Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第119巻第11号

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特集 精神科臨床が根差す揺るぎない大地,「臨床精神病理学」のススメ
「了解可能/不能感」と「生物学的正常/異常」の対応関係についての試論
豊嶋 良一
埼玉医科大学精神医学
精神神経学雑誌 119: 827-836, 2017

 精神科医は患者の言動を時に「了解不能」(Jaspers, K.)と感じる.われわれは,精神科医が感じる「了解不能性」と患者の「生物学的異常」との関係性について,Schneider, K.が用いた概念,「意味連続性」を用いて考察した.Schneider自身はこの概念を定義していない.われわれは次のように「意味」を定義した.ある事象があるシステムに作用して,システム内部における時空間パタンに差異を生じるとき,その「差異」を,そのシステムにとってのその事象の「意味」とする.意味連続性とは,「ここで生じる一連の差異の連鎖がシステムの目的にかなっていること」である.進化の原理の帰結として,ニューロン群回路網は,「環境の状況を反映し,適切に行動することで生命の存続に寄与する」よう進化した.多数のニューロン群協調発火はこの回路網を介して相互作用し,その最上位層で統合され,一体化する.一体化した神経活動は「意識相関神経現象(NCC)」と呼ばれている.さらにヒトのNCCは,他者のNCC活動の意味を把握できるように進化した.Edelman, G. M.によれば,NCCは「主観的体験(意識)」と呼ばれる「クオリア」を伴立する.「私のNCC」が他者のNCC活動の意味を把握したとき,その「意味」の「主観的クオリア」が体験の中に生じる.この主観的クオリアをDilthey, W.,Jaspersは「Verstehen(了解)」と呼んだのであった.NCCを含む本来的な生命現象の中にも多くの変異・偏倚があるが,その現象が正常とされる限りは,「意味連続性」は必ずついてまわる.その生命現象の「意味連続性」が破綻したとき,われわれは,一般に,これが本来の合目的性を失っているとみなし,これを「異常」とみなす.精神科医自身のNCCの機能が「理想的で完璧」なものであるならば,彼の抱く「了解可能/了解不能感」は,患者のNCCの「意味連続性の保持/切断」,すなわち「生物学的正常/異常」に対応するといえる.

索引用語:主観的体験, 了解不能, 意味連続性, 意識相関神経現象, 生物学的異常>
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