぐための行動ができるようになることを目標の1つとしている.自殺の危険度の高い患者にかかわる外来治療においては,医療者や支援にあたる専門家(学校関係者,法律関係者,行政職,介護職など)が孤立しないように日頃から意識しておくことが重要である.

索引用語:自殺予防, 総合病院, 外来, 多職種連携>

はじめに
 総合病院では,自殺企図後の身体的治療と並行した精神科的評価や治療のみならず,そこで明らかになった精神疾患,また患者自身の抱える心理社会的問題への支援を行うことから,自殺に関連したさまざまな要素を扱うことになる.自殺未遂者が外来治療へ移行する際には,その後の自殺企図の再発を防ぐことが治療の最大の目的になる.本稿では自殺未遂者への対応を中心に,総合病院で行う自殺予防のさまざまな側面に関連した外来診療について紹介し,自殺予防からみた精神科外来診療のあり方について検討したい.

I.総合病院における自殺未遂者への対応
 救急医療を担う総合病院には,多くの自殺未遂者が搬送される.自殺未遂の既往が,将来の自殺を予測する最大の危険因子であることはよく知られており,総合病院は特に自殺のハイリスク者が集まる場所と言ってよい3)5).そのため,総合病院は自殺予防において精神科病院や精神保健福祉センター,保健所などの行政機関とは違った役割を担っていると言ってよいだろう.
 一言に自殺未遂者と言っても,それぞれの自殺企図の手段,精神疾患,社会的問題の側面からみた場合,多くの要素が含まれる(表1).救急医療の場面における自殺未遂者への対応は,通常の精神科外来診療で考える精神疾患(精神症状)と社会的問題(環境因子およびサポート)との相互の関係を考慮するにとどまらない.精神疾患,社会的問題に含まれるそれぞれの要素の組み合わせに加えて,自殺企図によって生じた身体疾患の程度や治療がこれらに及ぼす影響も考慮する必要がある.重症度の高い身体疾患を伴う,いわゆる重症自殺未遂者では身体疾患の及ぼす影響も大きくなる1).自殺企図直後からの身体的治療環境のもとで行う精神科的な対応は,救急医療の現場における考え方の原則と同様に,最優先すべきことは何なのかを常に意識する必要がある(図1).このような側面が総合病院における自殺予防活動に特徴的な点であろう.
 近年では,自殺企図者が救急医療機関に入院となった時点から精神科医がかかわるシステムが広がりつつある.総合病院の精神科医が入院の時点で自殺企図であるかどうかの判定を行い,身体的な治療と並行して自殺行動に関連した要因の分析,精神疾患に対する治療,社会的要因をできるだけ減らす働きかけを行う.身体的な治療がある程度終わる時点では,精神科的な治療の枠組みを整え,同時に社会資源へのつなぎを行う(図2).多くは精神科のチームや医療機関以外の支援者との間で情報共有がなされ,患者を支える体制作りが進んでいく.
 総合病院である福岡大学病院では,2006年以降,4~5人の精神科医と精神保健福祉士を中心とした自殺予防チームが救命救急センター(三次救急)に搬送された重症自殺未遂者に対する評価・介入を行っている.自殺未遂者の約7割が同院の精神科病棟に転科し,自殺企図後の精神科治療に加えて,患者の抱える社会的な問題に対するソーシャル・ワークが行われる.
 このようなモデルはわが国の救命救急センターに入院となった自殺未遂者を対象としてケース・マネージメントの効果を実証したランダム化比較試験(randomized controlled trial)の結果を受けて,2016年より「救急患者精神科継続支援料」が算定されるようになったことで,徐々に広まりつつある4)
 このように総合病院の精神科外来では,自殺未遂からそれほど時間の経っていない患者への対応が求められる.自殺未遂者が再度の自殺を図るのを防ぐことが,その後の外来治療での重要な目的となる.

表1画像拡大
図1画像拡大
図2画像拡大

II.自殺の危険度の評価
 自殺未遂後の患者のフォローを行う際,どの患者がより自殺の危険度が高いのか,もしくは自殺行動に及ぶリスクが高いのかについて,精神科外来での評価を行う必要がある.この評価は外来を担当する精神科医だけで行うよりも,複数の医療者や支援者が行うことで,より実態に近い的確な介入が可能になる.
 自殺の危険度の評価にはいくつかの方法があり,いまだ十分に確立されているとは言い難いが,自殺の危険因子の重なりを継時的に確認していくことによって,自殺の危険度の高まりを捉えることが可能になる.自殺の危険因子のうち,10個の因子を取り上げているSAD PERSONSスケール6)をもとにして作成した福岡大学病院で使用している実際の評価シートを示す(図3).自殺未遂者を含む自殺の危険度の高い患者を多く抱える精神科の外来診療においては,危険因子の重なりの程度(危険因子の数)を比較することによって,多くの患者のなかでより危険度の高い患者を認識することが可能になる.このような評価方法を患者にかかわる複数の支援者が共有しておくことが必要であり,日頃からの自殺予防教育と知識・技術の習得が求められる2)
 また,自殺の危険度に応じて必要な診療体制を検討して,特に危険度が高いと判断される場合は複数の精神科医および医療スタッフが関与し,継続的に精神科診療が維持されるような工夫を行う.

図3画像拡大

III.多職種連携の実際
 自殺未遂患者が回復していくとき,精神症状の安定はもちろん,患者の抱えている社会的問題の解決も欠かせない事柄となる.しかし実際の対応では,自殺の危険因子それぞれが互いに関連し合い,個人的もしくは社会的要因が複雑に絡み合っているため,容易に問題が解決しないことをしばしば経験する.
 また,複雑な問題を抱えた患者への対応は,複数の医療スタッフがかかわることが前提となる入院治療に比べ,外来治療においては,治療者にとって大きな負担となる.扱い難い患者の問題を抱え続けることによって治療者自身が孤立し,自殺の危険度の高い患者への十分な働きかけができなくなってしまう事態も少なくないと想像される.このような治療者自身の孤立を防ぐために,外部の支援者との連携も意識して行う必要があるだろう.
 福岡大学病院では,自殺未遂者の抱える社会的な問題について取り組むために,外部の支援者との連携を図るシステム作りを行ってきた.自殺の危険度の高い患者を支えていく際に連携する専門職はさまざまであり,患者の年齢や背景によっても趣が異なる.これまでに自殺未遂者の外来でのフォローにおいて連携を行った主な職種や連携機関について示す(表2).とりわけ法的問題に対する専門職との連携は,自殺の危険度の高い患者への対応の際に有効であり,これまでに多くの相談を行ってきた(表3).法的な問題についての意見を求める相手がいることで,医療者だけでは十分な対応が難しい患者への対応の新たな展開がみえてきたり,限界を認識しそれを共有したりできることがメリットといえるだろう.それぞれの職種や支援機関に対して,精神科の側が自殺予防に関する研修や症例検討の機会を設けることで,連携はより深まる.
 このような外部との連携体制を作ることで,医療者自身の孤立を防ぐことができる.また,治療者自身が支えられる環境に身をおくことで,患者の孤立を防ぎ,ひいては患者の精神科的な治療からの脱落を防ぐことになると考える.

表2画像拡大表3画像拡大

IV.総合病院精神科外来に求められる新たな役割
 これまで述べてきたように総合病院には多くの自殺未遂者が集まる.このことはすなわち,総合病院では日常的に自殺の危険度の高い患者を扱っており,そこで彼らにどうアプローチするかについてのノウハウや知見が集まる場所であることを意味している.
 総合病院で得られた自殺の危険に対する介入は,精神科の日常診療における自殺予防についてのモデルも提供するものと考えられる.以上のような考えから,福岡大学病院では現在,「自殺予防」を目的とした外来を試みており,そこでは自殺未遂者のほか,自殺未然(中断された自殺企図)の患者,自死遺族・自死遺児,自傷者なども対象としている.自殺行動のなかでも自殺の危険度の低い段階での対処を可能にし,早期に対応することで,さらに自殺予防効果を高めることを意図している(図4).そのなかで,患者自身が適切な時期に,適切な相手に対して援助希求をできるようになり,自ら孤立を防ぐための行動ができるようになることを1つの目標として働きかけていく.
 これらの患者のニーズや課題,そして成果が明らかになることで,総合病院のみならず精神科外来での自殺予防における役割がさらに有効なものになっていくことが期待される.

図4画像拡大

おわりに
 以上述べてきたように,総合病院では自殺未遂者を中心とした自殺の危険度の高い患者に日常的に出会う.自殺企図が重篤なものであるほど複雑な問題を抱えていることがあり,精神科的な評価・治療に加えて,社会的な問題を解決していくことが求められる.そこでは,治療者自身が治療チームの一員として動き,医療機関にとどまらない多職種連携のなかで患者を支えていかなければならない.それによって極めて孤立しやすい患者が,自ら援助を希求する態度を学び培っていくものと想像される.このような治療者の「孤立しない,孤立させない」あり方が,とりわけ外来での自殺予防活動を継続するうえで重要なものと考える.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) 衞藤暢明: 自殺手段へのアクセス. HOPEガイドブック―救急医療から地域へとつなげる自殺未遂者支援のエッセンス― 〔日本自殺予防学会監修, 国立研究開発法人日本医療研究開発機構障害者対策総合研究開発事業 (精神障害分野)「精神疾患に起因した自殺の予防法に関する研究」研究班〕. へるす出版, 東京, p.153-155, 2018

2) 衞藤暢明: 自殺予防には人材教育が不可欠!当院の自殺予防人材養成プログラムの要点を具体的に紹介します. 精神看護, 14 (6); 11-25, 2011

3) Isometsä, E. T., Lönnqvist, J. K.: Suicide attempts preceding completed suicide. Br J Psychiatry, 173; 531-535, 1998
Medline

4) Kawanishi, C., Aruga, T., Ishizuka, N., et al.: Assertive case management versus enhanced usual care for people with mental health problems who had attempted suicide and were admitted to hospital emergency departments in Japan (ACTION-J): a multicentre, randomised controlled trial. Lancet Psychiatry, 1 (3); 193-201, 2014
Medline

5) Owens, D., Horrocks, J., House, A.: Fatal and non-fatal repetition of self-harm. Systematic review. Br J Psychiatry, 181; 193-199, 2002
Medline

6) Patterson, W. M., Dohn, H. H., Bird, J., et al.: Evaluation of suicidal patients: the SAD PERSONS scale. Psychosomatics, 24 (4); 343-345, 348-349, 1983
Medline

Advertisement

ページの先頭へ

Copyright © The Japanese Society of Psychiatry and Neurology