Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第116巻第3号

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特集 東日本大震災からの復興に向けて―災害精神医学・医療の課題と展望―
災害精神医学に関する研究の課題
富田 博秋
東北大学災害科学国際研究所災害精神医学分野
精神神経学雑誌 116: 231-237, 2014

 東北大学は東日本大震災からの復興と巨大災害の被害軽減に向けた実践的な防災と災害対応に対する科学の礎を築くことを目指して人文科学,社会科学,自然科学にまたがる7部門36分野からなる災害科学国際研究所を平成24年4月に新設した.災害精神医学分野はその中で災害に関する精神医学,心理・社会的側面にかかわる諸問題への取り組みを行う分野として設置された.東日本大震災から2年半以上が経過し,被災地域の復興の途上で,様々なストレス,心身への大きな影響を認める状況である一方で,全国レベルでみれば,関心が薄れ,風化が進んでいることも実感される.このような状況の中,被災地域の精神医学的,心理・社会的諸問題の改善にむけて取り組むべき課題は多く,我々は精神科医として何ができるかを検討していく必要がある.一方,その後も,わが国の風土上,風水害,雪害などの自然災害が毎年のように発生し,海外でも多くの自然災害による被害が発生している.さらに東京の首都直下地震,南海トラフにおける巨大地震などが想定され,このような巨大災害にも備えていかなければならない.これからは,災害精神医学に関する知識の普及や教育の体制を整備していくとともに,今後の備えや災害対応に有用な知見を集積するべく災害精神医学領域の研究を推進していく必要がある.災害精神医学分野では学際連携を積極的に行いながら,基礎医学,臨床医学,社会医学や心理学・情報科学・防災学など関連する学問分野の多角的な研究手法を用いて,下記の課題に取り組んでいる:(1)東日本大震災が被災住民に及ぼした影響の把握と長期支援,(2)メンタルヘルスに配慮した防災・災害対応・復興のシステム作り,(3)災害関連精神疾患の病態解明と有効な状態評価・診断・治療法の開発,(4)東日本大震災と災害精神医学にかかわる情報の共有と次世代へ伝達,(5)災害精神医学に関する国際連携・協力.今後,全国レベルでこれらの課題への取り組みが進み,災害精神医学に関する知識,認識が精神医療保健従事者や社会に広がっていくことで,災害精神医学という学問領域が成熟していくことが望まれる.

索引用語:災害精神医学, 東日本大震災, メンタルヘルス, PTSD>
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