周期的なクリック音刺激は,聴性定常反応(ASSR)を誘発することが報告されている.ASSRは,γ-アミノ酪酸(GABA)作動性抑制性介在ニューロンの機能を反映しているといわれている.以前から双極性障害患者において,GABA系の機能不全がある可能性について議論されてきたが,ASSRのような神経活動同期性についてはあまり注目されていない.今回の研究では,双極性障害患者を対象として,20 Hz,30 Hz,40 Hz,80 Hzの頻度でクリック音を呈示しASSRを測定した.対象は,14名の双極性障害患者と25名の健常対照者である.全頭型の306チャンネル脳磁計を用い,ASSRのパワーと位相同期性(PLF)を計測した.30 Hz,40 Hz,80 Hzの刺激に対して双極性障害患者では両側性に平均ASSRパワーとPLFが有意に減少していた(p<0.05).20 Hzの刺激に対して,両群間でASSRパワーとPLFの有意差を認めなかった.また,80 Hzの刺激に対する右半球のパワーとハミルトンうつ病評価尺度のスコアの間に有意な負の相関を認めた(rho=-0.86,p=0.0003).今回の研究で,双極性障害患者において,低周波数,高周波数γ帯域刺激に対するASSRのパワーとPLFは両側性に減少し,β帯域には有意差を認めなかった.双極性障害患者におけるγ帯域神経活動同期性の低下は,GABA作動性抑制性介在ニューロンの機能障害と関連があるかもしれない.
精神医学奨励賞受賞講演
双極性障害における,聴性定常反応(ASSR)に関するγ帯域同期性の機能不全についての検討
九州大学大学院医学研究院精神病態医学
精神神経学雑誌
116:
245-253, 2014
<索引用語:双極性障害, ASSR, 脳磁図, GABA>