Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第119巻第7号

※会員以外の方で全文の閲覧をご希望される場合は、「電子書籍」にてご購入いただけます。
特集 精神障害と自動車運転―運転事故新法および添付文書の現状を踏まえた今後の方向性―
自動車運転と精神神経疾患・薬剤について―司法の視点から―
田邉 昇
中村・平井・田邉法律事務所
精神神経学雑誌 119: 509-515, 2017

 精神障害者が通院や社会生活のために自動車運転を必要とすることは多い.しかし,精神障害者や,向精神薬の服用下,あるいは疾病に起因すると思われる自動車事故が報道されることが多く,精神障害者等の運転について抑圧的な機運が生まれている.例えば,糖尿病により低血糖のエピソードを有する患者は,自動車運転をしない法的義務があり,運転して自動車事故が起こると,業務上過失致死傷罪(刑法211条)の対象となるという裁判例(札幌地裁平成26年2月26日判決)がある.一方,自動車運転のリスクの高いてんかんについては,薬剤によるコントロールで事故リスクが大幅に軽減できることは言うまでもない.しかしながら,精神科の薬剤の添付文書は,ほぼすべて自動車運転の禁止を指導するよう医師に義務づけている.最高裁平成8年1月23日判決から,添付文書の法的規範としての効力は非常に強い.もし,黙示的にも運転を許容すると,運転をした患者に対しては,不法行為(民法709条)あるいは債務不履行(民法415条)責任が生ずる可能性があり(神戸地裁平成14年6月21日判決),患者が事故を起こして,第三者が被害者となった場合,その被害者への不法行為責任(民法709条)を医師は負う可能性があるのみならず,近時創設された自動車運転危険致死傷罪の幇助犯として飲酒運転者に酒類を提供した場合と同じように刑事罰の対象にもなりかねない.これは,従来交通事故において適応された業務上過失致死傷罪(刑法211条)だけでなく,自動車危険運転致死傷罪は故意犯を基本犯とする結果的加重犯であるからである.このような法的環境の中で,添付文書の位置づけは大きく,「横並び」的な運転規制ではなく,薬剤の脳内移行や,具体的な運転能力への影響など,科学的なエビデンスに基づく運転規制を行うべく,学会や医療界,製薬業界は粘り強く圧力を厚労省などに加えていく必要があると考える.

索引用語:自動車運転, ノーマライゼーション, 法律, 交通事故, 医療事故>
Advertisement

ページの先頭へ

Copyright © The Japanese Society of Psychiatry and Neurology