Advertisement第118回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第117巻第7号

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総説
揺れ動くフランスの司法精神医療―最近の文献から―
中谷 陽二1), 蓮澤 優2)
1)クボタクリニック
2)福岡県立精神医療センター太宰府病院
精神神経学雑誌 117: 505-518, 2015
受理日:2014年9月25日

 フランスの司法精神医療をめぐる最近の動向を文献から明らかにした.一連の変化の中で3つの転換点が注目される.①1992年の新刑法典は責任無能力の要件として従来の「デマンス」の用語を廃止するとともに限定責任能力に相当する規定を置いた.②2008年の立法により再犯の危険性が認められる者を刑期終了後も隔離できる「保安監置」が新設された.③2011年の法改正により入院以外の選択肢を含む「同意によらない治療」が定められ,同時に医療処遇に関する裁判所の権限が定められた.これらの法改正と並行して司法精神医療の体制が整備された.「困難患者ユニット」が4施設から10施設に増設され,一般精神科施設では対応が困難な患者を多く受け入れる体制がとられた.刑務所などにおける精神障害者の増加への対策として一般医療の内部に被拘禁者の専門入院施設が創設された.これらの動向の背景として,セクター制のもとで開放化された医療における攻撃性をもつ患者への対処能力の低下,精神障害者による重大な他害事件や児童への性犯罪を契機とする公衆の安全意識の高まりが指摘されている.他方,患者による殺人事件で主治医の刑事責任が認定された裁判は関係者に衝撃を与えた.精神医学側からは危機感と次のような批判が表明されている.新しい責任能力規定は結果的に精神障害者の有責化を促している.保安監置における「危険性」の概念は不明確であり,その評価を精神科医に委ねることは犯罪と精神障害の同一視に基づく.同意によらない治療への裁判所の介入は精神医学の「司法化」につながる.被拘禁者の入院施設の設置は精神科医療に新たな隔離機能を負わせる.このようなフランスの現状から示唆されるのは,システムの上重ねと施設の増設による対応には限界があり,司法事例の発生それ自体を予防するための精神科医療全体の体制が重要なことである.この観点は日本の司法精神医療の方向性を考えるうえでも重要と考えられる.

索引用語:フランス, 司法精神医療, 責任能力, 保安監置, 危険性>
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