Advertisement第114回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第119巻第4号

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精神医学のフロンティア
高齢者における継続的な運動習慣と抑うつの関連
吉田 祐子1), 岩佐 一1)2), 熊谷 修3), 鈴木 隆雄4)5), 粟田 主一1), 吉田 英世1)
1)東京都健康長寿医療センター研究所自立促進と介護予防研究チーム
2)福島県立医科大学医学部公衆衛生学講座
3)人間総合科学大学人間科学部健康栄養学科
4)桜美林大学老年学研究科
5)国立長寿医療研究センター研究所
精神神経学雑誌 119: 221-226, 2017

 【目的】高齢期における抑うつの予防は公衆衛生学における重要な検討課題である.本研究では,地域高齢者を対象とした3年間の前向きコホート研究により,運動習慣の変化が抑うつ傾向の発生に及ぼす影響について検討した.
 【方法】日本の農村部地域に在住する高齢者680人(男性291人,女性389人)を対象として3年間の前向きコホート研究を行った.15項目版Geriatric Depression Scale日本版を使用して抑うつ症状を測定し,6点をカットオフ値とし,6点以上を「抑うつ傾向」ありとみなした.2時点において定期的な運動習慣の実施の有無を測定し,その変化により対象者を4群に分割した(運動非実施群,運動中止群,運動開始群,運動継続群).
 【結果】追跡期間における抑うつ傾向の発生は16.9%(男性16.8%,女性17.0%)であった.多重ロジスティック回帰分析の結果,運動未実施群と比較して,運動習慣の継続群は抑うつ傾向の発生リスクが低いことが示された(オッズ比:0.50,95%信頼区間:0.30~0.83).
 【考察】本知見は,継続的な運動習慣が高齢者の抑うつを予防する可能性を示唆する.よって,運動習慣を高齢者の日常生活へと組み込むための啓発が,今後,抑うつの予防のために重要であると考えられる.

索引用語:運動習慣, 抑うつ, 地域高齢者, 縦断研究(前向きコホート研究)>

はじめに
 高齢期における抑うつの予防は公衆衛生学における重要な検討課題である.これまでに,高齢期の抑うつは生活機能の低下8),身体機能の低下15),心臓病の発症4),認知機能障害17)25),生命予後18)の危険因子であることが報告されている.よって,望ましい健康習慣の定着により高齢期の抑うつの予防を推進していくことが重要である.
 高齢者の健康習慣は抑うつと関連する.これまでに,食習慣9),緑茶の摂取14),喫煙23)24)に加え,運動習慣もまた抑うつの予防に効果的であることが報告されている.先行研究によると,高強度の運動を行うことにより抑うつの発生が抑制されたこと1),低強度の運動やウォーキングでも抑うつや不安の発生を低減させたこと6)22)が報告されている.
 上述の通り,運動習慣には高齢期における抑うつを抑制する効果があることが示されている.しかしながら,運動習慣を含む健康習慣は,疾病,対人関係の変化(死別体験など),転居などによる環境変化によって変化しうる.これまでに,高齢者における運動習慣の変容と抑うつの発生を調べた研究はほとんどない.上記について調べることにより高齢期における抑うつを予防するための効果的な施策の提案に寄与できるかもしれない.
 本研究では,地域高齢者を対象とした3年間の前向きコホート研究により,運動習慣の変化が抑うつ傾向の発生に及ぼす影響について検討した.

I.研究の方法および結果
1.研究対象者
 日本の東北地方の農村部に在住する高齢者を対象として,2002年,2003年,2006年に健診を実施し,データ測定を行った.2002年に当該地域に在住する65歳以上の高齢者は1,418人であった.このうち,1,327人(男性549人,女性778人)から同意が得られ,2002年にベースライン調査を実施した(93.6%,図1).その後,2003年,2006年に追跡調査を実施した.追跡期間中に脱落した303人,運動習慣とGeriatric Depression Scale(GDS)のデータに欠損があった74人,2003年調査において抑うつ傾向を示した270人を除外し,最終的に680人(男性291人,女性389人)を分析対象者とした(図1).本研究は東京都健康長寿医療センター倫理委員会の承認を得て実施した.

2.測度
1)運動習慣
 2002年と2003年に運動習慣を測定した.面接聞き取り調査にて,定期的な運動習慣の実施の有無と実施頻度(1週間に,5~6日,2~4日,1日以下)の報告を求めた.本研究において,「運動習慣あり」は何らかの運動(柔軟体操,散歩,ゲートボール,ジョギング,テニス,ゴルフ,ハイキング,ダンス,水泳,ウォーキング,武道など)を実施している場合とした.加えて,2時点における運動習慣の変化により対象者を以下の4群に分割した.
 運動非実施群:2002年,2003年ともに運動習慣なし
 運動中止群:2002年運動習慣あり,2003年運動習慣なし
 運動開始群:2002年運動習慣なし,2003年運動習慣あり
 運動継続群:2002年,2003年ともに運動習慣あり
2)抑うつ傾向
 15項目版GDS日本版を使用して抑うつ症状を測定した13).値範囲は0~15点であり,得点が高いほど抑うつ症状が重篤であることを示す.6点をカットオフ値とし,6点以上を「抑うつ傾向」ありとみなした19)

3.統計解析
 抑うつ傾向の発生の有無(表1),運動習慣の状況(表2)により,2003年時点における基本属性の差を,それぞれ検討した(χ2検定,t検定,分散分析).運動習慣の変化と抑うつ傾向の発生の関連について明らかにするために多重ロジスティック回帰分析を行った.性別,年齢,教育歴,喫煙,飲酒,定期的な外来受診,高次生活機能(老研式活動能力指標8)10)で測定した)を調整変数とした.2003年の時点で抑うつ傾向であった者(GDSで6点以上)は分析から除外した(図1).すべての解析をSPSS version 20.0 for Windows(SPSS, Inc., Chicago, IL, USA)を用いて行った.有意水準を5%未満とした.

4.結果
 分析対象者の平均年齢は72.7±5.4歳,女性の割合が57.2%であった.3年間における抑うつ傾向の発生は16.9%(男性16.8%,女性17.0%)であった.運動習慣の変化の割合は,運動非実施群:27.9%,運動中止群:14.3%,運動開始群:10.4%,運動継続群:47.4%であった.
 2003年時点における基本属性を抑うつ傾向の発生の有無で比較したところ(表1),高次生活機能と運動習慣が関連を示し,抑うつ傾向発生者は,高次生活機能が低いこと,運動習慣がない者が多いことが示された.
 2003年時点の基本属性を運動習慣の実施状況で比較したところ(表2),運動非実施群は運動中止群や運動継続群よりも年齢が低かった(P<0.001).運動中止群は他の群よりも高次生活機能が低かった(P=0.037).運動継続群は運動中止群よりも抑うつ傾向の発生の割合が少なかった(P=0.004).
 多重ロジスティック回帰分析を行った結果,運動非実施群と比較して,運動継続群は抑うつ傾向の発生リスクが低いことが示された(オッズ比:0.50,95%信頼区間:0.30~0.83).運動中止群と運動開始群では抑うつ傾向の発生に対して有意な寄与は認められなかった(表3).

図1画像拡大
表1画像拡大表2画像拡大表3画像拡大

II.考察
 これまでに,縦断研究により,運動習慣の頻度・強度と抑うつ症状との関連が報告されている.Honolulu-Asia Aging Studyでは,ベースライン調査時点で慢性疾患のない日系アメリカ人1,417人を対象として,自己報告(質問紙)により歩行距離,CES-Dにより抑うつ症状が測定され,8年間の追跡の結果,運動習慣は抑うつの発生と有意に関連していた21).1,947人の地域住民を対象とした縦断研究では,質問紙により運動習慣スコアと抑うつ症状が測定され,5年間の追跡調査の結果,運動習慣が活発なほど抑うつの発生に抑制的に作用した22).Australian Longitudinal Study on Women's Healthでは,73~83歳の女性高齢者を対象として,余暇時間における運動習慣と精神疾患の症状との間に量-反応関係があることを見出した6).欧州11国に住む17,593人を対象としたSHAE Studyでは,2年間の追跡調査の結果,活発な運動習慣をもつ者ほど抑うつ症状が少ないことを見出した11).上記の研究は,本知見と一致し,運動習慣は抑うつを抑制する効果をもつことが示唆される.
 本研究は,新たに,運動習慣の変化と抑うつ傾向の発生の関連について検討した.その結果,運動習慣の継続は抑うつ傾向の発生を抑制することが明らかとなった.本研究では,運動習慣の種目を特定せず,体操やウォーキングなど比較的軽度の運動も運動習慣に含み測定した.本知見は,このような活動であっても継続的に行われるならば,抑うつを抑制する効果があることを示唆する.このことから,地域高齢者における抑うつの予防に対しては,運動強度よりも,運動習慣の継続が重要であることを示唆する.しかしながら,高齢期において,身体・精神機能の衰えがある場合には運動習慣を新たに始めることは困難である.それゆえ,精神的健康の維持のためには,中年期といったより若い時期から運動習慣の開始を働きかけるべきである.
 運動習慣と抑うつの関連の機序について以下のように推察する.第1に,社会的要因が挙げられる.ソーシャルネットワーク5)や社会活動7)などの社会的要因は抑うつを改善するかもしれない.多くの社会活動20)27)は身体活動を含んでいる.定期的な運動習慣を有する者は,こうした社会的要因の効果により,抑うつを経験しにくいかもしれない.第2に,生物学的要因が挙げられる.先行研究では,C-reactive protein,interleukin-6,TNF-αといった炎症性マーカーの値が抑うつ者では高いことが報告されている16).一方でこれらのマーカーは定期的な運動習慣を有する者で低い2)こと,また,運動実施の介入を行うことで,これらの数値を下げることができること3)12)が報告されている.
 知見の限界について記す.第1に,本研究では,抗うつ薬の服用についてベースライン調査で測定しなかった.第2に,運動習慣の強度や種類について測定しなかったため,それらと抑うつ傾向の発生の関連については明らかにすることができなかった.今後はこれらについて検討する必要がある.

おわりに
 本研究では,地域高齢者を対象とした3年間の追跡調査の結果,運動習慣の継続と抑うつ傾向の発生が他の交絡因子とは独立して関連を示した.このことは,継続的な運動習慣が抑うつを予防する可能性を示唆する.よって,運動習慣を高齢者の日常生活へと組み込むための啓発が,今後,抑うつの予防のために重要であると考えられる.吉田ら27)は,地域の会合や老人クラブなどのグループ活動が,運動を開始するきっかけであると同時に運動を継続させる要因であることを見出した.運動習慣を高齢者の日常生活に定着させるためには,これらのグループ活動を活用し,高齢者における運動の効果や必要性,また適切な運動方法についてグループ活動の内容に盛り込むことが有効な一手段であると考えられる.

 本論文は,PCN誌に掲載された最新の研究論文26)を編集委員会の依頼により,著者の1人が日本語で書き改め,その意義と展望などにつき加筆したものである.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

 謝 辞 本研究は,東京都健康長寿医療センター,International Life Sciences Institute of Japan,日本学術振興会科学研究費補助金(NO. 24590835)からの支援を受け実施した.

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