Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第119巻第1号

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症例報告
先天奇形および神経発達障害を有しつつも,成人後に幻聴が出現するまで未診断で経過した22q11.2欠失症候群の1例
田宗 秀隆1)2), 西村 文親1), 越山 太輔1), 山田 勝久1), 近藤 伸介1), 金生 由紀子3), 笠井 清登1)
1)東京大学医学部附属病院精神神経科
2)東京都立多摩総合医療センター精神神経科
3)東京大学医学部附属病院こころの発達診療部
精神神経学雑誌 119: 9-16, 2017
受理日:2016年10月19日

 22q11.2欠失症候群はDiGeorge症候群(DGS)・口蓋心臓顔面症候群(VCFS)・円錐動脈幹異常顔貌(CTAF)症候群を含み,心奇形・顔面異常・胸腺低形成・口蓋裂・低カルシウム血症などを併存する遺伝的症候群である.近年,幻聴などの精神症状を高率に合併することが報告され,統合失調症研究においても注目されている.小児期での診断が理想的だが,現実には未診断のまま成人し,新たな症状の出現で初めて診断される例が報告されており,精神科医も未診断の成人例に出会う可能性が十分にある.症例は25歳,女性.父方・母方ともに統合失調症の家族歴がある.出生時に口蓋裂・心室中隔欠損症を指摘され,始歩4歳,初語5歳であった.知能指数40程度と推定され,7歳時にA病院精神神経科を初診し,自閉傾向を有する精神遅滞(DSM-IV)と診断された.小中学校を特殊学級で過ごし,養護学校高等部を卒業後,作業所に通ったが,22歳時に対話性幻聴が出現してから生活に破綻をきたし,A病院を再紹介された.甲高い声と小顎・鼻根部扁平などの顔面奇形を認め,構文は3語文までであった.心室中隔欠損症・側彎症・血小板減少症も認めた.FISH法で22q11.2欠失症候群の診断が確定し,家族会を紹介することができた.遺伝子検査には十分な配慮が必要だが,本症候群を診断することで適切な情報や支援を得やすくなり,同じ難病を家族にもつ人との交流の機会も得ることができる.低カルシウム血症によるけいれんなど,起こりうる合併症を想定できるため,緊急時にも迅速に対応可能となる.本症例のような縦断的経過を詳細に記載した症例報告を集積していくことで,one rare variantからの病態把握につながる可能性も考えられる.2015年から本症候群が国の難病に指定されたことで今後一層診断が重要となろう.神経発達障害をもつ方が精神病症状を示して受診した際には,先天奇形の有無に注意し,22q11.2欠失症候群を鑑別診断に挙げることが望ましい.

索引用語:22q11.2欠失症候群, 統合失調症, 自閉症スペクトラム障害, 知的能力障害, DSM-5>
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