Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第119巻第10号

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特集 自閉スペクトラム症の臨床実践―過剰診断と診断見逃しのジレンマのなかで―
自閉スペクトラム症の診断をめぐって―主として思春期以降の例について―
青木 省三, 村上 伸治
川崎医科大学精神科学教室
精神神経学雑誌 119: 743-750, 2017

 診断概念というものは,①知らないことによる診断見逃し→②診断概念の獲得→③過剰診断→④適正診断,という経過で,個々の医師に受け入れられていく.成人の自閉スペクトラム症に関していえば,現在は,①見逃しの時期にいる臨床家と,③過剰診断の時期にいる臨床家が混在している状態であるといえる.
 本症例では,初診からの12年の間に,医師自身の診断が不確定な時期から,患者に診断を伝えた時期を経て,最終的には「診断を返上する」という経過をたどった.言葉を変えれば,「見逃し」から,「診断」を経て,「診断返上」に至ったものといえる.
 ここでは,一症例を通して,診断の見逃しと過剰診断という相反する行為についてそれぞれの問題点を検討した.診断見逃しでは,1)本人の生きづらさや苦労を,周囲の人がうまくキャッチできない,2)性格・人柄として,ネガティブな評価を受ける,3)自閉スペクトラム症状に,不適切な対応がなされる,4)一過性で終わる精神症状を,慢性化,遷延化,固定化させてしまう可能性があるなどを指摘した.一方,過剰診断では,1)障害といえないものまで,障害と診断してしまう,2)障害ありと診断したが,ストレスが少なくなると障害が見えにくくなり,結果として誤診だったということになる,3)診断が受け入れられない,4)診断されたが支援を受けられないなどを指摘した.
 最後に,発達障害と定型発達の境界は明瞭ではなく,グレーゾーン群と捉えて治療や支援を行っていくことが好ましいという著者らの考えを提案した.

索引用語:自閉スペクトム症, 診断, 思春期, 成人>
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