思春期の年齢ではじめて臨床の場に登場される方々は,その時点で悩むことがあるからこそ受診されるのだが,しかし患者が語ることによくよく傾聴すれば,実はそこに長い歴史があることが知られる.ずっと以前の乳幼児期において,主観的にはすでにひどく困惑する事態が十分にあって,それをそれとしてまわりには認識されることがないままに年余をへてしまい,やっと今になってそれらへの数々の感情が具体的な形をとって発現しているのである.それは単なる過去の出来事ではなく,今現在もなお,激しくくすぶっている性質のものなのである.さてではどうするのか.赤ちゃんの時以来の写真や記録の類のすべてを患者とともに時間をかけてよく見,よく読む.そして昔からの思い出などを今の時点からふりかえり,考え,話し合ってゆく.その作業自体が治療の根幹をなすと考えられるのである.
第109回日本精神神経学会学術総会
思春期症例の乳幼児期における体験さまざま
医療法人社団清悠会クリニックおぐら
精神神経学雑誌
116:
610-615, 2014
<索引用語:うっ積された思い, 家族の絆, 昔の記憶・記録, 治療戦術>