Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第116巻第3号

※会員以外の方で全文の閲覧をご希望される場合は、「電子書籍」にてご購入いただけます。
特集 東日本大震災からの復興に向けて―災害精神医学・医療の課題と展望―
原子力発電所事故後の精神的負担の多様性について―福島県南相馬市からの報告―
堀 有伸1)2), 円谷 邦泰1)2), 金森 良2), 前田 正治3), 矢部 博興4), 丹羽 真一4)
1)福島県立医科大学医学部災害医療支援講座
2)雲雀ヶ丘病院
3)福島県立医科大学医学部災害こころの医学講座
4)福島県立医科大学医学部神経精神医学講座
精神神経学雑誌 116: 212-218, 2014

 震災後の福島県南相馬市の現状について,精神保健の観点からの報告を行った.一般に自然災害が地域社会に与える影響は甚大であるが,災害の内容がそれに限定される場合には,地域の各住人が抱える問題は可視化されて共有されることが比較的容易である.しかし2011年の原子力発電所事故を含む複合災害では,同一地域内でも各住人が置かれている状況に差異が生じている.2011年の事故後に,福島第一原子力発電所から20 km圏内が警戒区域,20~30 km圏内が緊急時避難準備区域に指定された.旧警戒区域内への一般人の立ち入りが許可されたのは,2012年4月からであった.生活インフラは十分に整備されておらず,宿泊は2013年8月の状況でも許可されていない.このような状況は,放射能の低線量被ばくについての考え方や,賠償のあり方の違いと結びつくことで,地域社会に分断をもたらしかねない葛藤をひき起こしている.震災後にこの地域では急速に高齢化が進行した.及川の報告によれば,南相馬市内の居住人口に占める65歳以上の高齢者の割合は2011年3月1日には25.9%だったのが,2013年3月1日には32.9%にまで上昇した.高齢者は郷里への愛着が強く,避難生活を送っても帰郷することを強く求めるが,世代が若くなるほど他地域への移住を選択する傾向が強い.勤労世代の負担も増している.労働に従事する人口は減っているが,震災前から継続していた業務に加え,震災後に新たに発生した復旧・復興のための事業に対応する必要にも迫られ,一部の住民は過労に陥っている.地域社会に余裕がないことは,小児・児童や育児を担当する母親たちの負担も大きくしている.2013年3月末の状況で,震災関連死と認定されたのは南相馬市で406人であった.このように地域への負担が大きい状況では,積極的な精神衛生の向上への関与が行われるべきである.

索引用語:東日本大震災, 原子力発電所事故, 福島県南相馬市, 低線量被ばく, 地域の分断>
Advertisement

ページの先頭へ

Copyright © The Japanese Society of Psychiatry and Neurology