Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第120巻第1号

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原著
執着性格論(下田光造)の構成過程に関する考察―森田正馬による精神病質論と比較して―
玉田 有
国家公務員共済組合連合会虎の門病院分院
精神神経学雑誌 120: 11-24, 2018
受理日:2017年10月24日

 下田光造が1929年に提唱した執着性格は,躁うつ病の病前性格として知られているが,下田がどのように執着性格論を構成したのかについては明らかになっていない.本論文の目的は,下田の文献を網羅的に調査し,森田正馬による精神病質論と比較することで,執着性格論の構成過程を明らかにすることである.下田は当初,精神病質を基礎として躁うつ病やパラノイアが発症すると考え,Kraepelinの提示した精神病質類型を整理するとともに,特定の類型と躁うつ病,パラノイアを関連させた.また一方で,下田は躁うつ病患者が「愚直・小心・一事に熱中」という性質をもつことを把握していた.下田は1928年の時点で,躁うつ病の病前特徴として「愚直・小心・一事に熱中」「紛争的」「興奮性」の3つ,またパラノイアの病前特徴として「紛争的」「熱狂的・狂信的」の2つを捉えていた.1929年に下田は,精神病質の分類法を表面的な特徴による分類から,同じ性質をもつ精神病質を1つのカテゴリーにまとめ,同様の性質をもつ精神病と関連づけるという方法に変更した.そして,①「愚直・小心・一事に熱中」,②「紛争的」,③「熱狂的・狂信的」の3要素を感情執著性という共通項のもとに執着性格にまとめ,躁うつ病とパラノイアに関連させた.下田が採用した,精神病質の体系的分類法と,感情執著性という共通項は,森田独自の精神病質分類と共通する.この構成過程をふまえれば,執着性格は3つの構成要素をもつ複合的な性格類型といえる.その後,1930年代から下田は軽症うつ病と執着性格の関連を重視し,「愚直・小心・一事に熱中」という要素に重点をおいた.そのため執着性格は,のちにTellenbachが提唱するメランコリー型性格に近似するようになり,パラノイアとの関連を排除され,うつ病と神経衰弱を鑑別するための鍵概念として位置づけられるようになった.

索引用語:執着性格, 下田光造, 森田正馬, 病前性格, 躁うつ病>
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