Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第118巻第3号

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特集 抗うつ薬の適切な使用法をもう一度考えてみる
抗うつ薬による心電図QT延長への対応
鈴木 雄太郎
新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野
精神神経学雑誌 118: 147-151, 2016

 薬剤性QT延長症候群の診断は,心拍数によって補正したQT間隔(QTc)が500 msec以上あるいは薬剤開始や置換,増量後に60 msec以上の延長が認められた場合に下され,この状態ではtorsade de pointes(TdP)と呼ばれる重症な心室性不整脈発症のリスクが上昇していると考えられている.QT延長症候群は大きく先天性と二次性に分類され,二次性である薬物誘発性の中で,抗不整脈薬を除外した場合,抗精神病薬はTdPの原因として最も頻度が高いといわれている.
 一方,2011年に発売されたescitalopramがQT延長のある患者に投与禁忌とされ国内で注目を集めた.日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)ガイドライン(E14)は,新規薬剤について詳細なQT延長作用評価試験(Thorough QT/QTc試験)を求めており,日本では2010年11月1日以降に申請された医薬品について適応されている.この試験の結果,escitalopramは海外承認用量の30 mg投与時にベースラインから最大11.8 msecの延長が認められたためQT延長のある患者に禁忌となった.しかし,日本ではescitalopramの承認最大投与量は1日20 mgであること,当施設での研究では抗精神病薬の中にはescitalopramよりも大きいQT延長作用をもつ可能性のある薬剤が存在するがこれまでTdPを引き起こしたという報告がほとんどないことなどから,escitalopramのQT延長作用に注意は必要であるが,投与前に心電図検査を行ってQT間隔を確認するのであれば実臨床上大きな問題にはならないと考えられる.
 2010年以前に発売され現在使用されている多くの抗うつ薬や抗精神病薬についてもQT延長作用評価試験が行われることが望まれるが,実際には難しいと考えられる.また,QT間隔を延長させる因子には,薬剤以外にも女性,低K血症,低Mg血症,徐脈性不整脈,各種心疾患,中枢神経疾患,薬物相互作用,遺伝子変異などがあり,薬剤性QT延長症候群はこうした様々な因子が相加的・相乗的に影響し合って出現するため,QT延長の事前予測は困難である.したがって,臨床では慎重な心電図モニタリングが必要である.

索引用語:抗うつ薬, 薬剤性QT延長症候群, 心電図, 副作用>
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