Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第117巻第1号

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特集 うつ病治療における行動活性化―「休息と薬物療法」を超えていかに導入するか―
うつ病の森田療法―いつ,いかにして行動を促すか―
中村 敬
東京慈恵会医科大学附属第三病院精神神経科/森田療法センター
精神神経学雑誌 117: 34-41, 2015

 本稿では,まずうつ病の森田療法について,治療の実例を含めて紹介した.次いで森田療法と行動活性化療法(BA)との異同を検討し,わが国のうつ病臨床において,いつ,いかに行動を促すべきかを再考した.少なくともうつ病治療のある時期からは建設的な行動を増やしていくことが有効だとの認識は,森田療法にもBAにも共有されている.とはいえBAでは,休息の必要性,および行動活性化を開始する時期については,森田療法のような考慮がなされていない.その背景には過労を誘因とすることの多いわが国のうつ病患者と北米の症例との相違が存在するかもしれない.それとともに森田療法とBAは,依拠するうつ病モデルにも相違が認められる.BAのうつ病理解は,心理学的(行動主義的)モデルと呼ぶべきものである.うつ病の病因は,正の強化の不足と,不快体験の回避による負の強化に見出されるがゆえに,回避=負の強化に主導されたあり方から脱し,正の強化が得られるような行動へと取り組むことが治療の基本的ストラテジーとされる.実際のBAも,投薬などの医学的治療とは別に,主として臨床心理士が実施しているようである.他方,わが国のうつ病臨床は,基本的には医学モデルに依拠している.森田療法によるうつ病治療も,広義の医学モデルに基づくものである.ただし狭義の医学モデルが病因の同定と除去を目標とするのに対し,森田療法は病因ではなく回復過程に着目し,自然な回復力(レジリアンス)を助長することを主眼におくという点で,「健康回復モデル」と呼んだ方が適切かもしれない.また回復の阻害要因として「かくあるべき」の思考を位置づけ,その修正を図るという点では,心理学的モデルを一部組み込んだものということができよう.わが国のうつ病臨床においては,休息と薬物療法を軸にした初期治療の原則と整合性のある心理的援助を,改めて考える必要があるだろう.

索引用語:森田療法, 行動活性化療法, うつ病, 精神療法, レジリアンス>
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