Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第119巻第8号

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特集 非定型精神病臨床・研究の最前線
満田の非定型精神病に対する現代的解釈―非定型精神病と自己免疫性脳炎の類似性について―
岡山 達志1)2), 菊山 裕貴1)2), 金沢 徹文1)2), 橋口 康之3), 桂 良輔1), 木下 真也1), 米田 博1)2)
1)大阪医科大学神経精神医学教室
2)大阪精神医学研究所新阿武山病院
3)大阪医科大学生物学教室
精神神経学雑誌 119: 565-572, 2017

 かつて満田は急性一過性に情動障害や活発な病的体験を伴った錯乱や昏迷状態,意識変容状態など多彩な症状を示し,時には死に至ることもある,典型的な統合失調症とは異なる症状や経過をたどる非定型群を見出した.それら患者群を典型的な統合失調症の症状を示す定型群と比較し,定型群の家族内負因としては統合失調症がみられるのに対し,非定型群では非定型のほか,躁うつ病とてんかんがみられるが,定型はほとんどみられないことから,定型群と非定型群は遺伝学的に異種の疾患であることを示し,非定型群を統合失調症から分離した.そして,新たな疾患概念として非定型精神病を提唱した.満田の見出した非定型精神病は,現代の知見に照らし合わせると,自己免疫疾患であるSLEの中枢神経症状であるCNSループスあるいは抗NMDA受容体抗体脳炎に類似する.満田の非定型精神病とは何らかの自己免疫性脳炎だったのではなかろうか.非定型精神病にてんかんの要素が含まれる理由について長らく解明されてこなかったが,脳炎であればてんかん発作や脳波異常が出現することもあり,脳の広範囲に炎症が及ぶ場合には多彩な精神症状や意識障害が起こりうるし,時に死に至ることもある.自己免疫疾患は6番染色体MHC領域上のHLA遺伝子型が関与するが,これまでにわれわれは非定型精神病のGWASを行い,MHC領域への関与を見出している.SLEは女性に多く,白人に少ない疾患であるが,これはHLA遺伝子型は人種差が大きくSLEがかかわるHLA型が白人に少ないためである.満田の非定型精神病はDSM-5では主に短期精神病性障害や急性一過性精神病性障害と診断され,これらは女性や発展途上国に多いことが知られている.これは発展途上国には白人が少ないためと考えれば説明がつき,短期精神病性障害や急性一過性精神病性障害もやはり自己免疫性脳炎の一種である可能性が考えられる.

索引用語:非定型精神病, 短期精神病性障害, 統合失調症様障害, 自己免疫性脳炎, MHC>
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