Advertisement第117回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第116巻第10号

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精神医学のフロンティア
臨床現場の自然史的データから治療効果を検証する:名古屋市立大学における社交不安障害の認知行動療法
古川 壽亮1), 中野 有美2), 船山 正3), 小川 成4), 家接 哲次5), 野田 裕美子3), 陳 峻雯6), 渡辺 範雄7), 明智 龍男4)
1)京都大学大学院医学研究科健康増進・行動学分野
2)椙山学園大学人間関係学部心理学科
3)船山メンタルクリニック/カウンセリングオフィス
4)名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野
5)名古屋経済大学短期大学部
6)School of Psychology, Flinders University, Adelaide, Australia
7)国立精神・神経医療研究センタートランスレーショナル・メディカルセンター
精神神経学雑誌 116: 799-804, 2014

 名古屋市立大学病院こころの医療センターで行った社交不安障害のグループ認知行動療法について,待機期間(A),治療期間(B),追跡期間(A)の3つの状態を比較するABAデザインで治療効果を検証した.私たちのプログラムで治療した患者は,待機期間中には通常療法にもかかわらずほとんど症状の変化はなく,認知行動療法によって症状および社会機能が改善し,治療終結後もその改善は維持された.今回の研究は,日常臨床の中で,単なる前後比較ではなく,多少の論理性をもって自然経過やプラセボ効果による改善ではないことを示せるデザインの研究であるが,次には無作為割付比較試験による検証が必要であると考える.

索引用語:社交不安障害, 認知行動療法, ABAデザイン, 観察研究, 無作為割付比較試験>

はじめに
 名古屋市立大学病院こころの医療センター(精神科)における認知行動療法外来は,2001年夏にパニック障害のグループ認知行動療法から始まった.2002年には対象を社交不安障害と強迫性障害に広げ,その後うつ病,睡眠障害,統合失調症などと守備範囲を広げてきた.不安障害のグループ認知行動療法の立ち上げ時には患者数が集まらず散発的にしかグループを開始することができなかったことが懐かしい.その後,ホームページ,口コミ,なにより新聞・テレビで紹介されるにつれ患者数は漸増し,ピーク時にはパニック障害・社交不安障害ともに数グループを同時に回しても1年近い待ち期間となったこともある.
 名古屋市立大学における認知行動療法外来の特徴は,第一に総合病院精神科の専門外来でありクリニカルサービスであること,第二に最初からリサーチマインドを持った枠組みで行われたことだと思う.2000年代前半,いまほど認知行動療法は広まっておらず,必要とする患者に有効な認知行動療法をはじめてクリニカルサービスとして提供するという使命感があった.一方,だからこそ効果を自分たちでも検証しながら提供できる枠組みにしなくては「ナンチャッテ」認知行動療法に陥る危険性を肌身に感じていたので,系統的にデータを収集し自己検証すると同時に世界に発信するリサーチの枠組みが必須であると考えた.したがって,われわれはパニック障害および社交不安障害のグループ認知行動療法を受けるすべての患者について,倫理委員会の承認を得た計画に基づいた説明同意の上,ベースライン(プログラムへの登録時),治療開始時,治療終結時,終結3ヵ月後,終結12ヵ月後に症状評価をお願いした.これらの臨床研究活動からわれわれは計19本の英文原著論文を上梓した2)3)5-8)12)15)16)19-24)26)27)30)31).上述のごとく,臨床ニーズは確かに存在し,それはわれわれのキャパシティを上回りかねない状況となった中,今度はそのような自然「実験」の機会を逃さず,治療介入の前の通常治療期間(A),治療期間(B),そしてその後ふたたび通常治療を受けている追跡期間(A)の3つの状態を比較するABAデザインでわれわれが提供する社交不安障害のグループ認知行動療法の効果を検証しようとしたのが本研究である.

I.研究の方法および結果
 対象患者は,2004年7月から2008年5月の間に,名古屋市立大学病院こころの医療センターの社交不安障害のグループ認知行動療法を受けることを希望し,治療前から治療後に複数回の症状評価を受けることに書面による同意をいただき,治療を開始した患者62人である.性別は男性31人と女性31人,平均年齢32.5歳,社交不安障害の発症年齢は平均18歳,82%が全般型であった.約10%は登録時に大うつ病があり,33%が大うつ病の既往歴があった.
 ベースライン調査としては,他者評価としてLiebowitz Social Anxiety Scale(LSAS),自記式評価としてSocial Phobia Scale(SPS),Social Interaction Anxiety Scale(SIAS),Fear Questionnaire(FQ),Home and Leisure Activities Scale(WHLS)を実施した.治療開始時にはStructured Clinical Interview for DSM-IV(SCID)の不安および気分障害セクションを施行し,社交不安障害の診断を確認した.治療終結時には開始時と同じ評価を行い,3ヵ月後および12ヵ月後評価には上記のうち自記式調査票のみを郵送でお願いした.
 治療は,シドニー大学Clinical Research Unit for Anxiety and Depressionのプログラム1)をベースにし,その後Clark and Wellsの社交不安障害理論4)を組み入れた全16回,各2時間のグループ認知行動療法であった.各グループは3~4人の患者に対し,原則として治療者1人とコセラピスト1人がついた(コセラピストはしばしば認知行動療法プログラムを学習中の若手治療者であった).プログラムは,①不安および社交不安についての心理教育,②各患者ごとの社交不安障害モデルの作成,③安全保障行動と注意の自己集中をやめる行動実験,④注意訓練,⑤認知再構成,⑥セッション内ロールプレイのビデオフィードバック,⑦実体験曝露を含んでいる.グループ治療開始期前の待機期間,グループ治療中,またグループ治療後の追跡期間中に受ける薬物療法に制限はなかったが,グループ治療中はなるべく薬剤は変更しないよう求めた.
 対象となった患者の待機期間は平均199日(この間68%が薬物療法を受けていた),治療期間は平均125日(平均13.4セッション,84%は10セッション以上の治療を受けた),3ヵ月後追跡にはコホートの74%,12ヵ月後追跡には65%の患者から協力が得られた(3ヵ月後または12ヵ月後の追跡が可能であった46人のうち54%が薬物療法を受けていた).この間に社交不安障害重症度の推移,および社会機能の推移はそれぞれ図1および図2の通りであった.われわれのプログラムで治療した患者は,待機期間中には薬物療法にもかかわらずほとんど症状の変化はなく,治療によって症状および社会機能が改善し,治療終結後もその改善は維持された.

図1画像拡大
図2画像拡大

II.考察
 これをABAデザイン研究と考えると,まさにB=認知行動療法によって社交不安障害が改善することが確認された.またわれわれの治療前後での症状変化の効果サイズ(LSASで0.92,SPSで0.92,SIASで0.98)というのは,(たとえば,Mortbergらのグループ認知行動療法では各0.75,0.64,0.4817))と比較しても遜色のないものであることが確認された.

III.展望
 われわれの研究の最大の弱点は,無作為割付比較試験(RCT)でないことである.2000年代前半,RCTを行うことはわれわれの能力と想像を超えていた.そうした中,単なる前後比較ではない,多少の論理性をもって自然経過やプラセボ効果による改善ではないことを示せるデザインとしてこのABAデザインによる研究を行った.
 しかし,世界はわれわれの想像を超えていた.本研究は5つの雑誌で却下され,Psychiatry and Clinical Neurosciences誌でようやく発表の場を得ることができた.しかし,われわれも努力し進歩した.また,2000年代を通じてRCTを取り巻く日本の医学の環境は大きく変化した.名古屋市立大学においても,部分寛解うつ病に対する短期睡眠行動療法のRCT(Total n=37)を実施し28)29),職域の閾値下うつ病に対する電話認知行動療法のRCT(Total n=118)を実施し10),そして現在大うつ病の第一および第二選択抗うつ薬治療についての多施設RCT(予定n=2,000)を実施中である9)25).いまや世界の医学全体で毎週500本,年間2万本のRCTが発表され,現在実施中のRCTは5万本に上ると推定されている.うち精神医学関係は5%程度を占めている.一方,観察研究の陽性適中率(同じ臨床疑問を扱った,その後の研究のうち,研究デザインがより強力な研究,または同じ強さのデザインであるがサンプルサイズがより大きな研究で真であることが確かめられる確率)は,限りなく0に近いことが,実証研究やシミュレーション研究から繰り返し指摘されている13)14)32).われわれが進むべき道は明らかである.

おわりに
 著者らの現在の所属をみていただくとわかるように,本研究の対象患者の治療に携わった著者たちは,研究のデータ収集から発表までの間に世界中のさまざまな医療機関・大学に散らばった.今回の著者たちがまたチームを組んで,あれほど賑やかにあれほど楽しく,クリニカルサービスを提供することはおそらくもうないだろう.本研究は,第一著者にとって名古屋市立大学での活動を象徴し総括する論文の1つとなったといえる.このような形で総説にまとめる機会を与えていただいた精神神経学雑誌編集委員会に御礼を申し上げて擱筆したい.

 本論文は,PCN誌に掲載された最新の研究論文11)を編集委員会の依頼により,著者の1人が日本語で書き改め,その意義と展望などにつき加筆したものである.

 利益相反 古川は日本イーライリリー,Meiji Seikaファルマ,持田製薬,MSD,ファイザー,田辺三菱製薬から講演料を受けた.積水化学工業,武田科学振興財団からコンサルタント料を受けた.医学書院,星和書店,日本文化科学社から原稿料を受けた.Academy of Cognitive Therapy(Philadelphia)の認定認知療法治療者である.中野は持田製薬,大塚製薬から講演料を受けた.Academy of Cognitive Therapy(Philadelphia)の認定認知療法治療者である.小川は日本イーライリリー,持田製薬,ヤンセンファーマから講演料を受けた.医学書院,世論時報社,医薬ジャーナル社から原稿料を受けた.渡辺は日本イーライリリー,Meiji Seikaファルマ,MSD,ファイザー,大日本住友製薬から講演料を受けた.日本イーライリリーからコンサルタント料を受けた.創元社から原稿料を受けた.明智は日本製薬,アストラゼネカ,グラクソ・スミスクライン,Meiji Seikaファルマ,MSD,大塚製薬,ファイザー,吉富薬品,塩野義製薬,NHKエンタープライズから講演料を受けた.医学書院,南山堂から原稿料を受けた.その他の著者は開示すべきCOIはない.

文献

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