Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第117巻第8号

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特集 精神科医療におけるスピリチュアリティとレジリエンス
「人間」の回帰―スピリチュアリティとレジリエンスについての一考察―
熊倉 伸宏
さちクリニック
精神神経学雑誌 117: 630-635, 2015

 この10年間,「スピリチュアリティ」と「レジリエンス」という言葉が精神医学のトピックとなった.本論文の目的は,その背景を調べ,そのトピックの現在的意義を考えることにある.ヤスパースは精神医学の基盤には「人間知」があると考えた.この意味では,本誌上に人間知のテーマが回帰した時期が,少なくとも3回あった.第二次世界大戦中に人間は核兵器という未曾有の破壊性を示した.その中でファシズムという限界状況を生きたヤスパースは,戦後になって,フロイトの精神分析の批判論文を発表した.日本では,これが土居健郎と石川清の論争を呼び大きな関心を呼んだ.そこに精神病理学と精神療法が開花した.人間が回帰した第二の時期は,1970年代,若者による社会改革の時であった.当時,「強制」治療やインフォームド・コンセントについての論文が,多数,本誌上に登場し,患者の人権問題が日常的なテーマとなり病棟の開放化や地域医療の充実という精神科医療の諸改革が行われた.その後,精神科専門医制度が成立し,精神医学の「形」は整った.そして,「形」の中に何を入れるか問題となった.その時期に,「スピリチュアリティ」と「レジリエンス」とう言葉が叫ばれるようになった.私は,これを人間の回帰の第三の時期と捉えた.背景には,東日本の災害の前で専門性の無力が露呈した経緯がある.ここでは,人間の回帰という現象を,1946年のWHO憲章による健康定義との関連で論じた.人間知の主張が立ち返る時期の特徴としては,精神医学が,もう一度,理論的な先入観から解き放たれて,素朴な臨床観察と記述に復帰すべき時であると理解した.

索引用語:スピリチュアリティ, レジリエンス, 積極的健康, 臨床観察>
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