Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第117巻第6号

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教育講演
第110回日本精神神経学会学術総会
精神療法のための言葉の使用―評価の分かれるところに―
北山 修
北山精神分析室
精神神経学雑誌 117: 465-471, 2015

 時に精神科医には,患者の悲劇の台本を読むという仕事がある.人生には,相手役を変えながら反復している台本があるという考えは昔からある視点であるが,フロイト派の精神分析では,その台本を言葉で読み出して意識化しようというわけである.人生には幼い頃に特別な他者と形成した台本があり,これを対象関係と呼ぶが,この対象関係の反復が,もし悲劇的にいつも繰り返されるのであれば読み取った方がいい.何のために台本を読むのかは,それを考え直し書き直すことにある.しかし,過去そのものを変えることはできない.そして,精神分析には「演技的な」ヒステリー患者から学んだという歴史があり,その最初から劇の比喩で患者の人生を考える劇的観点があったと言える.さらには,心や精神の動きを登場人物の劇として読む視点があり,治療もまた劇となることがある.精神分析でよく使う転移という言葉も,心の台本や対象関係などの治療関係における反復を指すものである.そして分析的セラピストは,治療の場面で起きることに参加しながら理解し,台本の相手役となって劇に立ち会い,時にその与えられた役割を果たしてしまう.児童のためのプレイセラピーの治療関係でも劇の台本は反復し,これを転移の劇化と呼ぶことがあるが,このプレイという言葉には劇と遊びという両義性がある.だから,劇に立ち会いながらの,読み取りと理解が児童治療者の課題となる.そして,この人生物語の台本ををなぞり紡ぎだしていくための言葉が精神分析家の解釈なのである.

索引用語:精神分析, 精神療法, 劇的観点, 転移, 劇化>
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