Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第119巻第9号

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特集 精神科医は増え続ける児童虐待にどうかかわるか
児童相談所の精神科医の立場からみた児童虐待
田﨑 みどり1)2), 森田 展彰3), 田口 めぐみ4), 渡辺 由佳5), 陶山 寧子6)
1)横浜市中央児童相談所
2)筑波大学大学院人間総合科学研究科ヒューマン・ケア科学専攻社会精神保健学分野
3)筑波大学医学医療系
4)横浜市南部児童相談所
5)横浜市北部児童相談所
6)横浜市西部児童相談所
精神神経学雑誌 119: 634-642, 2017

 厚生労働省が児童虐待の対応件数の統計を取り始めてから25年間,その数は一度も減少することなく増え続け,25年前の約100倍となった.そのなかの多くの割合を占めているのが,精神疾患をもつ保護者からの虐待である.厚生労働省発表の毎年の死亡事例検証では,精神疾患をもつ保護者の病状や養育の状態が精神科医と児童相談所などの関係機関で共有されず,適切なアセスメントや対応がなされないまま,子どもが命を落とした事例が多数報告されている.わが国では2000年に児童虐待の防止等に関する法律が制定され,身体的虐待,性的虐待,ネグレクト,心理的虐待という4種類の虐待が初めて法律で明文化された.また,虐待の疑いを発見した場合の通告義務と,医療者等による虐待の早期発見の努力義務も定められた.さらに通告は守秘義務に優先すること,行政は通告した通告元を明かしてはならないことも定められた.児童相談所は,児童福祉法に基づいて設置された機関であり,18歳未満のあらゆる相談に応ずるが,現在は児童虐待対応が主な役割となっている.児童相談所は虐待の通告を受け,必要な調査をし,その後の方針を決めるが,医療機関等関係機関からの情報がその判断に重要な役割を果たす.被虐待児の多くは自宅にいながら養育者のもとで生活しているからである.2016年児童虐待の防止等に関する法律の改正で医療機関等から虐待が疑われる保護者等に関する情報を提供してよいことが明文化された.精神疾患を抱える保護者による虐待の発生を予防したり,早期に発見して適切な支援を行うには,精神科医との連携が必須である.精神科医に児童虐待の発生要因,通告義務などについて知っていただき,虐待が疑われる保護者の見立て,支援,情報共有などにかかわっていただくことが最重要課題である.児童相談所職員などの保護者の支援者へ精神科医から保護者の精神症状の増悪に気づくポイントや必要な支援内容など助言をお願いしたい.

索引用語:児童虐待, 発見・通告の義務, 精神科医との連携, 児童福祉法・児童虐待防止法改正, 児童相談所>
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