Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第116巻第1号

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原著
統合失調症様の微細な異質性がみられた遷延性うつ病―多次元精神医学の見地から―
田中 伸一郎
杏林大学医学部精神神経科
精神神経学雑誌 116: 15-45, 2014
受理日:2013年10月8日

 本研究では,過去3年間に杏林大学病院精神神経科に入院した男性患者170例の中から,数年にわたってうつ病の外来治療を受けても抑うつ症状が遷延し,入院後に「病前性格-発病状況/ライフイベント-病像-心理検査所見-治療への反応-経過」からなる多面的な評定によって統合失調症様の特徴をもつ遷延性うつ病と診断された15例を対象として調査を行った.その結果,次のことが判明した.初診時の平均年齢は34.3±10.0歳,抑うつ症状の発症年齢は29.5±8.5歳,初診から初回入院までの期間は平均4.9±3.4年であった.病前性格は統合失調気質(Kretschmer)の3標識の2つ以上を満たす「スキゾイド傾向」であり,一見些細にも思えるストレス状況下で過敏性が刺激され,破綻を来していた.病像は,意欲減退を中心とした抑うつ状態(DSM-IV-TRにおける大うつ病エピソードを満たす)に加え,執拗に訴えられるが明細に説明されない身体愁訴,葛藤の内容がはっきりとわからない自殺企図,これまでの生き方や元来のパーソナリティ特性とは結びつかない尊大とも思える言動がみられた.また,表面的で奥行きのない会話や単調で平板な応答などの統合失調症様の質的異常の範疇にあると考えられる症候もみられた.心理検査所見は,WAIS-IIIにおいて病前の社会機能から期待されるよりも認知機能が著しく低下し,風景構成法(LMT)において構成不良や空白が目立つなどの精神病水準であると査定しうる判断材料の一部としての所見が得られた.薬物療法は,効果が不十分であった抗うつ薬から抗精神病薬へと変更されたが,過敏性を基盤とする症状,意欲減退などに対して効果的であるかについては臨床的な示唆の段階にとどまると考えられた.経過は,2例が自殺既遂し,また,3例が降格,4例がデイケアや作業所に通所するなど,統合失調症患者に準じた社会復帰をめざすようになっていた.以上の結果をふまえ,症例呈示において,遷延する抑うつ状態に埋伏する「統合失調症様の微細な異質性」が立ち現れる局面を仔細に記述し,それらが多面的診断の手法によってどのように見出されるのかについて精神病理学的な考察を加えた.

索引用語:心理検査, スキゾイド, 遷延性うつ病, 多面的診断, 統合失調症様の微細な異質性>
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