本特集のテーマは,薬物療法と治療関係との関連について考察することである.本稿では,まず精神分析的な観点から治療関係について考察した.具体的には,治療同盟の構築,自我支持,自家製の病気と医家製の病気という概念を用いている.治療関係とは,患者と治療者とが相互交流を繰り返しながら,協働治療者としての関係を構築していくプロセスである.その意味で,治療関係とは治療の前提となるものではなく,治療の成果である.薬物療法は,アドヒアランスや治療効果という観点から,治療関係の質の高さを量る目安となる.と同時に治療関係を構築するための媒体ともなる.最後に,こうした相互交流の落とし穴となるものとして,精神医学的な知識と経験を挙げた.この落とし穴を避け,治療実践を実り多きものにするのが無知の知である.
無知の知,臨床実践におけるその重要性
慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室
精神神経学雑誌
116:
758-763, 2014
<索引用語:治療関係, 薬物療法, 治療同盟, 自我支持, 自家製の病気と医家製の病気>