Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第119巻第11号

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特集 精神科臨床が根差す揺るぎない大地,「臨床精神病理学」のススメ
「診たて(成因論的仮説)」には,どんな臨床精神病理学が必要か?
広沢 正孝
順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科
精神神経学雑誌 119: 846-854, 2017

 精神疾患の成因論的分類は,歴史的に外因・内因・心因に基づいて行われてきた.精神病理学が,成因論的理解や診断の診たてに貢献してきたのは,このうち主に心因と内因である.しかし操作的診断では,内因・心因性精神疾患に関してもエビデンスが重視され,臨床診断体系の再構築が進んだ.それに伴って,精神医学における精神病理学的な診たての重要性が薄れつつある.しかし精神医学においては,精神疾患とともに生きる一人の人間を診たてることが重要であり,精神病理学はその視点に立って成因から病態,症状に至るまでを了解するための知見を蓄積してきた.そこから導かれる疾患の各理念型は臨床医で共有され,各自の臨床に合わせた「臨床モデル」の構築を育んできた.このモデルは,患者との信頼関係の樹立にも威力を発揮する.ただ従来の精神病理学の方法論は,完成された特定の自己像およびその確立に向けた精神の統合機能の存在を前提にしたものであり,そこに人々の価値観が入り込む.したがって,「臨床モデル」の使用に際しては,適用をある程度限定する必要があろう.それが有用性をもつのは,自己の確立と維持に関連した病態であり,しかも人々のめざすべき自己像が比較的明確であるという条件下においてである.一方で,自己の統合機能そのものが生来的に発揮しにくい発達障害者や,それが慢性的に低下している精神疾患患者では,従来の精神病理学の手法では理念型が作られにくい.さらには,現代のような自己像が曖昧な文化のもとでは,従来の「臨床モデル」もまた見直しを迫られる.それを受けて本稿では,発達の原点にまで遡った新たな精神病理学的診たて(発達精神病理学的見地)の試みについてふれた.

索引用語:精神病理学, DSM-5, 診たて, 発達>
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