Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第116巻第2号

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特集 向精神薬の適正使用と副作用モニタリング
非定型抗精神病薬/リチウム投与下における血糖/血清リチウム濃度モニタリング
稲垣 中1), 竹島 正2)
1)公益財団法人神経研究所臨床精神薬理センター(現所属:青山学院大学国際政治経済学部,青山学院大学保健管理センター)
2)独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神保健計画部
精神神経学雑誌 116: 130-137, 2014

 非定型抗精神病薬(非定型薬)を使用する場合には血糖値や血清脂質値,炭酸リチウム(Li)服用者では血清Li濃度を定期的に測定して,糖尿病や脂質異常症,リチウム中毒のリスクを適切に管理することがさまざまなガイドラインによって勧告されている.しかしながら,現在のわが国ではこれらの勧告は必ずしも遵守されていない.今回われわれは2006年に実施された「自立支援医療の給付のあり方に関する研究」(以下,自立支援医療研究)において構築されたデータベースを利用して,わが国の精神科外来治療における血糖値,血清脂質値,そして血清Li濃度の測定頻度について検証した.【対象と方法】 自立支援医療研究データベースには全国47都道府県からおおむね人口に応じて抽出された精神科外来患者3,674名の医科レセプトが含まれていた.本研究は研究(1)と研究(2)より構成され,研究(1)では非定型薬服用者における2006年2月の1ヵ月間の血糖値,および血清脂質値の測定率を,研究(2)ではLi服用者における1ヵ月間の血清Li濃度の測定率を算出した.【結果】 研究(1)の対象者は男性228名,女性271名で,平均年齢は45.1歳,対象患者の86.8%が精神病圏であった.研究(2)の対象者は男性70名,女性64名で,平均年齢は49.9歳,対象患者の57.5%が気分障害,36.6%が精神病圏であった.研究(1)の対象者のうち,調査期間中に28名(5.6%)で血糖値測定が,5名(1.0%)でHbA1c測定が,8名(1.6%)で尿糖検査が行われており,これら3種類の検査のいずれかが行われていた者は32名(6.4%)であった.血清脂質値測定が行われていた者は40名(8.0%)であった.研究(2)の対象者のうち,調査期間中に血清Li濃度測定が行われていた者は1名も存在せず,月あたり測定頻度は2.2%未満と推定された.【考察とまとめ】 モーズレイ・ガイドラインでは血糖値,血清脂質値とも年1回以上測定することが勧告されている(月あたり8.3%に相当)が,研究(1)より血清脂質値の測定頻度に関しては勧告通りであったものの,血糖値の測定頻度については勧告より低いことが示された.ただし,米国における調査(2~17%/月相当)と比較するとわが国の血糖値の測定頻度が特に低いとまではいえなかった.一方,血清Li濃度測定については,月あたり施行頻度は2.2%未満と推定された.添付文書やガイドラインの上では血清Li濃度測定は2~6ヵ月に1回程度実施することが勧告されているので,わが国の精神科外来医療における血清Li濃度の測定頻度は明らかに低く,医療安全の観点より大いに改善の余地があると考えられた.

索引用語:リチウム, 血糖値, 血清脂質, 非定型抗精神病薬, モニタリング>
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