Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第117巻第8号

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特集 精神科医療におけるスピリチュアリティとレジリエンス
スピリチュアルケアの役割とレジリエンス
島薗 進
上智大学グリーフケア研究所所長
精神神経学雑誌 117: 613-620, 2015

 病む人自身の力を引き出すこと,これがスピリチュアルケアの主要な目標といってよいだろう.かつて宗教者は,自分自身の力を超えた神や仏や霊的なものの力を信じることを勧め,それによって病む者,苦しむ者を支援しようとした.ここでは立ち直る力はもっぱら向こう側からやってくることになる.例えば,かつての病院付きのキリスト教チャプレンは病む者,苦しむ者とともに神に祈ることを役割とした.そこに当事者のレジリエンスが期待されていたとしても,まずは向こう側の超越存在に委ねる姿勢をとることがめざされた.だが,現代のスピリチュアルケアにおいては,たとえ向こう側からの力こそが回復をもたらすと信じていても,まずは病む者,苦しむ者自身のレジリエンスを信頼するという姿勢をとることが優先される.向こう側の存在はとりあえず焦点化せずに,こちら側の人間に現れ出るものに注目しているのだ.レジリエンスとはそのようにして意識されるものであり,ケアする側にとってはレジリエンスの現れが,希望であり支えともなるものだ.とはいえ,なかなかレジリエンスが現れてこない場合も想定できる.死にゆく人のケアにおいても,悲嘆にくれる人のケアにおいても,むしろスピリチュアルペインに向き合うことが常態となるだろう.そして容易に克服することができない事態をそのままに受け入れることを学びとっていくプロセスが必要になる.ここで弱さこそが力の源泉になるという逆説的な事態が経験されることが多い.これは,スピリチュアルケアにおいて重要なプロセスの1つだが,レジリエンスのある局面を照らし出すものだろう.弱さから力を得るという経験について,現代のケアの現場から語られる例は少なくない.病む者こそが自由を経験させてくれるという経験に基づくものだ.それは,例えば東日本大震災の支援の現場において,在宅ホスピスのケアにおいて,「治そう」という強迫から自由になった精神科医療において経験されてきたものではないだろうか.

索引用語:スピリチュアルケア, チャプレン, スピリチュアルペイン, ACT, 東日本大震災>
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