Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第119巻第5号

※会員以外の方で全文の閲覧をご希望される場合は、「電子書籍」にてご購入いただけます。
特集 ブレインマシンインタフェース技術による精神科的診断と治療の創造
安静時機能的結合を通じた自閉スペクトラム症の神経基盤理解と臨床応用の可能性
八幡 憲明1)2)3)
1)東京大学大学院医学系研究科ユースメンタルヘルス講座
2)国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所
3)国際電気通信基礎技術研究所(ATR)脳情報通信総合研究所行動変容研究室
精神神経学雑誌 119: 339-346, 2017

 脳神経画像による精神疾患の神経基盤探索が長く行われてきたなか,近年は安静状態における脳の自発的な活動状態から,脳領域間の時間的な同期関係(安静時機能的結合)を精査し,疾患理解を定量的に深めようという試みが脚光を浴びている.例えば,機械学習による特徴抽出技術を用いることで疾患特異的な機能的結合パターンをデータ駆動で見出し,これをもとに個人の診断属性(特定の疾患か否か)を80~90%近くの精度で予測する手法が提唱されている.しかし,任意の独立データにおける信頼性についてはこれまで十分に検証されておらず,臨床場面における活用には至っていない.本稿では,背景にある過学習や撹乱変数など方法論上の問題を検討するとともに,その克服をめざした著者らによる最近の試みを紹介する.国内の成人自閉スペクトラム症(ASD)当事者ならびに定型発達者の大規模安静時脳機能画像データに機械学習理論を適用し,ASDを特徴づける機能的結合を抽出,これを用いて個人の属性(ASDもしくは定型発達)を高精度に自動判別する手法が開発された.全脳にわたる約10,000個の機能的結合のうち,機械学習によって抽出されたわずか0.2%(16個)を用いることで,国内データならびに米国の独立データに含まれる個人の属性判別が高精度に行われた.当該の機能的結合は,当事者のコミュニケーションの障害度も統計的有意に予測できたことから,脳活動に特徴的に起こる時空間のゆらぎに反映されるASDの実体と考えられた.さらに,同手法から個人毎に得られるASD傾向の指標を用いて複数精神疾患の関係性を定量的に検討したところ,うつ病や注意欠如多動症に比べ,特に統合失調症においてASDとの類似性が明らかになり,過去の遺伝子研究と矛盾しないことが示された.ASDに対する判別手法の開発過程を他の精神疾患にも拡張することで,今後,複数精神疾患の関係性を生物学的見地から理解できる可能性が示唆された.

索引用語:自閉スペクトラム症, 安静時脳機能画像, 機能的結合, 機械学習, バイオマーカー>
Advertisement

ページの先頭へ

Copyright © The Japanese Society of Psychiatry and Neurology