てんかん患者のおよそ3割は薬剤抵抗性であり,その治療において,てんかん外科手術の有用性は確立している.てんかん外科手術は,発作抑制のみならず,神経精神症状,行動,社会性の問題や,一部の認知機能障害といった,てんかんの併存症にも効果を示すことが示唆されている.しかしながら,国内外における活用は依然として十分ではない.本稿では,まず,てんかん外科の標準的な術式とそのエビデンスを概説する.さらに,近年普及が進んでいるSEEG電極留置術や脳深部刺激療法(DBS)などの新しい外科的介入法を紹介し,現代のてんかん外科の進歩を整理する.これらの技術的発展により,てんかん外科は適応の拡大,治療選択肢の増加,個別化,低侵襲化へと進化し続けている.てんかん外科は薬剤抵抗性てんかんに対する標準治療であり,適切な症例では早期から積極的に検討されるべき選択肢である.現状の進歩と今後の展望を把握することは,日常診療における外科治療の活用促進につながる.より多くの患者に外科治療の恩恵がもたらされることが期待される.
2)横浜市立大学附属病院YCUてんかんセンター
https://doi.org/10.57369/pnj.26-114
受付日:2025年11月29日
受理日:2026年5月8日
はじめに
てんかんは人口の約0.7%に認められる代表的な慢性神経疾患である.そのうち3分の1の患者は生涯のうちになんらかの精神医学的併存症を生ずるとされ,精神科領域ともきわめて関連が深い12).てんかんと診断され,適切な抗てんかん発作薬による治療がなされればおよそ70%の患者で発作が抑制されるが,一方で,残りの約30%の患者は薬剤抵抗性てんかんに分類される.このような群において,てんかん外科治療は有効性が高い治療選択肢であるが,実臨床では十分に活用されているとはいえない.前澤らによる試算によると11),本邦で1年あたりにてんかん外科手術を受けているのは,薬剤抵抗性てんかんのうちの0.56%であり,米国の1.18%と比べておよそ半分程度にとどまっている(米国てんかんナショナルセンターの集計値より,年間手術数を難治てんかん患者数で除し算出.詳細は前澤らの記述を参考にされたい9)11).難治てんかん患者数は,てんかんの有病率およびその約3割が薬剤抵抗性であるという報告をもとに推定されている).米国におけるてんかん外科の過小利用の議論を鑑みると,本邦における適切なてんかん外科手術数は,少なく見積もって現状のおよそ2~3倍に及ぶと想定される.
これらの過小利用の背景にはさまざまな要因が存在する.Samanta, D.らは,てんかん外科の活用を妨げる障壁として,(i)患者要因(手術や手術リスクに対する過度の不安,薬物治療への過度な期待),(ii)医療従事者要因(薬剤抵抗性てんかんの定義や外科治療適応に関する知識・理解の不足),(iii)コミュニケーション要因(外来担当医とてんかん外科施行施設との連携不足),(iv)医学的要因(機能領域と焦点との重複,多焦点性病態,併存症への懸念),(v)複雑性要因(長期かつ複雑な術前評価に伴う時間的・経済的負担)の5つを挙げている17).これらの課題に対して,本邦では厚生労働科学研究費補助金による「てんかんの有病率等に関する疫学研究及び診療実態の分析と治療体制の整備に関する研究」および「てんかんに対する総合的な医療の提供体制整備に関する研究」(研究代表:大槻泰介)において,てんかん診療ネットワークモデルを提唱し19),一次(クリニック),二次(地域基幹病院),三次(てんかんセンター)のてんかん診療施設間の連携を強化し,「2剤1年」を目安として適切な専門医療への紹介を促進することが重要な方策として位置付けられている14).
このような背景のなかで,近年,薬剤抵抗性てんかんに対する外科治療は,その適応範囲や選択肢をますます拡大している.てんかん外科手術は,発作抑制だけでなく,発達・行動・社会性に関する問題や,一部の認知機能障害など,てんかんに関連するさまざまな併存症への効果が示唆されており,精神科領域の診療とも密接にかかわっている.
そこで本稿では,てんかん外科の標準的な術式に加え,近年,本邦においても導入されたSEEGや脳深部刺激療法(deep brain stimulation:DBS)などの最新の動向を紹介し,てんかん外科の全体像を整理する.そのうえで,てんかん外科は標準的治療として用いることのできる有用な介入方法であることを示したい.
I.てんかん外科とは
てんかん外科は,てんかんの起源となる脳領域(てんかん原生領域:epileptogenic zone)を外科的に切除,離断,焼灼,あるいは機能調節することで発作を抑制する治療である.近代的なてんかん外科手術は1886年にSir Victor Horsleyにより開始された.その後,脳波の発見,CT,MRIなどのイメージング技術の進歩,頭蓋内脳波測定技術の確立を経て,今日ではデジタル技術の飛躍的発展と多様なデバイスの開発に支えられ,高精度なてんかん原生領域の診断と機能温存の両立した外科手術となった.さらに,安全性・有効性に向けた取り組みが日々続いている.
現在用いられているてんかん外科手術は大きく以下の3種に分類される(図1).
1.根治術(Curative surgery)
・代表的術式:側頭葉切除術,選択的扁桃体海馬切除術,焦点切除術,多葉離断術,半球離断術,凝固術〔ラジオ波温熱凝固術(radiofrequency thermocoagulation:RFTC),レーザー間質温熱療法(laser interstitial thermal therapy:LITT)〕
・てんかん原生領域が限局し,かつ切除可能な場合に適応される.
・発作消失率に関して最も期待値が高い.
2.緩和術(Palliative surgery)
・代表的術式:脳梁離断術,迷走神経刺激療法(vagus nerve stimulation:VNS),DBS,Responsive Neuro Stimulation(RNS;日本未承認)
・てんかん原生領域が同定困難,限局していない,あるいは限局していても機能温存の観点で切除が難しい場合に適応となる.
・本邦においては,VNSは焦点てんかんと全般てんかんの両者に,DBSは焦点てんかんに適応がある.
・主に発作の頻度や程度の軽減を目的とする.
3.診断的意味合いをもつ手術(頭蓋内電極留置術)
・代表的術式:硬膜下電極留置術,硬膜下・深部電極併用留置術,SEEG電極留置術
・てんかん原生領域の探索・同定および脳機能マッピングのために実施される.
てんかん外科手術に至る流れとして,われわれの施設でのてんかん外科ワークフローを図2に示す.術前検査ののちに,てんかん症例検討会を行い,手術の適応,術式,頭蓋内電極留置の要否について議論する.頭蓋内電極留置を実施した場合は,その記録解析結果も含めて再度総合的に評価し,根治術か緩和術か,さらに具体的な術式をチーム全員で決定する.
II.外科治療の有効性とエビデンス
てんかん外科治療の有効性については,複数のランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)が存在する.根治術に関する代表的なRCTでは,薬剤抵抗性の内側側頭葉てんかん(主として海馬硬化症を病因とする)を対象として,側頭葉切除術と薬物治療単独で比較した結果,1年後の発作消失率は切除術群が58%,薬物治療群が8%と有意な差が示された22).さらに切除群では薬物治療群に比べて介入後のQuality of Life(QOL)が統計学的に有意に優れており,就学・就労状況も改善する傾向が認められた.
小児を対象としたRCTにおいても同様の結果が報告されている.てんかん外科手術群では1年後の発作消失率が77%と薬物治療単独群の7%を大きく上回り,有意な差を認めた5).また,行動面,QOL,社会性の有意な改善を認めた一方で,知能指数には2群間に差はなく,切除による低下は認められなかった.
構造的病変を伴うてんかん(限局性皮質異形成,海綿状血管腫,腫瘍性病変など)においても,外科的介入は有効である.Cochrane systematic reviewによるまとめでは,切除術を受けた患者の64%において良好な発作予後が得られたと報告している21).
本邦のガイドラインでは,「2種類以上の抗てんかん発作薬で,1年以上(もしくは治療前の発作間隔の3倍以上の期間)発作が抑制されない場合,薬剤抵抗性てんかんとして外科治療適応を検討すること」が推奨されており,小児ではより早期の治療を考慮すべきとされている.
緩和術については,本邦で長らく唯一使用可能であったデバイス治療であるVNSが代表的である.VNSの50% responder rate(治療に反応して発作が50%以上減少した患者の割合)は1年後で55.8%とされ,3年後の追跡期間でも緩やかな経時的改善が報告されている10).一方で,発作消失に至る症例は10%未満であった.
術後の成人における神経精神症状に関して,渉猟する限りRCTは存在しない.メタアナリシスやケースシリーズの報告では,術後に抑うつや不安の改善傾向が示されている6)23).
III.新たな外科的介入方法
2020年にSEEGが,2023年に視床前核に対するDBSが本邦で保険適用となった.本章では,それらの外科的介入方法を紹介するとともに,最近,根治術の1つとして用いられ始めているラジオ波温熱凝固術(radiofrequency thermocoagulation:RFTC)について概説する.
1.SEEG
SEEGは,1950年代にフランスのTalairach, J. とBancaud, J. により,定位脳神経外科技術を用いて開発された(classic SEEG).Classic SEEGは主にヨーロッパで発展してきたが,近年,手術用ロボットアームの導入により,robot-assisted SEEGが北米で普及し,世界的に急速にその利用が拡大している.
本邦でも2023年時点で頭蓋内電極留置術の4割以上がSEEGによって実施されていると推計される(NDBオープンデータより著者集計).従来法である硬膜下電極法との違いを表に示す.SEEGは時間効率性に優れるだけでなく,低い合併症率1)13)や,適応症例の拡大(両側・広範な探索,脳深部,MRI無病変症例など)に寄与しており,良好な発作転帰との関連も報告されている18).これらの点から,SEEGは今後さらに普及が進むと予測される.
2.視床前核に対するDBS(ANT-DBS)
Anterior nucleus of the thalamus-DBS(ANT-DBS)はPapez回路の一部を構成する視床前核を刺激ターゲットとするニューロモデュレーションである.ANT-DBSの前向き研究として知られるSANTÉ studyの10年目データでは,発作減少率(7年目)は前頭葉起始86%,側頭葉起始78%と高い効果が示された16).これは刺激ターゲットと推定されるてんかん原生領域とが同一の神経ネットワーク(ここではPapez回路)にある場合,高い治療効果が期待できることを示している.
一方,SANTÉ studyにおいては,有害事象として抑うつ(37.3%,うち3分の2は術前からの増悪),記憶障害(30%,うち2分の1は術前から)が報告されている.また,SANTÉ studyとは異なるコホートを対象とした欧州からの報告(Medtronic Registry for Epilepsy:MORE)においても,抑うつ13%,記憶障害15%と,記憶および気分に関する障害がANT-DBS後の主要な有害事象として報告されている15).これらの結果から,気分および記憶障害への配慮は本治療においてきわめて重要であると考えられる.
さらに,SANTÉおよびMOREのいずれのコホートにおいても,術前から記憶障害や気分障害が約3分の1~3分の2の患者に認められていること,また,他覚的(objective)な抑うつ・記憶障害よりも,自覚的(subjective)な抑うつ・記憶障害の症状が目立つことが特徴として報告されている20).このため,神経心理学的評価に加えて,術前からの精神医学的評価(診察)を行うことが,本治療の安全性を高めるうえで重要な意義を有すると考えられる.したがって,手術適応決定段階から術前評価,術後フォローアップに至るまで,精神科医と脳神経外科医が密接に連携して診療にあたることが望ましい.
加えて近年では,米国を中心に全般てんかんや後部皮質てんかんなど,てんかん病型に応じた新たな視床ターゲットの開発が進められており,今後さらに適応が拡大する可能性がある3)4).
3.RFTC
RFTCは,専用のプローベを推定されるてんかん原生領域に定位的に誘導し,約5 mmの球形凝固巣を作成して治療を行う手技である.脳深部に到達する過程での侵襲性が低く,また,血流による冷却効果で血管閉塞に伴う虚血が生じにくい可能性が示唆されている.これらが合併症率の低減に寄与すると考えられ,低侵襲手術として注目されている.
国内の多施設共同研究では,発作抑制率は1年後で59.1%,最終観察時(中央値:術後27ヵ月)で34.8%であったと報告されている8).なお,欧米ではSEEG電極抜去前に深部電極を用いて凝固を行うSEEG-guided RFTCが提唱されているが,本項で扱ったRFTCとはコンセプトが異なるので注意が必要である.
IV.外科治療の展望と課題
従来法による基本的手技に加えて新たな手法が加わることで,てんかん外科は近年,適応拡大,低侵襲化,個別化へと大きく進展している.
SEEGの普及により,従来は困難であった両側性あるいは広範囲の探索,脳深部症例,MRI無病変症例においても外科治療の可能性が広がった.術前評価技術の進歩と相まって,これまで治療困難とされてきた症例においても外科的介入が有力な治療選択肢となりつつある.
ANT-DBSは,側頭葉や前頭葉,辺縁系が関連するてんかんに対して高い効果が期待でき,病態に応じた治療選択が可能となった.さらに新たな視床あるいは別の脳領域でのニューロモデュレーションターゲットが開発されれば,より個別化された医療の展開が期待できる.
RFTCは周囲組織への影響が少ないという利点を活かして,患者負担や合併症を軽減した「切らずに治す」手術として注目されている.
一方で,これらの新たな外科的介入には課題も存在する.SEEGは脳表における電極配置密度が疎であるため,従来の概念とは異なる脳機能マッピングの考え方が必要であり,現時点では標準化に向けて発展途上である.運動・感覚マッピングに関する報告は蓄積されてきているが,言語や視覚マッピングについては今後の発展が求められている2)7).
ANT-DBSは抑うつや認知機能障害が一定の頻度で発生するため,適応評価の段階から精神科および神経心理学的評価は必須である.そのため,これまで以上に精神科と脳神経外科の連携体制を整備する必要がある.
RFTCにおいては,低侵襲性と発作抑制効果のバランスを高めるため,プランニングや治療戦略の工夫が求められる.
これらの課題はあるものの,現代のてんかん外科治療は,薬剤抵抗性(2剤1年)てんかんに対して,柔軟かつ幅広い適応が可能となっている.エビデンスに基づく,安全で効果的な標準治療として,今後ますます日々の診療で活用されることが期待される.
おわりに
てんかん外科は,薬剤抵抗性てんかんに対してきわめて効果的な治療でありながら,日本では依然として十分に活かされていない現状がある.外科治療に対する正確な理解を深め,適切なタイミングでの紹介や多科・多職種連携を通じててんかん診療に関与することは,患者の人生を大きく変える可能性をもつ.
てんかん外科は,切除術からニューロモデュレーション,そして個別化,低侵襲化治療へと進化し続けている.これらの発展は発作抑制の向上だけでなく,神経精神的症状の改善など,精神医学領域にも貢献する可能性がある.
本稿が,精神科医とてんかん外科の架け橋となり,より多くの患者が適切な治療にアクセスできる未来につながることを願う.
編 注:本特集は第121回日本精神神経学会学術総会シンポジウムをもとに曾根大地(東京慈恵会医科大学精神医学講座)を代表として企画された.
なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
謝 辞 臨床,研究に多大なご協力,ご支援をいただいているYCUてんかんセンターおよび横浜市立大学脳神経外科のみなさま,ピッツバーグ大学のGonzalez-Martinez教授,Aung准教授に深謝申し上げます.
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