Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第117巻第12号

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特集 死にゆく患者/遺族に対する精神療法的接近
こころの中に安易に踏み込んではいけないこともある―「否認」をケアすることの大切さ―
明智 龍男
名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学
精神神経学雑誌 117: 984-988, 2015

 がんは1981年にわが国の死亡原因の第1位となり,以降もその座は変わらず,現在ではおよそわが国の国民の2人に1人が生涯のうちにがんを経験し,毎年36万人以上の人ががんで死亡している.がん治療は飛躍的に進歩し,がん患者の5年生存率が約50%にまで向上したが,今日においても,がんはわが国における致死的疾患の代表であり,がんと診断されること自体が大きな精神的苦痛をもたらす.なかでも,身体状態の悪化や死を意識せざるを得ない進行・終末期がん患者には心理的防衛機制としての否認がみられることが多い.否認にもさまざまな程度のものがあり,疾患の存在そのものを認めない「真の否認」から,症状と疾患の関連性を認めないもの,そして疾患の致死性を認めないものという大きく3段階があるが,真の否認はまれである.特に終末期において否認が認められた際には,背景に高度な心理的苦痛が存在することを示唆している.死が差し迫った終末期という特殊な状況においては,不安や抑うつを防衛するうえで適応的なものである場合も多く,こういった際には直接的な介入も不要であり,侵襲的なコミュニケーションを控え,温かく「見守る」ことも重要である.一方で,これら防衛が,患者の治療に関するアドヒアランスを障害したり,精神的苦痛の軽減に有用でない場合など,適応的でなく患者の生活の質を保つうえで著しい妨げとなっている場合には,穏やかで注意深い直面化など治療的介入が考慮されることもある.本稿では,死にゆく患者にみられる否認に気づき,ケアすることの大切さをサイコオンコロジーの視点から論じた.

索引用語:がん, 心理的防衛機制, 否認, 望ましい死, サイコオンコロジー>
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