Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第120巻第2号

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特集 カタトニア(緊張病)の治療を問い直す
カタトニー(緊張病)の診断学的格づけ―たたかえ! チーム・クレペリン―
大前 晋
国家公務員共済組合連合会虎の門病院精神科
精神神経学雑誌 120: 114-122, 2018

 Kahlbaum, K, L.はカタトニーを「自然種としての疾患」,すなわち単一の脳疾患として提示した.この診断学的格づけは,進行麻痺と同じである.進行麻痺の経過では,精神病理学的症候群がメランコリー,モノマニー,マニー,デマンスなど多様であっても,神経学的症候群は運動性の麻痺症状として一様である.これが進行麻痺を単一の脳疾患とする根拠である.カタトニーでも,神経学的症候群は運動性の緊張症状として一様である.運動性の緊張症状は,てんかん形態の発作またはその他のけいれん性状態にはじまり,つぎにけいれん形式の諸状態があらわれ,極限ではカタレプシーにおける蠟屈症にいたる.したがって進行麻痺と同じように,カタトニーも単一の脳疾患としてよいのではないだろうか.
 Kraepelin, E.とその門下生たち,名づけてチーム・クレペリンは実証研究をもって,カタトニーの精神病理学と診断学的格づけを見直していった.Kraepelinによれば,カタレプシーはカタトニーに限らず他の疾患でも観察できる.そのため,カタレプシーなど運動性の緊張症状は,カタトニーを単一の脳疾患とする根拠にならない.そうではなく,カタトニーの経過予後を厳密に分類して,それぞれを個別の脳疾患として格づけし直してはどうか.つぎに,カタレプシーは運動の障害でなく,意志の障害として理解するべきだ.そうすれば,カタトニーの予後不良群を,ヘベフレニーと同じ疾患のヴァリアントとして包括できる.これらにしたがってチーム・クレペリンは,カタトニーの用語を予後不良群に限定して早発性痴呆の一病型(緊張型)に格づけした.カタトニーの用語を奪われた予後良好群の格づけは,躁うつ病の混合形態のマニー性昏迷である.その後,躁うつ病の混合形態の主たる病像は,マニー性昏迷から激越性抑うつにとってかわられた.そのため,KahlbaumのカタトニーとKraepelinの躁うつ病との関係性はみえにくくなった.
 しかしKraepelin自身が晩年に,自らの診断学を見直すことになる.Kraepelinから教科書の改訂を引き継いだLange, J.は,カタトニーを早発性痴呆の一病型に限定する見解をあきらめた.チーム・クレペリンの最終見解としてLangeは,カタトニーの診断学的格づけを,さまざまな疾患にあらわれる特異性のない症候群とした.

索引用語:カタトニー, カールバウム, クレペリン, 躁うつ混合状態, 疾患分類>
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