現行の薬物療法の効果には限界があり,そこを補完するのが精神療法的な配慮である.しかし,抗うつ薬に反応しにくい難治性うつ病,あるいは慢性うつ病(例えば,非定型うつ病や気分変調症)に対する狭義の精神療法の有効性は疑わしく,薬物療法との併用によって互いに補完することが期待されるが,難治症例に対する精神療法的配慮の第一歩は,まずは「特効薬」探しを止めることである.その一方で,回復への新たな希望を与え,治療意欲を賦活する必要がある.そのためには,「主役は薬物ではなく,あくまで患者自身であること」を繰り返し確認すること,処方をめぐる患者との対話において薬物療法が彼らの自尊心をさらに貶めないという処置と確認をしておくこと,薬物療法は患者と医師との共同作業であるという意識を高めるように努めることなどに留意したい.薬物療法の「仕切り直し」から患者の生活の「建て直し」という話題へ展開することが望ましく,睡眠や食事,日々の活動スケジュールなど,基本的な生活習慣に対する細やかな助言が有用である.
難治症例の薬物療法における精神療法的配慮―とくに慢性うつ病(非定型うつ病や気分変調症)について―
九州大学大学院人間環境学研究院実践臨床心理学専攻
精神神経学雑誌
116:
764-770, 2014
<索引用語:難治性うつ病, 慢性うつ病, 薬物療法, 精神療法, 心的弾力性>