近年うつ病研究,ストレス研究の基礎分野において神経可塑性が議論されることが多かった.特に,うつ病治療による脳由来神経栄養因子の発現亢進から海馬歯状回での神経新生が注目された.しかしながら,高次脳機能の障害である精神疾患を考えるにあたり,より広い脳部位での神経可塑性を追求する必要がある.神経可塑性を生み出す機構の候補として自食,オートファジー過程を提唱する.自食は酵母から哺乳類細胞に至るまで保存されている重要機構であり,老朽蛋白・細胞内小器官の回収,再生資源供与を行っている.我々のグループは,まず電気けいれん療法の動物モデルにて検討し,海馬領域でオートファジー信号が亢進していることを確認し,報告済みである.線虫,ショウジョウバエ,神経培養細胞の基礎研究では,細胞内の自食機構によって樹状突起,シナプスの受容体数を含む微細構造が制御されていることが報告されている.神経可塑性においては,神経新生,樹状突起シナプス形成とともに,不必要となった神経連絡を断つことも重要である.精神科における治療過程でも意義をもつ可能性のある現象としてオートファジー過程を紹介する.
精神科治療による神経可塑性へのアプローチ―オートファジー概念の導入―
1)防衛医科大学校精神科
2)宇宙航空研究開発機構宇宙飛行士運用技術部宇宙医学生物学研究室
3)防衛医科大学校防衛医学研究センター行動科学部門
2)宇宙航空研究開発機構宇宙飛行士運用技術部宇宙医学生物学研究室
3)防衛医科大学校防衛医学研究センター行動科学部門
精神神経学雑誌
116:
866-872, 2014
<索引用語:ストレス耐性, 神経可塑性, オートファジー, 脳由来神経栄養因子, アポトーシス>